インタビュー

子どもが頭を打ったときに見逃してはならない重症疾患―痙攣や意識障害がある場合はすぐに病院へ

子どもが頭を打ったときに見逃してはならない重症疾患―痙攣や意識障害がある場合はすぐに病院へ
天笠 俊介 先生

自治医科大学附属さいたま医療センター  救急科助教

天笠 俊介 先生

この記事の最終更新は2016年10月28日です。

子どもが頭を打ってから意識がなくなったり繰り返し嘔吐をする場合、緊急治療を要する頭蓋内出血、脳挫傷等を発症していることがあります。このような外傷が起こる頻度は高くありませんが、見逃してはならない危険な兆候を知っておくことで、子どもを早く助けられる可能性が高まります。また、日頃から子どもが頭を打たないための工夫をしておくことも非常に重要です。救急現場で多くの患者さんを診療してこられた自治医科大学附属さいたま医療センター救命救急センターの天笠俊介先生にお話しいただきます。

記事1『子どもが頭を打った!どのような症状に注意する?』でご説明した通り、意識がない(あるいはほとんど反応しない)ときは非常に危険な状態です。また、下記の症状がみられる場合には重症疾患の可能性を検討します。

・意識がない(乳児であれば全く泣かない)

・何回も嘔吐する

・けいれんが起こった

・傾眠(呼びかけても目を覚まさない、一度起きてもすぐに眠ってしまう)・ひどい頭痛を訴える

・普段と様子が違う(機嫌が悪い、いつもと違う反応を示すなど)

・四肢の動きが悪い

・見え方の異常を訴える(物が見えづらいなど)

子どもが頭を打った場合、見逃してはならない重症疾患を以下に挙げます。

・頭蓋骨骨折(陥没骨折)

・頭蓋内出血(頭の中の出血)

脳挫傷

びまん性軸索損傷

頭蓋内出血や陥没骨折の場合は手術が必要となることもあります。

脳震盪は一時的な脳の機能障害であり、それだけで重症化することはありませんが、間もなくふたたび頭をぶつけてしまうと脳に重大なダメージが与えられ、最悪の場合は脳に後遺症が残ってしまうことがあるという報告があり、「セカンドインパクトシンドローム」と呼ばれています。

セカンドインパクトシンドロームは、スポーツ中に頭を打ち、脳震盪を起こしている状態(小さな出血が起きているという報告もある)でプレーに戻り、再び頭を打ったときに起こることがあります。

子どもがスポーツ中に強く頭をぶつけた直後はなるべく安静にさせ、プレーに戻さないようにする必要があります。脳震盪を起こした場合、少なくとも1週間前後は子どもの様子をみながらプレーに参加させましょう。重症の脳震盪(意識消失を伴う)の場合は、専門家の指導に従い段階的にスポーツに復帰するほうが安全です。

まずは救急医(または小児科医)が意識の状態や頭、身体の怪我の様子を診察します。明らかな意識障害がなくても、ぼんやりしている、目を合わせない等の気になるところがあれば親御さんから「普段と様子が違わないか」「普段より静かではないか」等を伺うこともあります。

診察後、CT検査をするかどうかは、受傷時の様子や意識の程度、機嫌などから総合的に判断します。

CTを撮るメリットは脳出血の見逃しが少ないこと、デメリットは被ばくの問題があることです。子どもは大人よりも被ばくの影響が大きいことが知られています。また、幼い子どもの場合は検査時に鎮静(薬で眠らせること)が必要になることがあるので、鎮静のリスクも同時に考慮します。基本的には医療者側で撮影をするか否かを決定しますが、親御さんの意見も伺うことがあります。

子どもが頭を打った場合でも、頭の中の出血が起こる割合はそう多くはありません。しっかりと様子を観察して、ここまで述べてきた重症のサインがみられなければ、大きな心配はしなくてよいでしょう。ただし、少しでもおかしいと思うときは子どもを病院に連れてきてください。

親御さんや周囲の方に意識していただきたいのは、年齢ごとに起こりやすい事故の種類が変わるということです。

たとえばまだ歩けない段階の子どもであれば、子どもを抱きかかえている状態で階段を降りるときに、子どもを落としてしまうといった事故が想定されます。これに関してはあまり危険性が認知されていないのですが、子どもを抱きかかえたまま階段を降りると足元が見えないため、転落のリスクが高く、転落による重症度も上がってしまいます。子どもを抱きかかえて階段を降りる際は手に他のものを持たないようにして、片手は手すりをつかむよう心掛けましょう。

また、子どもが寝返りできるようになると、自分からベッドの下に落ちる可能性があります。基本的には柵のないところに子どもを放置せず、目を離さないようにしてください。

ハイハイや歩行ができるようになった段階では、子どもが階段を降りようとして落ちてしまうことがあります。自宅では、階段の最上部と最下部にそれぞれ柵を設置し、確実にそれらを閉めておくようにしましょう。柵のあるベッドやベランダに踏み台となるようなおもちゃや台を置かないことも重要です。

階段を上り下りする際には、親御さんが横に並び子どもの手をつなぐか、狭い階段では子どもより下の段で一緒に昇り降りするといった工夫も予防につながります。

その他、駐車場や道路脇で遊ばせない、自転車を乗る際にはヘルメットを装着させるなど、基本的な交通事故の予防も子どもを守るために大事です。

きちんとこうした対策をすることで、頭部外傷を含め、子どもの事故は格段に減少していくと考えています。

関連記事:「子どもの事故予防―事故を減らすための社会と家庭の取り組み」

稀に、頭部外傷で受診してくる子どものなかに、残念ながら虐待を受けている児童がみつかることがあります。このとき最も重要なのは、「誰がやったか」よりも、「まず子どもの安全を確保すること」です。子どもと、そのご家族の未来のためにも、我々医療者は虐待に気づく責任があると考えています。

「こどもの様子がおかしい」と思ったときは、日本小児科学会が運営する「こどもの救急(ONLINEQQ)」も参考にしてみてください。

 

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