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「救急車のお断り」を激減させた近森病院(高知県)の救急受け入れ体制

「救急車のお断り」を激減させた近森病院(高知県)の救急受け入れ体制
近森 正幸 先生

社会医療法人近森会 理事長

近森 正幸 先生

この記事の最終更新は2017年01月29日です。

病院のベッド数やスタッフ不足などによる「救急搬送受け入れ不能」問題は、日本の社会問題のひとつとなっています。全国に約10年先行して高齢化が進む高知県では、医師の高齢化やマンパワー不足により、救急病院の救急車のお断りが深刻化しています。このような環境下で、年間約7000件の救急搬送を受け入れている近森病院は、高知県全体を支える救命救急センターとして、地域住民から厚い信頼を得ています。過疎化と高齢化が同時に進む地域で、多くの重症患者の命と健康を守り続ける近森病院の特徴的な救急体制について、社会医療法人近森会理事長の近森正幸先生にお伺いしました。

1964年から半世紀以上にわたり救急医療を実践している近森病院は、高知県では「救急のチカモリ」として広く知られています。

現在では、急性期病院としての機能を果たす近森病院に加え、回復期の脳卒中のリハビリを行う近森リハビリテーション病院や整形外科のリハビリ専門の近森オルソリハビリテーション病院、そして在宅サポートの訪問看護や訪問リハビリを設け、密な連携をはかっていますが、これらの施設は7年前に始まった大リニューアル(5か年計画)により一新したものです。

また、近森病院屋上にはヘリポートを設け、機能、規模を拡充して「一般急性期病院」から「高度急性期病院」に医療機能がアップしています。

 

近森リハビリテーションと近森病院の外観
左が近森リハビリテーション病院 右が近森病院 画像提供:近森正幸先生

 

近森病院救急センターの救急車
近森病院 救命救急センター 画像提供:近森正幸先生

 

リニューアルのきっかけは、2011年に近森病院が急性期病院の限界、すなわち稼働率100%に達したことです。

1日の入院単価は8万円を超え、救急車のお断り件数はわかっているだけでも月200~300件にまで膨れ上がっていました。

近森病院を除くと、高知県には救命救急センターとして夜間・休日も重症救急患者を受け入れられる施設は、高知赤十字病院と高知医療センターの2施設しかありません。このほかの救急病院のほとんどは、平日昼間の受け入れのみで手一杯という状況です。

このような状況を打破すべく、近森病院は急性期の病床数を338床から452床に増やし、救急患者さんに対する門戸を大きく広げるためのリニューアルをはかったのです。

この結果、以前から高知県内ではトップであった救急搬送受け入れ件数は、2015年には中四国で3番目となりました。おそらく今年度(2016年度)は、合計で7000件に達するのではないかと推測しています。

ただし、前項で挙げた高知赤十字病院と高知医療センター、そして近森病院は、受け入れ件数を競い合っているわけではありません。3施設では医療者同士が顔を合わせ、密な連携を取りながら、患者さんにとって最も適切な医療を提供すべく役割分担をしています。

救急医療体制は、患者さんの重症度により、一次救急・二次救急・三次救急にわかれています。現在国は二次救急の場合、救命救急センターではなくできるだけ救急告示病院に搬送し、機能を分担するようにしていますが、先述したように、高知県では救急搬送を24時間365日受け入れられる施設は少なくなっています。そのため、私たち救命救急センターでも二次救急の患者さんを受け入れるという、地域の状況に応じた対応をしています。

そのなかで、高知赤十字病院と高知医療センターは重症度の高い患者さんを中心に受け入れる体制をとっており、特に前者は救急の「最後の砦」として機能してくれています。

そのため、ER型の救急外来を持つ近森病院が、ウォークインで来られる患者さんから三次の患者さんまで幅広い患者さんを受け入れる役割を果たしています。

※ER型の救急外来とは:重症度に依らず全ての救急患者さんを受け入れ、トリアージにより、重症度に応じて対応する北米型の救急外来をいいます。ER

近森病院は民間病院ですから、地域の人口減少に対応しながら生き残るための戦略を立てなければなりません。そこで当院は、以前から「救命救急医療に特化する」という戦略を取っています。

悪性疾患や周産期医療は膨大な設備投資を要するため、官公立病院の高知医療センターと大学病院にお願いしています。

ここでも互いに機能分化し、近森病院は民間病院ならではの得意分野といえる「人材マネジメント」と「業務効率化」のスキルを発揮できる救命救急医療に的を絞っています。

四国には倉敷中央病院という1000床のベッド数を持つ大病院がありますが、上記のような取り組みにより、重症患者さんの入院数は、倉敷中央病院と肩を並べています。

リニューアルの際には、ヘリポートを設け、より広い地域の患者さんを受け入れられるよう体制を整えました。この結果、高知県の東部や西部、中山間地域ばかりでなく、愛媛県の宇和島などからも、難しい疾患を抱える患者さんが搬送されてくるようになりました。また、ドクターヘリを用いて当院から県外の大学病院に特殊な治療を要する患者さんをお送りすることもあります。

 

近森病院のドクターヘリ
近森病院のドクターヘリ 画像提供:近森正幸先生

近森病院のハートセンターは、TAVI(カテーテルによる大動脈弁置換術)の症例数も中四国トップクラスといわれており、脳卒中センターは高知県で唯一の神経難病をみられる施設となっていまます。

また、腎・透析センターは透析患者さんが急性期疾患や外傷治療が必要な場合、高知県中から集まっていますし、中四国トップクラスの症例数である外傷センターや消化器病センターといった、診療科の壁を取り払ったセンターを設けています。

 

リハビリ

リハビリテーションの必要性に気付いたのは、先代である父の急逝により私が病院長を引き継いだ1984年と日本でも非常に早い時期のことです。それまで多くの救急病院にはリハビリ機能がなく、結果として重症患者さんは最悪の事態を免れても寝たきりになってしまうことが多々ありました。

高知県は特に高齢者が多いため、私はリハビリの必要性を痛感しており、日本でも先頭に立つ形でリハビリを導入し、近森リハビリテーション病院を開設しました。ここでの活動実績が厚労省に認められ、回復期リハビリテーション病棟の診療報酬が創設され、急性期から回復期、維持期のリハビリの流れが定着し、日本の医療が大きく変わる契機となりました。

ただし、リハビリのみでは、高齢患者さんは消耗してしまい、かえって全身状態が悪くなる危険性もあります。そのため、今から14年前にNST(栄養サポートチーム)による病棟に常駐する管理栄養士中心の栄養サポートを始め、リハビリテーションとの2本立てで行う仕組みを整えました。近森病院が「最先端医療を提供する急性期病院」として全国に知られることになったきっかけは、このリハビリテーションとNSTの導入だったのです。

5年かけて行ったリニューアルの際には、精神障害を持つ方の救命救急医療を進めるため、急性期の精神科医療を行う総合心療センター60床を近森病院に統合し、全病床を512床としました。

精神障害を持つ方の精神科救急をみる精神病院は高知県にも存在しますが、身体疾患もみられる施設は極端に不足しています。

そういうわけで、近森病院では精神障害を持つ方が重症の身体疾患を発症したとき、救急搬送をスムーズに受け入れられるよう体制作りを行っています。

 

近森病院救命救急センターの入口の外観
近森病院救命救急センター 画像提供:近森正幸先生

 

皆さんは「救急外来」ときいて、どのようなイメージを持たれますか。

ほとんどの大学病院などの救急部では、多くの救急専門医と看護師が数名で患者さんをみるという体制をとっています。診療科のなかには、救急には協力しないという科もあります。

これとは異なり、近森病院ではすべての医師が救急に参加する「全員救急」の体制を敷いています。

全員救急を行える理由は、近森病院の内科が縦割りではない「大内科制」をとっているからです。

大病院の内科は「第1内科」「第2内科」……とわかれています。しかし、消化器科や循環器科など、あらゆる専門領域を包括している大内科制であれば、後期研修医は内科に入ると全てのコモンディジーズ(有病率の高いありふれた疾患)を経験する機会を得ることとなります。

結果、総合内科診療医を育てることができ、救急搬送されてきた患者さんをみたときにも、専門医を呼ぶべきか、自分たちで対応できるのか、素早く適切に判断できるようになります。

また、ERの現場では、医師や研修医、看護師だけでなく、救命士、クラーク、ポーターが協力してチーム医療にあたり、必要に応じて臨床検査技師や放射線技師も加わっています。

近森病院の三本立ての戦略のひとつ「チーム医療」の詳細については、記事2『医師・看護師の過重労働を防ぐ!急患受け入れ7000件の近森病院における人材活用術』で詳しくご紹介します。

 

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