仲井培雄先生は芳珠記念病院理事長として病院を率いるだけでなく、地域包括ケア病棟協会会長という全国の地域包括ケア病棟をまとめる立場にいらっしゃいます。
本記事では地域包括ケア病棟会会長の立場から、地域包括ケア病棟が誕生した経緯や従来の病棟との考え方の違い、病棟の機能について教えていただきました。
人口減少、少子化、超高齢社会、地域格差などさまざまな問題に直面しているため、日本の医療は治す従来型医療から治し支える生活支援型医療にシフトしつつあります。
2017年4月の地方厚生局への届け出によると、生活支援型医療を支える地域包括ケア病棟は全国で1,894病院あり、福岡県、兵庫県、東京都、大阪府の順に多く、一部地域を除き太平洋ベルト地帯近郊に増え続けています。推定病床数は6万床あり、今後急性期・回復期機能を担う特定入院料の中で届出数が最大の病棟になっていくと予想しています。
従来型医療と生活支援型医療の定義には、ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health:国際生活機能分類)を活用しました。
生活機能の低下や障害の原因は、老年症候群、フレイル、障害児・者等、疾病、外傷や先天的要因などさまざまで、治療方針決定や治療過程のなかで必要な支援が少ないタイプの医療を従来型医療と定義しました。
たとえば、これまで健康上の問題がなかった50歳の女性が脳梗塞による麻痺をおこしたものの、t-PA(血栓溶解療法)による治療を受けて著効し、2日後には普段の生活に戻れたというケースが該当します。
これは科学的根拠に基づき十分な効果が認められる治療法で、急性期を乗り越え、疾患の治癒を最終的な目標にしています。
生活支援型医療とは、治療方針決定や治療過程のなかでより多くの生活支援を必要とするタイプの医療で、年齢は不問ですが若者よりも75歳以上の高齢者が多いです。
たとえば、50歳代から高血圧や糖尿病などの慢性疾患を抱えていた介護度5の75歳の男性が、脳梗塞を繰り返し発症したことにより寝たきりや認知症を発症したとします。あるときこの男性が脳梗塞を再発し救急車が呼ばれ、かかりつけ医の判断により在宅療養後方支援病院に搬送され、保存治療と在宅・生活復帰支援を受けて退院、その後は在宅療養を継続しているケースは、生活支援型医療に該当します。
本ケースのような在宅支援型医療は患者のかかえる身体的・精神的な問題の洗い出しと改善方法について、患者・家族と医療者が対話を介して双方が納得する方法を一緒に考え実践するナラティブ・アプローチが重視されています。
これまで元気だった方が病気になった場合、以前のように元気な状態になり社会復帰していただくため従来型医療が求められ、後遺症が残れば生活支援型医療が必要になります。
同じ脳卒中であっても、患者さんによって治療のゴールは異なります。これには、病気を発症する前の患者さんの健康状態や日常的な生活支援の程度が大きく関係しているためです。しかし現行の制度では発症前の状態を考慮していないため、どちらも治ったという状態で一括りにされています。
生活支援型医療では、入院契機となった疾患を発症する前から介護等の生活支援が必要な方が主な対象となることが多いです。こうした方々は病気を発症するごとに要介護度が進むため、リハビリテーションを行っても元気な時の状態に回復することはありません。そのため生活支援型医療では、入院前の状態と比べて、患者さんがどれだけ改善したかを示す改善度が重要だと考えています。
地域包括ケア病棟の理念は、ときどき入院、ほぼ在宅であると考えています。患者さんには基本的にご自宅等住み慣れた環境で過ごしていただき、必要に応じて入院し、十分な支援のもとですみやかに在宅・生活復帰していただくことです。
この理念を貫き、地域包括ケアシステムの構築と地域医療構想策定の要となるのは、利用される患者さんと医療従事者にとって使い勝手のよい病棟です。私はこれを、最大で最強の地域包括ケア病棟と呼んでいます。
地域包括ケア病棟は4つの機能を備えています。
3つの受け入れ機能と2段階の在宅・生活復帰支援機能からなり、それらは①②④の中核機能と③の周辺機能に分類されます。
長期間にわたる急性期の治療や回復期におけるリハビリテーション(以降リハ)を要する患者さんを受け入れる機能です。
年齢に関係なく、在宅や介護施設で療養生活中の生活支援が多い患者さんを緊急に受け入れします。
周辺機能(緊急時)と周辺機能(その他)に亜分類されます。
周辺機能(緊急時)は、日常的な生活支援の少ない方を緊急に受け入れます。
周辺機能(その他)は、がん化学療法、緩和ケア、手術等の予定入院患者を受け入れます。
院内多職種協働と地域内多職種協働による二段階の支援を行ない、素早く在宅・生活に復帰できるように支援します。
入院患者に対し、リハ、口腔ケア、栄養指導、認知症ケア、減薬調整、服薬指導等の退院支援や調整を多職種が協働して提供することです。
特に退院後の生活を見据えて実施する生活回復リハ(POCリハ※)は、認知症やサルコペニア・がん・悪液質の患者のリハ等に効果が期待されています。
※POCリハについて、仲井培雄先生に芳珠記念病院の例をご紹介いただきました。詳しくはこちらから。
『芳珠記念病院について-石川県能美市の地域医療とまちづくりに参画』
60日以内の在宅・生活復帰を目指し、医療ソーシャルワーカーやケアマネジャーが中心になり在宅サービス提供のための段取りをします。
十分な在宅サービス提供のためには、地域における多職種協働が欠かせません。そのため地域の医師会や拠点病院といった医療機関だけでなく、自治体、保健所、社会福祉協議会など地域の行政のリーダーによる円滑・活性化が求められます。
つまり、地域包括ケアシステム構築や生活支援のためのまちづくりは、地域包括ケア病棟が持つ機能であると同時に地域から求められる役割でもあるといえるでしょう。
地域包括ケア病棟協会では、地域包括ケア病棟を有する病院の機能を調査するため、病院機能を3つに分類し、2016年にフローチャートに基づいた調査・集計を実施しました。
10対1一般病棟以上の急性期病棟を有していて、施設全体として、急性期機能を最重視していることが条件です。地域包括ケア病棟がポストアキュートや周辺機能を担っています。。
施設全体として実患者数の半分以上が他院からのポストアキュートであることが定義です。全施設に併設施設があります。回復期リハビリテーション病棟・療養病棟の併設が80%以上と他の2つより多いです。
急性期CM型とPA連携型のどちらでもないことが定義です。両型の中間の機能を示しています。自宅や介護施設等で療養している患者さんの症状悪化や比較的軽症な内科的・外科的疾患を受け入れています。
地域包括ケア病院は、全病棟全病室が地域包括ケア病棟の病院であり形態分類となります。そのため集計上は(再掲)となります。本調査では、機能は地域密着型でした。
最大の病棟の理由は、冒頭にお示ししました。瀬ここでは現在私が考える最強の病棟についてお伝えします。
地域包括ケア病棟は、利用者の患者さんだけでなく医療従事者の立場から見ても特徴的な設備や何かに特化した機能を持ち合わせていません。その反面使い勝手が良く、懐の広い病棟です。一般生活者の視点から充実した在宅・生活復帰支援を提供できる最も急性期に近い病棟だと思っています。
利用者である患者さんに3つの病院機能のうち、どの病院機能を明示して、病院内にある他の機能を持つ病棟や、訪問・通所・入所型といった施設を活用し、さらに地域包括ケア病棟の4つの機能を駆使して実践します。
病院の理念を追求し地域に誇れる機能を維持しつつ、地域包括ケアシステムに対するニーズや地域医療構想のニーズに応えることができます。評価と基金と期待がついている最強の病棟です。
医療法人社団和楽仁 芳珠記念病院 理事長、地域包括ケア病棟協会 会長
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