
顔に広がったニキビの跡や、過去のリストカットの跡は、「治したい」「叶うことならば消したい」と切実に願い、形成外科を受診する方が多い傷あとのひとつです。これらの治療は、保険適用で受けられるものなのでしょうか。また、レーザー治療と手術、どちらが適しているのでしょうか。
本記事では、ニキビ跡、リストカットの跡、やけどの跡の治療法、それぞれのメリットとデメリットについて、慶應義塾大学病院形成外科教授の貴志和生先生にお伺いしました。
ニキビの跡には軽いものと重いものがありますが、手術適応となるのは非常に重い症例のみです。というのも、手術により皮膚表面を削り取り、新たな皮膚を移植すると、患者さんの顔に新たに手術による瘢痕(傷あと)ができてしまうからです。
形成外科では、ニキビの跡と手術後の傷あとを天秤にかけ、前者のほうが重いと考えられる場合にのみ、保険適用で手術を行います。
保険適用となるボコボコとしたニキビ跡は、女性には少なく、男性の方に多くみられます。若い女性などで、毛穴がある程度開いているようであれば、新たに生じる傷あとを考慮し、手術はおすすめしていません。

手術の傷あとのほうが目立ってしまうと考えられるニキビ跡には、「フラクショナルレーザー」を用います。
フラクショナルレーザーとは、皮膚に細かな点状の穴を開けることで、陥没のあった皮膚の質感をなだらかに整えるもので、ニキビ跡の治療法としては、現在唯一「ある程度の効果があるもの」と考えられています。
レーザー治療では、皮膚の陥没を完全になくすことはできませんが、新たな目に見える傷ができないといったメリットもあります。
尚、フラクショナルレーザーによる治療は、自費診療(保険適用外)になりますので、費用は各施設で異なります。
皮膚に陥没がみられる水疱瘡の跡は、ニキビの跡と似ていますが、前者は小範囲に留まることが多いのに対し、後者は広範囲に及ぶことが多いといった違いがあります。
治療が必要な範囲が小さい場合は、切除手術を行うこともあります。
ただし、こちらも線のような手術の傷あとが残るため、事前にしっかりとご説明し、患者さんの意志により治療(手術)するか否かを決定します。
当科には、リストカット後の傷あとを治したいという患者さんも多数来られます。自傷行為は原則保険適用外であり、リストカットの跡の治療は自費診療で行っています。
どのような傷あとであっても、手術を行えば縫合した跡などが残ります。また、レーザー治療などでは、「ぼかす」ことしかできませんので、傷あとを完全に「消す」ということはできません。
そのため、以前私はリストカットの跡に悩む方々に対し、「元通りにすることはできないという前提で、どのように治療するのが最も理想的ですか?」といったヒアリングをしたことがあります。
この質問に対し、多くの患者さんは、「リストカットの跡だとわからないようにしてほしい」と回答されました。ご本人たちの一番の悩みは、腕に平行に並ぶ傷あとが存在することであり、それがなくなるならば、手術により縦一直線の傷あとが残ったとしても許容できるというのです。実際に、シンプルな手術により手首の平行な傷あとが消えると、患者さんはそれだけで見違えるほど元気になられます。

リストカットの跡の治療というとフラクショナルレーザーによる治療を思い浮かべる方も多いものです。しかし、レーザー治療は「傷あとをぼかす」ような治療法であり、薄く浮き上がった平行の傷あとが残ってしまうため、患者さんの満足度は低いものにとどまっています。
もちろん、これはあくまで多数派の意見であり、実際には目の前の患者さん一人ひとりのご希望や悩みをよく聞いて治療法を決めていきます。
一般的なリストカットの跡(小範囲)であれば、傷あと部分を切除し、周囲の皮膚を寄せて縫合するシンプルな手術を行います。これを切除縫合術と呼びます。
ただし、切除せねばならない範囲が広い場合は、皮膚を移植する必要があります。
植皮術を行う場合、移植片を取った部位にも傷あとが残るため、外部からみえにくい腹部などの皮膚を用います。
離れた部位の皮膚を移植する場合、リストカットの傷あと自体はなくなりますが、腕の皮膚がパッチワークのようになるといったデメリットもあります。
植皮術には全層植皮と分層植皮がありますが、リストカットの跡の治療では、皮膚を厚めにとる「全層植皮」を選びます。全層植皮では、表皮と真皮だけでなく、皮下脂肪も共に移植するため、柔らかく違和感の少ない質感が保たれ、分層植皮のように硬い印象にはなりません。
(全層植皮と分層植皮の違いは記事1『傷あとはどこまで治せるの?写真でみる傷あとの種類と治療法』をご覧ください。)
傷あとの範囲が広い場合、植皮術ではなく、皮膚の下に水風船(組織拡張器)を埋め込み、皮膚を徐々に伸ばしていく「ティッシュ・エキスパンダー」を行うこともあります。
範囲が広く、一回の手術で傷あと部分を補填できない場合は、複数回同じ手術を行います。具体的には、1回目の手術でリストカット跡の中央あたりまでを治療し、1年の期間をあけて、もう一度水風船を埋め込み、今度は残り半分の傷あと部分を治療する、というものです。
基本的に、リストカットの跡の治療は、「今現在リストカットを行っている方」には行いません。規定はありませんが、当科では最後に自傷行為に及んでからある程度年月が経過している人を治療対象としています。
このような例からもわかるように、傷あとができてから年数が経過していても、治療することは可能であり、その治療効果に差は生じません。
やけどの重症度は、I度、Ⅱ度(浅達性Ⅱ度、深達性Ⅱ度)、Ⅲ度にわけられます。

I度熱傷は表皮のみのやけどですから、跡は残ることなく治ります。また、浅達性Ⅱ度熱傷も、損傷が真皮のうち表皮と接する「乳頭層」までにしか及ばないため、受傷後の感染を防ぐことができれば、傷あとは残りません。
跡が残るのは、傷が真皮のうち「網状層」という深い部分まで及ぶ、深達性Ⅱ度以上のやけどです。
やけどを診る診療科は、施設により異なります。当院では最初に皮膚科が診察を行いますが、形成外科がはじめにみるという施設も多々あります。
Ⅱ度以上のやけどでは水ぶくれができるため、まずは内部の液体を抜き、医療用の創傷被覆材で傷を覆います。
密封された傷口からは、治癒を早め表皮の再生を促すための物質が含まれる「浸出液」が出てくるため、治癒スピードはあらゆる治療法のなかで最も早くなります。
このような治療法を「湿潤療法」といいます。
ラップで傷口を覆う「ラップ療法」も、原理は湿潤療法と同じです。また、他の治療法に比べると、圧倒的に安価というメリットもありますが、医療用として認可されたものではありません
また、ラップには創傷被覆材のように「浸出液を適度に吸い取る」という性質はありません。私自身、自宅でけがをしたときに、手近にあったラップを用いたことがありますが、余分な浸出液によって皮膚がかぶれてしまったことがあります。しかし、ここでラップに穴を空けてしまうと、今度は湿潤療法ではなくなってしまいます。
このような理由から、湿潤療法を安全に行うためには、浸出液を吸う性質のある医療用の創傷被覆材を用いたほうがよいと考えます。
また、次項で詳しく述べますが、ラップ療法には感染のリスクもあるため、全てのやけどに対しこの治療法を用いるといった考え方には賛同できません。
重症度の高いやけどの後遺症のひとつに、「拘縮(こうしゅく)」という関節障害があります。たとえば目の下に重い熱傷を負うと、頬が引きつり、目を閉じることができなくなることがあります。また、指が曲がったまま戻らないというケースもあります。
このような症例に対し皮膚を補う手術を行うと、機能面にも改善がみられます。
最近では、一般向けの創傷被覆材も販売されるようになり、湿潤療法の認知度は向上しました。これらを使用すること自体には、問題はありません。ただし、感染を予防するために、使用前には傷口を洗い、清潔さを保つことが重要です。
また、かぶれを防ぐために、浸出液がある程度出て、色が白くなってきたら取り替えましょう。
![]()
現時点では、傷あとを受傷前と同様の皮膚にまで再生させることはできません。なぜなら、なくなってしまった皮膚付属器(毛や汗腺)やきめを元に戻すための技術がないからです。
しかし、上述したように様々な治療法が生まれ、顔や体表にできた傷あとを元に近い状態にまで戻せるようになったことで、患者さんの希望にも変化がみられるようになりました。
「非常に目立つ傷あとが、少しでも目立たなくなればよい」と考えておられた患者さんも、ご自身の外見が受傷前に近い状態になると、今度は「正常な状態と、今」を比べてしまうようになるのです。
顔に残ってしまった傷あとや皮膚の歪みは、他者からもみえるものですので、このような心境の変化が生じるのは当然であると考えます。また、リストカット跡の項目でも述べましたが、ご自身の悩みの根源から解放されることで、患者さんは見違えるほど元気になられるものです。
そのため、私は今、元通りの正常な状態に戻りたいと願う患者さんの声に応えられるよう、正常な皮膚を作り出すための最後のハードル、「皮膚を完全に再生させる」ための研究を進めています。
現在、マウスを用いた研究には成功しており、この技術を成人の皮膚においても応用できるようになれば、傷あとを跡形なく「消す」ことも可能になると考えます。
慶應義塾大学医学部形成外科学教室 教授・診療科部長
貴志 和生 先生の所属医療機関
様々な学会と連携し、日々の診療・研究に役立つ医師向けウェビナーを定期配信しています。
情報アップデートの場としてぜひご視聴ください。
関連の医療相談が10件あります
便潜血、陽性のときの胃からのげん
夏に、便潜血がプラス。 大腸カメラは1年7カ月前にして異常なしでした。医師と相談し大腸のカメラは約一年後にする事となりました。 気になる事があるのですが。 胃の方で便潜血がプラスになることってありますか? 去年バリウムはしたけど、今年はしませんでした。 ちなみに胃カメラとピロリ菌検査は2年5ヶ月前に、して異常なしでした。
おへその中や周りのチクチクした痛みやつっぱり感
1週間くらい前からおへその中やおへそのすぐ外側にチクチクした痛みや突っ張り感が出るようになりました。 寝返りをした時や朝起きた時に伸びをした時、動き始める時に感じることが多いです。 同じ頃から下痢や軟便になり今は便秘3日目です。おへそのすぐ上あたりに何かが詰まってるような苦しさがあり食後にひどくなります。食後苦しくて吐きたいという気持ちになります。 元々、機能性ディスペプシアと過敏性腸症候群があるため、胃腸が張ったり苦しくなったり、下痢や腹痛はよくあるのでその影響かと思っていたのですが、いつもは胃のあたり全体、下腹部全体に症状が出ておへそ周りピンポイントでというのはあまりなかったので気になっています。便秘もたまにはあるけどいつもは快便な方だと思います。 3ヶ月前に虫垂炎になり腹腔鏡手術を受けています。その時退院してから1ヶ月以上、おへそ周りだけ筋肉痛のような痛みやつっぱり感があり、今の症状と似ていて場所も同じです。私の体感は手術後いつの間にか消えていた症状が、何かのきっかけでまた出始めたという感覚です。 手術後3ヶ月以上経つので今頃傷がどうこうというのはないかと思うのですが、他の2箇所の傷はしっかり残っているのでたぶんおへその傷も残ってると思います。見た感じおへその窪みが深くなって縦に細くなったような気がします。 腹腔鏡手術でも癒着はするし腸閉塞になることもあると聞いているので、その不安もあります。 虫垂炎発症前2ヶ月くらい、ひどい便秘が続き手術後に快便に戻ったという経緯もあり、便秘とお腹周りの変化に敏感になっています。 おへそ周りのチクチクやつっぱり感で考えられることって何かあるでしょうか? 仮に癒着してたとして何か症状を自覚できるものなのでしょうか? 機能性ディスペプシアや過敏性腸症候群の影響というのもあるでしょうか? また、どのくらい症状が続いたりどんな症状が出たら受診した方がいいとか、受診するなら何科に行けばいいのかも教えて頂きたいです。
血液・尿検査の結果の相談(MCV、MCHC、カリウム、ケトン)
何時もお世話になりありがとうございます。先日前立腺PSAの値で相談しました。糖尿病の通院もあり、8月21日の検査、その血液検査と尿検査の結果の相談です。ここ10年以上糖尿病がありHbA1cは7.0位で推移しています。今までは血糖値の他は時々ヘマトクリットと中性脂肪とコレステロ-ルが高い値になることはありました。今回は、血液でヘマトクリット54.8↑、MCV102↑、MCHC30.3↓、カリウム3.3↓、尿でケトン1+でした。医師からは「カリウムが低いから、野菜サラダや果物を食べるように、また脱水に気を付けるようにと」話がありました。ヘマトクリットが今までで一番高い値なのと、MCV、MCHC、カリウムという今まで気にもしなかった値が基準値外です。またケトン1+は問題ないのでしょうか?看護師さんからは「朝食事してないからかな~」と言われましたが、そもそも空腹時血糖を計るので食事はしてこないわけです。糖尿病薬のフォシ-ガを飲んでるので尿が近いため水分補給はまめにしています。また野菜やきのこやバナナなどもよく食べてはいると思います。気持ち的には大きな不安はないです、ただ今までMCV、MCHC、カリウム、はひっかかることはなかったので、経過観察でよいのか相談させてください。計算式からするとHtがあがればMCVとMCHCは自然と動く数値なんだと分かりましたので、仕方がないような、だけど少し気になります。カリウムとかはサプリを飲んだ方がよいのでしょうか? ご指導頂きたくお願いします。
睡眠時無呼吸症候群について
睡眠時無呼吸症候群の症状や検査について教えてください。 ほぼ毎日寝起きの息苦しさ、胸の圧迫感、気管の腫れや痛み、喉のつまり感、鼻詰まりなどのアレルギー症状があります。 だいたい1時間くらいで症状が消えるのですが、たまに1日中続く時もあります。 朝方に息苦しさで目が覚める時もあります。 毎日寝起きが辛すぎて寝るのが嫌になる程です。 心電図や肺のレントゲンは異常なく、肺機能検査で喘息と診断され、吸入薬を使っていますが大きな変化はありません。 病院からは肺のCTを撮ってみるか、体型からは可能性は低いけど睡眠時無呼吸症候群の検査をしてみてもいいかもと言われました。 肺のCTはレントゲンを4回(1回は肺がん健診)撮っても異常がないので息苦しさの原因は肺にはないと思い断りました。 睡眠時無呼吸症候群は私の体型が156センチ、40キロとガリガリなので可能性は低いそうです。 いびきも指摘されたことないし睡眠アプリでもいびきは録音されてないです。 ただ、昼寝をした時(布団以外で寝た時)にたまーに自分のいびきで目が覚める時があるため、毎日じゃなくてもたまにいびきはかいてるみたいです。 息苦しさの原因がわかるなら検査してみるのもありかなと思っているのですが、睡眠時無呼吸症候群の検査はどうやるのでしょうか? 入院して検査するのでしょうか?不眠症でたまに睡眠薬を飲みますが、睡眠薬を飲んで検査はできるのでしょうか? 寝る時、横向きじゃないと絶対に寝れないんですが体勢とか指定されるのでしょうか? そもそも私の今の息苦しさは睡眠時無呼吸症候群でも出る症状なのでしょうか? とにかく苦しくて寝るのも起きるのも苦痛です。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「やけど」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。