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インタビュー

公開日 : 2017 年 03 月 17 日
更新日 : 2017 年 05 月 08 日

副作用が軽減される 放射線治療の先端である動体追跡放射線治療とは

北海道大学大学院医学研究科放射線医学分野 教授
白土 博樹先生

現在、がんの主な治療法は、手術療法、化学(薬物)療法、放射線療法の3つです。今までは手術ががん治療の中心となっていました。しかし、近年は化学療法や放射線療法の研究が進み、より体への負担が少ない治療が可能になりました。

そこで今回は、動体追跡放射線治療の生みの親である北海道大学大学院医学研究科教授の白土博樹先生に、動体追跡放射線治療と、さらに進んだ次世代の治療である動体追跡陽子線治療についてお話をうかがいました。

そもそも放射線治療とは

放射線とは物質を電離する能力を持った電磁波です。放射線治療ではこの作用を利用して、がん細胞のDNAを切断し、消滅させたり、大きく成長しないようにします。手術をせずに腫瘍を消滅させるため、痛みもなく体への負担も軽減できます。しかし、がんの種類や大きさによって放射線の効果や副作用は異なるので注意が必要です。

放射線治療に使われる放射線は、電子線・X線・ガンマ線・陽子線・炭素線

下図のように放射線はまず、光子線電子線粒子線に分けられます。そして、光子線の中には、

・可視光線

・X線

・ガンマ線

・ラジオ波

・赤外線

・紫外線

などがあり、この中のX線とガンマ線が放射線治療に使われています。また、粒子線の中には、

・陽子線

・炭素線

があり、どちらも放射線治療として使用されています。

放射線

日本では年間約25万人の患者さんが放射線治療を利用していますが、X線を利用した治療が、最もニーズの高いものです。続いてガンマ線が4~5万人ほど、電子線はX線と組み合わせる形で約1万人です。そして、陽子線と炭素線は合わせて1万人未満であると思われます。

動く腫瘍にも対応できる動体追跡放射線治療とは

X線を用いた放射線治療は1900年頃から始まりました。1990年代にはガンマナイフ(脳内の腫瘍に向かってガンマ線ビームを集中照射させる装置)など、脳にできたがんに対し高い精度で放射線を照射できる定位放射線治療装置が登場しました。脳深部に病変がある患者さんはリスクが高く手術できないのでですが、こういった高精度な装置の誕生により、このような患者さんにも治療が行えるようになり、放射線に対する副作用も減少したのです。

定位放射線治療装置の登場により、腫瘍の位置が変わらないがんへの治療が可能になったのですが、一方、生理的な現象によって、体内で大きく移動をするがん(肺がん、肝がん、前立腺がんなど)にも同様の精度で、効果的に放射線が照射できる装置が必要だと考えました。

そこで私は、腫瘍のある位置を常に把握しておきながら待ち伏せをし、予定した位置に動いた瞬間、放射線の照射を可能にした動体追跡装置を1998年に開発、動体追跡放射線治療を開始したのです。

従来の放射線治療のデメリット:広範囲照射による副作用のリスク

先に述べたように、肺がん・肝がん・前立腺がんなどの腫瘍は、患者さんの呼吸や心臓、腸などの生理的な動きによって、腫瘍の位置が常に変動しています。そのため、従来の放射線治療では、腫瘍が動くと思われる行動範囲すべてに放射線を照射する方法が一般的でした。しかし、この方法では正常組織にまで放射線が当たってしまうので、強い肺臓炎などの副作用を発症してしまうケースもありました。

X線を用いた動体追跡放射線治療の仕組み 金マーカーの位置によって腫瘍の位置がわかる

動体追跡放射線治療とは、体の外側から放射線を照射する外部照射です。

動体追跡放射線治療の仕組みは、まず腫瘍の近くに2mmほどの金マーカーを埋め込みます。そして、金マーカーの動きをX 線透視装置(胃のバリュウム検査などにも使われている装置)を利用した動体追跡装置で2方向から追跡し、瞬時に自動で金マーカーのある3次元位置(縦・横・高さの3つの座標を使った位置)の計算を0.033秒ごとに繰り返します。

これによって常にリアルタイムで、金マーカーの現在位置が把握できます。金マーカーの動きと腫瘍の動きはほぼ同じなので、金マーカーの動きに合わせてX線を照射すると、腫瘍のみにダメージを与えることができます。

動体追跡放射線治療

患者さんのなかには、体内に金マーカーを刺入することに、不安を持つ方もいらっしゃいます。しかし、北海道大学病院放射線診断科や泌尿器科での10年に渡る研究の結果、安全性とX線透視装置で確実に認識できる視認性を両立させることができましたので、過度に心配する必要はありません。

動体追跡放射線治療のメリットは副作用が軽減されること

金マーカーによって常に腫瘍の位置が可視化できるため、動体追跡放射線治療ではできる限り、正常な組織には放射線を照射しません。そのため、効果的な照射が可能であるほか、従来の放射線治療よりも副作用を軽減させることができます。

また、呼吸機能が悪化した肺がんの患者さんなどは、広域に放射線を当てると肺炎を発症する可能性が高く、今までは放射線治療に踏み切れない場合もありました。しかし、動体追跡放射線治療が開始されたことによって、そうした患者さんでも安心して放射線治療を受けることが可能となりました。

北海道大学病院では1999年より動体追跡放射線治療を臨床に使用し、今までに700人ほどの患者さんへ治療を実施しています。

動体追跡放射線治療は保険が適用される

2012年より動体追跡放射線治療に必要な機器「金マーカー刺入セット」が保険適用されたため、患者さんの金銭的な負担は減少しました。