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薬剤耐性菌から子どもたちを守るために-小児感染症のスペシャリストを育てる

薬剤耐性菌から子どもたちを守るために-小児感染症のスペシャリストを育てる
齋藤 昭彦 先生

新潟大学 大学院医歯学総合研究科小児科学分野 教授

齋藤 昭彦 先生

記事1『抗菌薬(抗生物質など)の多用が子どもに与える影響―下痢、喘息、アレルギーの原因に?』では、抗菌薬や薬剤耐性菌の課題、問題点についてご説明いただきました。

新潟大学医学部小児科学教室 教授の齋藤 昭彦先生は、ご自身がアメリカで経験された小児感染症のコンサルテーションを基に、日本でも適切な抗菌薬の使用や判断ができるよう、さまざまな取り組みをなさっています。

今回はその中でも小児感染症学会の専門医・認定医資格作成への取り組みについてお話を伺いました。

海外の医師・協力

記事1『抗菌薬(抗生物質など)の多用が子どもに与える影響―下痢、喘息、アレルギーの原因に?』でも述べましたように、アメリカでは小児感染症領域のシステム構成がかなり進んでおり、抗菌薬処方に関するコンサルテーションが盛んに行われています。

小児感染症のコンサルテーションシステムとは、日本の主治医制度のように1人の医師が1人の患者さんを診るのではなく、主治医が感染症の専門医に相談できる環境を作ることで、複数の医師がチームになって1人の患者さんを診る制度です。私は実際にアメリカでこのようなシステムを経験し、コンサルテーションシステムは患者さんと医師の双方によい効果をもたらすと感じました。

まず、コンサルテーションシステムは、患者さんに最も適切な診療を提供できる利点があります。私が診療していたサンディエゴの病院では小児感染症の専門医が9名も在籍しており、診断、治療が困難な症例の場合、1人の患者さんに対して、複数の医師の意見交換が行われ、最善の診療が提供されていました。小児感染症の領域は同じ症例であっても、時と場合によって使用される抗菌薬が異なりますし、判断を迷うようなすぐに答えの出ない課題も多々あります。そのような壁に突き当たった際、1人の医師の独断で処方する抗菌薬を決めるより、主治医と専門医が相談し、複数の医師が知恵を出し合って協力するほうが、よりよい成果を出すことができます。

またコンサルテーションシステムを確立させ、小児感染症の症例を限られた施設に集中させることで、そこで研修を積む医師は多様な感染症診療を短期間に多く経験することができます。そのため小児感染症のコンサルテーションシステムは、専門医を育てるには最適な環境を提供し、教育面でも大きな役割を果たします。

現在日本でよくみられる主治医制度にももちろんよいところはあります。患者さんと医師との信頼関係が厚く、患者さんが医師に安心してさまざまなことを相談できる環境にあると思います。その一方で、日本の主治医制度では常に主治医の一存で治療が決められますから、その治療が本当に適しているのか、主治医は常によりよい治療方法を模索しているのか、明確に判断することができません。

さらに、小児感染症の場合、日本には専門家を育成できる環境がほとんどありません。既存の施設には感染症科という診療科がない場合が多く、大学などで特定の感染症を研究している医師はいても、小児感染症を系統的に学び、総合的に診療できる医師は、数少ない現状があります。

さらに、小児感染症の領域には先天性感染症、小児の敗血症、予防接種、免疫不全、小児の薬物動態など大人の感染症とは異なった、小児ならではの疾患や病態があるにも関わらず、その専門性や重要性が十分に認知されていないという問題もあります。

抗菌薬を正しく使い、薬剤耐性菌を少しでも減らすためには、日本においても小児感染症を系統的に診ることのできる医師の育成が急務です。

そこで近年、私が所属する日本小児感染症学会では、若手医師が目標とする小児感染症専門医の専門性を明確にするため、本物の専門医を育てるための専門医制度を作り、その制度がスタートしています。

このような専門医を育てるプログラムを発足し、取り組みに参加してくれる施設を募集したところ、全国28施設から応募がありました。そして実際にこの28施設では2017年4月より、プログラムが始動しています。各施設はプログラム始動から3年後、2020年に行われる試験に向けてし、症例数の確保と医師の教育に力を入れていきます。

専門医の役割は前述のコンサルテーションシステムを牽引し、日本の制度として根付かせることです。感染症に罹患している患者さんを主治医が1人で診るのではなく、小児感染症の専門家が主治医からのコンサルテーションを受け、感染症領域の診療に協力し合い、チームで一丸となって診療できる環境を作っていきます。この取り組みは患者さんに適切な治療を行なううえで、また、日本全体のこれからの医療のあり方を考えるうえで、重要です。

コンサルテーションシステムを最初に始めたのが、私の前任地である国立成育医療研究センターで、その後、東京都立小児総合医療センターでも同様の活動が始まりました。その後、それらの施設でトレーニングを受けた医師が、現在、幾つかの施設でそのシステムの普及に尽力しています。このようにして、日本全国の小児専門医療施設、あるいは大学病院で、小児感染症のコンサルテーションシステムを展開できるよう、専門医の先生にはリーダー的な存在として活躍していただきたいです。

また、小児感染症学会では専門医制度と同時に認定医制度も設けており、この制度も来年度より実施する予定です。認定医は、より裾野の広い制度として、小児の頻度の高い一般感染症や予防接種について、指導できる医師を認定する制度とする予定です。

上記のような体制を整え、小児感染症を網羅的に診ることができる医師が育ち、その認知が広まることで、最終的には小児感染症学会の専門医・認定医資格が、日本専門医機構認定の専門医資格となることを目指しています。

小児感染症学会の専門医・認定医として求められる素質は、学問に対する意欲はもちろんのこと、何よりも他の職種の方々との協調性であると思います。特に感染症専門医の第一の使命であるコンサルテーションとは、相手の話をしっかり聞き、相手の立場をよく理解した上で、自分の推奨を的確に提示することができなければ成り立ちません。相手の話や気持ちを理解できなかったり、自分の意見を通そうとしてしまったりすると、関係が上手くいかなくなってしまいます。

また、コンサルテーションの難しいところは100例中1例でもコンサルテーションで推奨したことで、患者さんに負の影響が出てしまうと、依頼された医師からの信頼を失ってしまうことです。自分の発言をコントロールでき、人と一緒に強調して物事を進めていける、そして、探究心の強い医師に適性があると感じています。

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