やけどはだれもが一度は経験したことのある怪我ですが、日焼けやひりひりするだけといった軽症のものから、大きな傷跡を残してしまうものまであり、その種類は非常に幅広いです。こうしたやけどは、どこまでが軽症で、どこからが重症といえるのでしょうか。またやけどの見分け方や、治療方法にはどういったものがあるのでしょうか。
本記事では東京女子医科大学 形成外科 教授・講座主任 櫻井 裕之先生にやけどに関する基礎知識をお伺いしました。
やけどの重症度はやけどの深さと範囲によって決まります。熱によって障害を受けた部分が深いほど、そして範囲が広いほど重症になります。
みなさんがよく耳にしたことのあるⅠ度・Ⅱ度・Ⅲ度という表現はやけどの深さを表す分類方法によるもので、熱傷深度とよばれています。
皮膚にはある程度の厚みがあり、上から表皮、真皮、皮下脂肪組に分かれています。
この皮膚の層のどこまでを損傷したのかによって、やけどの症状や治療の緊急性、そしてその後の治療方法や後遺症が大きく変わってきます。そのためやけどを負った際には、やけどの深度を判断することがとても重要です。
Ⅰ度熱傷は皮膚の最も上側である表皮だけが損傷を受けた状態です。
日焼けや軽症のやけどの場合、皮膚の表皮のみ損傷を受けており、症状は皮がむける、すこしひりひりするといった程度でおさまります。
Ⅱ度熱傷は表皮に加え、真皮にまで障害が及んでいる状態です。
Ⅱ度熱傷の特徴は水ぶくれ(水泡)ができることです。
Ⅱ度はさらに、浅いもの(浅達性Ⅱ度熱傷)と深いもの(深達性Ⅱ度熱傷)に分かれます。この2つは受傷直後に区別することはとても難しいですが、浅達性であるか、深達性であるかによってその後の経過に大きな影響を及ぼすので、医療従事者はこの2つをしっかりと区別しなければなりません。
【浅達性(せんたつせい)Ⅱ度熱傷】
真皮の浅い部分まで障害が及ぶやけどです。
浅達性Ⅱ度熱傷は基本的には2週間程度で治癒します。治癒した跡に全く跡が残らないということではありませんが、色素沈着や色素脱色が残るといった程度でおさまります。
【深達性(しんたつせい)Ⅱ度熱傷】
真皮の深い部分まで障害が及ぶやけどです。
深達性Ⅱ度熱傷では、浅達性Ⅱ度熱傷よりも治癒に時間がかかり、時には3~4週間ほどかかる場合もあります。
深達性Ⅱ度熱傷は真皮の深い部分まで障害を受けるため、やけどの傷跡が赤く盛り上がるケロイドや肥厚性瘢痕を発症する可能性があります。
またやけどが治癒しても、傷跡にひきつれや拘縮(こうしゅく)を起こす場合もあります。ひきつれや拘縮は、美容面の問題だけでなく、範囲が広ければ皮膚のひきつれによって腕が挙げにくい、首を動かしにくいなど、体の動きに影響を及ぼすこともあります。
このように深達性Ⅱ度熱傷はさまざまな障害が起こり得るやけどであり、浅達性Ⅱ度熱傷とはその特徴が大きく異なります。
Ⅲ度熱傷は真皮すべて損傷を受け、さらに皮下組織にまでや障害が及んでいる状態です。
そのためⅡ度熱傷よりもさらに治癒に時間を要し、その後の障害も大きくなります。
一方、熱傷深度とともに、やけどの重症度を決定するもうひとつの要因がやけどの範囲(大きさ・面積)です。どれくらいの深さのやけどを、体表面積の何%に負っているのかを検討することで、重症熱傷、中等症熱傷、軽症熱傷の3つの重症度に分類します
日本形成外科学会によると、自分の手のひらの大きさが体表面全体の1%に相当し、II度熱傷が10個分の大きさ以上(10%以上)、III度熱傷が2個分以上(2%)で入院治療の適応になるとされています。
熱傷深度はどのように判断されるのでしょうか。
基本的に一般の方が、熱傷深度(特に浅達性Ⅱ度熱傷と深達性Ⅱ度熱)を適切に判断することは難しいと考えられます。そのため重症である可能性があるやけどの場合にはやけどの程度を安易に自己判断せず、医療機関を受診することが推奨されます。
臨床では医療従事者が下記のような方法などで熱傷深度を判断しています。
熱傷深度を判断する際、よく行われているのは「やけどを負った部分の痛みを感じるかどうかを確認する」方法です。
皮膚は、表皮・真皮・皮下組織の三層だけで構成しているわけではなく、その他にも汗を出す汗腺、毛穴を構成する毛器官など、さまざまな働きをもった付属器官が存在します。そしてその付属器官のなかには、痛み、感触、温度などを感じとる感覚受容器(知覚神経の終末部分)が存在します。
この感覚受容器は皮膚の表面、つまり表皮に近い部分に多く存在します。そのため一般的に深いやけどよりも、浅いやけどのほうが痛いのです。つまりやけどを負って「痛い」と感じるのであれば、軽症のやけどであるといえます。
そのため昔から、やけどを負った部分の表面に刺激をあたえたとき、あまり痛くないということであれば、深達性Ⅱ度熱傷やⅢ度熱傷を疑う所見であると考えられています。
また、やけどを負った皮膚の血流をみることでもやけどの深度を確認することができます。
皮膚には毛細血管が張り巡らされています。やけどを負うと、それらの毛細血管が障害をうけるため、血管の構造が壊されます。浅いやけどではある程度、血管の構造が保たれていますが、深いやけどになると血管の構造が保たれていません。
こうした血管の構造がどの程度保持されているかを確認するために、皮膚表面をよく観察したり、皮膚を拡大して血流を確認したりすることで熱傷深度を判断することがあります。
上記の方法以外にも熱傷深度を判断する方法はいくつかあります。しかし、一般の方がこうした方法から熱傷深度を判断することは難しいと思いますので、深いやけどを負ったと考えられる場合には医療機関を受診して適切な治療を受けることが望ましいでしょう。
やけどを負った場合にはまず流水で患部を冷やしましょう。
しかし、やけどの範囲が広い場合には、流水で冷やし続けると体温が低下して低体温に陥る危険性があります。そのため、患部が広範囲になるおよぶ場合には、冷やしすぎに注意しましょう。病変の部位や面積をみながら、低体温にならないように冷やす時間を調整しましょう。また衣服に火が燃え移り、やけどを負った場合には、無理やり衣服を引きはがすことはせず、そのまま流水に当ててください。
いずれにしても大きなやけどを負った場合には救急車を呼び、迅速に医療機関へ搬送していただくことが望ましいです。
やけどに限らず、傷口は乾燥させるよりも湿潤させる(湿った状態を保つ)ほうが傷が治りやすいです。こうした乾燥させない治療法を湿潤療法(モイストヒーリング)といいます。
この湿潤療法を行うために、食品用ラップを用いて簡便に湿潤環境を作り出す「ラップ療法」が一般の方の間で注目され、広く活用されました。しかしこのラップ療法には気を付けるべき点があります。それは感染症の問題です。
傷口を湿った環境にするという点ではラップを活用する利点はあります。しかし傷口を十分清潔にしない状態でラップを巻いたり、ラップを巻いたままの状態を長く続けたりしてしまうと、傷口に細菌が繁殖してしまいます。湿った状態は細胞増殖を促し傷口を早期に治癒させるためには優れた環境ですが、細菌の繁殖場所としても絶好の環境になってしまいます。
湿潤療法を行う際には、ラップではなく、被膜材を活用することが望ましいでしょう。近年ではさまざまな種類の被膜材が開発されています。たとえば皮膚の湿潤環境を保ちながら、ある程度水分を蒸散させるものや、殺菌作用を有しているものなどが登場しています。こうした被膜材を活用して湿潤療法を行うとよいでしょう。
どういったやけどから医療機関を受診すべきか、という疑問の回答はとても難しいのですが、基本的にはどの段階のやけどであっても受診されて問題ありません。
東京女子医科大学の形成外科に訪れる方のなかにも、指に少しの熱湯をかけた程度でもご心配されて受診されてくる方もいらっしゃいます。形成外科や、軽症であれば皮膚科などを受診されるとよいと思います。
引き続き記事2では、櫻井先生にやけどのあとの「ひきつれ」の治療についてご解説いただきます。
東京女子医科大学 形成外科 主任教授
関連の医療相談が10件あります
睡眠時無呼吸症候群について
睡眠時無呼吸症候群の症状や検査について教えてください。 ほぼ毎日寝起きの息苦しさ、胸の圧迫感、気管の腫れや痛み、喉のつまり感、鼻詰まりなどのアレルギー症状があります。 だいたい1時間くらいで症状が消えるのですが、たまに1日中続く時もあります。 朝方に息苦しさで目が覚める時もあります。 毎日寝起きが辛すぎて寝るのが嫌になる程です。 心電図や肺のレントゲンは異常なく、肺機能検査で喘息と診断され、吸入薬を使っていますが大きな変化はありません。 病院からは肺のCTを撮ってみるか、体型からは可能性は低いけど睡眠時無呼吸症候群の検査をしてみてもいいかもと言われました。 肺のCTはレントゲンを4回(1回は肺がん健診)撮っても異常がないので息苦しさの原因は肺にはないと思い断りました。 睡眠時無呼吸症候群は私の体型が156センチ、40キロとガリガリなので可能性は低いそうです。 いびきも指摘されたことないし睡眠アプリでもいびきは録音されてないです。 ただ、昼寝をした時(布団以外で寝た時)にたまーに自分のいびきで目が覚める時があるため、毎日じゃなくてもたまにいびきはかいてるみたいです。 息苦しさの原因がわかるなら検査してみるのもありかなと思っているのですが、睡眠時無呼吸症候群の検査はどうやるのでしょうか? 入院して検査するのでしょうか?不眠症でたまに睡眠薬を飲みますが、睡眠薬を飲んで検査はできるのでしょうか? 寝る時、横向きじゃないと絶対に寝れないんですが体勢とか指定されるのでしょうか? そもそも私の今の息苦しさは睡眠時無呼吸症候群でも出る症状なのでしょうか? とにかく苦しくて寝るのも起きるのも苦痛です。
コロナPCR検査
コロナ陽性と接種し濃厚接触者なり、当日から頭痛、2日頭痛、ふしぶし、喉の痛みがあり病院へ抗原検査、PCR検査も陰性だったけど、頭痛の痛みが治りません。どうしてもなんでしょうか?ただの頭痛なんでしょうか?
子宮頸がんワクチンについて
子宮頸がんワクチンを打つか迷っています。 今の年齢では遅いでしょうか? また、HPVは多くの人が感染するウイルスで、自然に消滅すると聞きました。 先日ちょうど性病検査をし、HPVは安静でした。 この場合、過去にかかっていたけど消滅した可能性もあるのでしょうか?それともこれまで感染がなかったということなのでしょうか?
脈が飛ぶ状態が続く
小学生の時からたまに脈が飛んでいるのが気になり、その時は回数が少なかったのであまり気にならなくなったのですが、ここ最近脈が飛ぶような一瞬止まるような感じが続いています。 特に生理前〜生理中が酷く、1分間に3、4回飛んだりしています。 気になったので病院の心電図で診てもらったところ、脈はたまに飛んでるけど異常はないのことでしたが、どうしてもまだ気になっていたので、循環器専門の病院で心電図、聴診器、24時間ホルダーをつけてもらったところ、期外収縮だけど全く問題ない。1日に飛んだとしても100回程度、貴方の心臓は聴診器で聞いても雑音もなく綺麗な音だよ、と言われました。 その言葉を聞いて安心したのですが、どうしても脈が飛ぶとこのまま止まってしまうのではないかと怖くなります。 症状が軽くなる方法はありますか? 本当に大丈夫なのでしょうか?? ネットで良性の期外収縮と言われて安心したのに倒れたという方のコメントを見てから怖いです。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「やけど」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。