成人先天性心疾患の患者さんが安心してこれからの生活を送るためには、循環器科(成人循環器)、小児科(小児循環器)、総合内科、救急科(救急総合診療部)といった病院全体の診療科でサポートしていく施設が必要です。そこで横須賀市立うわまち病院は、2013年12月に成人先天性心疾患センターを設立しました。
記事1『成人先天性心疾患とは 種類や後天性心疾患との違い』に引き続き、横須賀市立うわまち病院 小児医療センター長の宮本朋幸先生に、成人先天性心疾患センターの概要や特徴についてお話を伺いました。
成人先天性心疾患の患者さんは1年間で約9,000人ずつ増加しています。しかし、幼いころに手術などを行い、現在は元気だからと、継続的な通院をしていない患者さんが多くいらっしゃいます。しかし、先天性心疾患の方は、一般の方に比べると心不全などの心疾患を発症するリスクが高く、また生活習慣病など他の疾患を併発した際の治療にも注意すべき点があります。女性の場合では、妊娠・出産において特別な準備が必要です。
そのため、成人先天性心疾患の方が、今後の人生を安心して暮らしていくためには、成人先天性心疾患の患者さんを全体的に診ることのできる体制が必要です。
横須賀市立うわまち病院では、成人先天性心疾患の患者さんを病院全体でサポートしていくために、成人先天性心疾患センター(GUCH[Grown Up Congenital Heart disease]センター)を設立しました。2016年の時点で当センターに登録している患者さんの数は31名(男性13名、女性18名)で、年齢は15歳から53歳までとなっています。
成人先天性心疾患とは、先天性心疾患の患者さんが成人になられた状態です。そのため、年齢が成人だからという理由から、成人の循環器の専門家だけが診療を行っている施設がほとんどです。
しかし、小児のときにどういった心臓の状態だったのかなど、小児特有の疾患について精通している医師が少ないため、何か問題が発生したときの対応が不十分になってしまう可能性があります。そのため、成人先天性心疾患センターでは、成人の循環器の医師だけではなく、小児の循環器の医師も診療にあたっています。
成人先天性心疾患の患者さんのなかには、成人の循環器の医師だけでは不安に感じ、成人になっても小児科に通っている方もいます。当センターでは、成人・小児どちらの医師もいることで、そのような患者さんにも安心して通っていただけます。
また、先天性心疾患の成人患者さんは、糖尿病をはじめとする生活習慣病の併発や、不整脈などで突然倒れてしまうケースもあります。そのため、循環器科の医師だけでなく、総合内科、救急科(救急総合診療部)、リハビリテーション科、心臓血管外科といった、さまざまな科で組織され、どのような場合でも対応できる体制を整えています。
うわまち病院は、各診療科の連携がスムーズな点が強みのひとつです。そのため、先天性心疾患の成人患者さんの調子が悪くなった場合、まずは総合内科に依頼をします。そして、総合内科の医師が、患者さんを診て診断を行い、必要に応じて小児科(小児循環器)、循環器内科(成人循環器)、その他の専門医などと相談をしながら治療を進めていきます。
また、救急科(救急総合診療部)ともしっかりとした連携体制を作っています。救急科(救急総合診療部)はどのような患者さんでも広く受け入れます。それが先天性心疾患の成人患者さんだった場合は、必要な処置をしながら小児科、循環器科と連携をとりながら治療をします。
成人先天性心疾患の患者さんが、昔から通っている自宅から遠く離れた病院や小児科に通い続ける理由に、自分の体の状態をわかっている先生が現住所の地域の診療所にいないという点が挙げられます。
そのため、成人先天性心疾患センターで集めた患者さんの情報は、地域の診療所の医師にも共有しています。病院連携がしっかりしているうわまち病院の患者さんは、成人先天性疾患センターに来ていただかなくても、患者さんの状態を把握している近所の医師に普段は診てもらうことが可能となります。
・地域の診療所という選択肢
情報の共有を行うことで、うわまち病院の成人先天性心疾患センターだけを患者さんの選択肢にしないということも重要です。たとえば、情報の共有を行わず、成人先天性心疾患センターにしか、患者さんの病状を理解している医師がいないという状態だとします。
すると、もし成人先天性心疾患センターの医師が何らかの理由で患者さんを診ることができなくなったとき、患者さんについて知る医師がいなくなってしまうのです。患者さんのデータが共有できていれば、どこの施設でも、それぞれの患者さんの疾患について理解した医師に診てもらうことができます。そのため、情報を地域の診療所の医師にも共有することで、うわまち病院成人先天性心疾患センターしかその患者さんを診ることができない、という事態を回避しています。
そして、地域の診療所では対応できない事態が発生した場合は、成人先天性心疾患センターに連絡が入り、こちらでアドバイスや対応をします。このような理由から、成人先天性疾患センターでは、地域の診療所との連携を非常に重要視しています。
成人先天性心疾患の患者さんが、妊娠・出産をする場合は、事前の準備が必要です。そのため、成人先天性心疾患センターは産婦人科との連携も行っています。患者さんが子どもを希望する場合は、成人先天性心疾患センターを受診し、CPX(心肺運動負荷試験)*などを実施して、妊娠・出産に耐えられる体であるかという予想を立てます。そして、さまざまな検査の結果をみながら、妊娠・出産時の母体管理をサポートします。
CPX(心肺運動負荷試験)……運動をした際の、心電図、血圧、呼吸中の酸素、二酸化炭素の分析をすることで、対象者の体力を測定する検査。先天性心疾患の患者さんに対して、CPXの結果をもとに、適切な運動量を示すこともある。
医療技術の発達から、先天性心疾患の患者さんの多くは、元気な状態で成人へと成長しています。しかし、今後の人生を安心で楽しく生きていくためには、もしものときのために、しっかりとしたサポート体制が必要です。
横須賀市立うわまち病院の成人先天性心疾患センターは、他科とも密に連携をとり、地域病院との連携も十分に行っている、患者さんを第一に考えたセンターです。不安を抱えている方はぜひ一度、相談にいらしてください。また、現在の主治医の紹介があるとスムーズに情報共有や診療を行うことができますので、できるだけ紹介状をご用意ください。
横須賀市立うわまち病院 副管理者・小児医療センター長
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