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75歳からを高齢者と定義する 老年医学会の提言 なぜ定義は変わったのか
日本老年医学会とは、老年医学に関する研究の振興及び、知識の普及などを目的とし、1959年に発足した学会です。そして、老年医学では、2017年1月に、75歳以上を高齢者と定義する提言を発表しました...
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75歳からを高齢者と定義する 老年医学会の提言 なぜ定義は変わったのか

公開日 2017 年 06 月 12 日 | 更新日 2017 年 06 月 13 日

75歳からを高齢者と定義する 老年医学会の提言 なぜ定義は変わったのか
大内 尉義 先生

国立公務員共済組合連合会虎の門病院 院長

大内 尉義 先生

日本老年医学会とは、老年医学に関する研究の振興及び、知識の普及などを目的とし、1959年に発足した学会です。そして、老年医学では、2017年1月に、75歳以上を高齢者と定義する提言を発表しました。この提言は、高齢者について、国民の間で議論するきっかけとなりました。

今回も記事1『超高齢社会の問題 高齢者の診断・治療を研究する「老年医学」とは?』に引き続き、虎の門病院院長及び、一般社団法人老年医学会名誉会長の大内尉義先生に、この提言の目的や背景を中心にお話しいただきました。

老年医学会は高齢者の年齢に関する提案を行った

日本老年医学会は、2017年1月に「高齢者の定義と区分に関する、日本老年学会・日本老年医学会 高齢者に関する定義検討ワーキンググループからの提言」を発表しました。具体的な内容としては、従来の高齢者の定義である

  • 65歳~74歳 前期高齢者
  • 75歳~89歳 後期高齢者
  • 90歳~       超高齢者

という考えを改め、以下のように75歳から高齢者と定義するというものです。

  • 65~74 歳 准高齢者  准高齢期 (pre-old)   
  • 75~89 歳 高齢者  高齢期  (old)    
  • 90 歳~   超高齢者  超高齢期 (oldest-old, super-old)

超高齢社会は、将来的には若い世代が1人で1人の高齢者を支えなくてはならないことや、年金制度が崩壊する危険性があるといった、暗いイメージで語られています。そのため、この提言の一番の狙いは、国民がこんなにも元気になっているということを科学的に明らかにし、世の中を明るくしようというものです。

以下では、この提言がどういった経緯で作られていったのかをご説明します。

「65歳以上が高齢者」という概念は1956年の社会をもとにつくられた

多くの先進国では、65歳以上を高齢者とする定義が浸透しています。しかし、法律で高齢者の年齢を定めているわけではありません。

1956年にWHO(世界保健機関)が、65歳以上の方が人口の7%を超えたら高齢化社会と定義する(14%超え高齢社会)と定めたものに基づいています。

当時の平均寿命は、欧米では70歳前後、日本では62歳前後でした。そのため、65歳から高齢者という定義は当時の人々のイメージと合致しており、浸透していったと考えられます。

65歳が高齢者ということに違和感をもつ時代となった

しかし、2015年の日本人の平均寿命は83.7歳です。1956年と比較すると20年ほど伸びています。高齢者と定義される年齢の方でも元気な方が多く、周囲や本人でさえも、65歳から高齢者といわれることに違和感を持っているという声も聞こえます。

「65歳から高齢者という定義は時代に合っていない」という問題意識を、老年医学会は10年ほど前から持っていました。

ワーキンググループを立ち上げ客観的なデータを収集する

そこで、老年医学会は2013年に高齢者の定義を再検討するワーキンググループを立ち上げ、高齢者の定義について話し合いを開始しました。いくら高齢の方々が元気で若がえっている印象を多くの方が持っているとしても、我々は学者ですから、客観的なデータをもとに話をしなくてはなりません。そのため、様々な専門家の方の協力をあおぎ、高齢者に関するデータを持ち寄りました。

このワーキンググループに参加した専門家は、心理学、精神医学、基礎医学、歯科医学、看護学、社会学などの方々です。歩く速度、握力、具体的な体力、認知能力、歯の本数、疾病罹患率、要介護度などの多くのデータが集まりました。

このようなデータを総合的に検証すると、現在の高齢者の方は、20年ほど前の方々と比較すると体や脳の年齢が若くなっていることがわかりました。それぞれの指標により、総合的に何歳若返っているのかを判断することは困難ですが、短くても5歳、10歳ほど若返っているものが最も多く、場合によっては20歳も若返っているものもありました。

65歳くらいから74歳くらいまでの患者さんは、疾患のある臓器を治せば自然に社会復帰できるケースが多数です。しかし、75歳を過ぎた患者さんの場合、一部の疾患を取り除いても、自然に社会復帰をすることが困難になる方が多いという、現場の医師の印象とこの新しい定義はよく合致しています。

国民の意識を調査する

 

身体・脳が若返っているというデータと、医師の印象だけではなく、国民の方々自身が高齢者の年齢についてどう考えているのかということも非常に重要です。そのため、我々は、内閣府が5年に1度行っている高齢社会白書*という報告書にある結果を参考にしました。

高齢社会白書…1996年から毎年政府が高齢化の現状や対策を調査し、国会に提出している報告書。

ポイントとなる質問の内容は

  1. 高齢者というのは何歳以上だと思いますか
  2. 支えられるべき高齢者は何歳からですか
  3. 高齢者になっても働きたいですか

というものです。

1の質問に対して、65歳以上と答えた方は男女ともに、5%ほどしかいませんでした。そして、男性では70歳以上、女性では75歳以上という回答が最も多い結果となりました。なかには、80歳や85歳という回答もありました。

2の質問に対する回答は、高齢者だと感じる年齢+5歳程度が最も多い結果となりました。このことから、国民の意識としても65歳から高齢者といわれることに違和感を持っているということがわかりました。

そして、3の質問の回答では、働きたい、働けるうちは働きたいという答えが最も多い結果でした。働きたいと答えた方のなかには、経済的な余裕がないから働かざるをえないというケースと、経済的な余裕はあるが、自分のモチベーションを高めるために働きたいという2種類が存在します。その2つがどれくらいの割合なのかということはわかりませんが、必ずしも生活のためだけに働きたいと考えている方だけではないということはわかります。

社会との関わりを持つことで自立度が上がる

年齢がいくつになっても、仕事をしている、ボランティア活動に参加している、または頻繁に外出をするという方は、認知症になりにくく、自立度が高いというデータがあります。他人や社会と関わりを持つことは、個人の健康にもよいことなのです。

元気で働けるうちは働いたほうが健康によいということを認知してもらうことも、この定義のもう1つの狙いです。

75歳一律年金引き上げの根拠になるのでは?と懸念する声もあった

今回の高齢者を75歳からとする定義を発表した際、国民の間で様々な意見が飛び交いました。一部では、75歳一律年金引き上げの根拠に使われることを懸念する声もありました。しかし、我々が考えていることは真逆のことです。

まず、暗いイメージで語られる高齢社会を明るいものにしていきたいという思いが、我々の一番の目的です。そして、個人の健康と年金制度を維持していくという目的もあります。元気で働ける、働きたいという方には、しっかりと働く場を用意すべきです。また、そういった高齢の方々が働ければ、年金の負担額が減ります。そして、同じ高齢者でも、疾患を患っている方々に年金をまわすことができ、若い世代の負担も減少するのです。

高齢者は多様性が大きい 75歳はあくまでも高齢者の目安

大内尉義先生

75歳になったからといって、一律に全員今日から高齢者というのは、おかしなことです。高齢者は、元気な方から、フレイル*の方まで、多様性が大きいことが特徴です。そのため、現在は、暦年齢で65歳、75歳と分けていますが、本当は、老化度で高齢者か否かを分けたほうがよいという考えもあります。しかし、老化度を正確に測ることは非常に困難であるため、暦年齢を使用せざるを得ないという面があるのです。

*フレイル…高齢になるにつれて、生理的予備能が低下すること。フレイルについての詳しい説明は記事3『老年医学会が目指す高齢者医療のかたち フレイルの提唱や薬物療法ガイドラインの作成』でご説明します。

暦年齢で75歳以上が高齢者という定義は、あくまでも目安です。一人ひとりの生活機能をしっかりと見て、准高齢者、高齢者、超高齢者を判断していくことが大切です。

老年医学会では、高齢者の定義だけではなく、フレイルという言葉の提示や、高齢者の安全な薬物療法ガイドラインの作成といった活動も行っています。記事3では、これらの詳しい説明、高齢者医療の課題と理想について説明します。

 

老年医学(大内 尉義 先生)の連載記事

昭和48年、東京大学医学部卒業、内科研修の後、東京大学第3内科に入局し循環器病学を専攻。昭和60年米国テネシー大学生理学教室に留学し、高血圧の基礎的研究に従事。翌年帰国後、東京大学老年病学講師、次いで平成7年同教授に就任。老年医学、循環器病学、骨代謝学、認知症学の診療、研究、教育にあたった。平成17年~27年日本老年医学会理事長、平成19年~25年日本老年学会理事長を勤めた。