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加齢黄斑変性とは——原因・症状・治療法を解説

加齢黄斑変性とは——原因・症状・治療法を解説
佐藤 拓 先生

高崎佐藤眼科 院長

佐藤 拓 先生

目次
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この記事の最終更新は2017年09月18日です。

加齢黄斑変性は、加齢によって網膜の中心部(黄斑(おうはん))に障害が起きる眼疾患です。ものが歪んで見える、中心が暗く見えるなどの症状が現れます。加齢に起因するものであるため、ある程度歳を重ねると誰にでも発症するリスクがあります。誰にでも起こりうる加齢黄斑変性の原因や症状、治療について、群馬県高崎市の高崎佐藤眼科 院長 佐藤 拓先生にお話を伺いました。

加齢黄斑変性とは、加齢とともに、ものを見るときの網膜の中心部の「黄斑」に障害が現れる病気です。黄斑が存在する網膜はカメラでいうとフィルムのような役割を担っており、目から入ってきた光を電気信号に変換して脳に伝えています。その結果、私たちはものを見ることができます。

特に黄斑には前述のとおり多くの神経が集まっています。そのため黄斑の細胞が加齢により障害を受ける(萎縮型)、黄斑部の脈絡膜新生血管(異常な新生血管)から血液の成分が漏れる(滲出型(しんしゅつがた))といったことが起こると視野に障害が現れるのです。日本人の加齢黄斑変性の患者さんのほとんどは、老化に伴う異常な新生血管の発生により血管が破れてしまう、滲出型加齢黄斑変性です。

正常な人の眼底画像

正常な目の眼底画像(佐藤 拓先生ご提供)

加齢黄斑変性の目の眼底画像

加齢黄斑変性を発症した目の眼底画像(佐藤 拓先生ご提供)

加齢黄斑変性は、日本では約70万人が罹患しているといわれています。統計によると、日本人の50歳以上の80人に1人が発症する病気です。日本人の中途失明原因としては第4位で、欧米では中途失明原因の第1位といわれています。

このように加齢黄斑変性は進行すると失明の恐れのある病気であるにもかかわらず、実際はあまり知られていません。しかしながら高齢化により年々患者数は増えており、誰もが発症する可能性のある病気であることは一般の方にもぜひ知っていただきたいと感じています。

 

ファーストフード

加齢黄斑変性は加齢が主な原因ではありますが、そのほかに誘因となるものがあります。

たばこに含まれるニコチンには新生血管の増殖などを促す物質(血管内皮増殖因子)の分泌を促進する作用があります。そのため、喫煙者は非喫煙者と比べて加齢黄斑変性を発症するリスクが高いことが分かっています。

欧米型の食生活により、高脂肪な食事を取る機会が増えてきました。高脂肪食も加齢黄斑変性を引き起こす原因と考えられています。脂質の過剰摂取を続けると、体が酸化していき新生血管が増殖しやすくなってしまうのです。

そのほか、日光を浴びることも加齢黄斑変性の原因の1つであるといわれています。

加齢黄斑変性の患者さんの見え方

加齢黄斑変性の特徴的な症状は、以下のとおりです。

  • 視界の中心部だけが歪んで見える(変視)
  • 中心部が暗く見える(中心暗点)

ものが歪んで見えたり、中心が暗く見えたりするため、人やものの見わけがしにくくなる、文字が読みにくい、段差でつまずいてしまうといった症状が出ます。症状も、突然現れて急激に進行していくタイプや、徐々に見えづらくなるタイプがあります。

加齢黄斑変性はその名のとおり加齢に伴い発症する病気であることから、このような症状が出ても「老眼だろう」と思ってしまい、受診機会が遅れてしまう患者さんもいらっしゃいます。しかし、老眼では視界の歪みや中心部の暗点といった症状は現れません。ですから、加齢黄斑変性では痛みの症状が出ないためつい受診を先延ばしにすることもあるかもしれませんが、上記の症状が出た際には、必ずすぐに眼科を受診してください。

症状が進行すると視力の低下や色覚異常が起こり、治療を施さなければ患者さんの約90%が視力0.1以下となってしまい、社会生活が困難になってしまいます。

視力低下の有無を調べます。近視による視力低下でない場合は、めがねやコンタクトレンズで矯正しても視力が上がりません。矯正しても視力が1.0に満たない場合は、加齢黄斑変性を含む眼疾患が疑われます。

視界の歪みや視界の暗点を発見するための検査です。中心に小さな点のついた格子状のシート(アムスラーチャート)を片目ずつ見て、歪みなどが起きていないか確認します。歪みが起きている場合は格子がぐにゃぐにゃと歪んで見え、暗点が起きていると中心が暗く見えます。

アムスラー検査についての詳細は、記事2『加齢黄斑変性の予防とセルフチェック——ものが歪んでみえたら注意!』をご覧ください。

倒像鏡や眼底カメラを用いて目の奥の網膜や血管の状態を観察して、病変がないかを調べます。

フルオレセイン蛍光造影(佐藤拓先生提供)

フルオレセイン蛍光造影(佐藤 拓先生ご提供)

インドシアニングリーン蛍光造影(佐藤拓先生提供)

インドシアニングリーン蛍光造影(佐藤 拓先生ご提供)

造影剤と呼ばれる色素を体内に注入し、通常の眼底検査では見えない血管や血液の流れを見て、病変の有無を調べます。造影検査は通常の眼底検査よりも細かく眼底の状態を見ることができますが、造影剤でまれにアレルギーを起こす方がいらっしゃるため、なかには使用できない患者さんもいらっしゃいます。主に網膜の状態を検査するフルオレセイン蛍光造影と、脈絡膜の状態を検査するインドシアニングリーン蛍光造影があります。加齢黄斑変性の正確な診断にはその両方を用います。

正常な目のOCT画像

正常な目のOCT画像(佐藤 拓先生ご提供)

加齢黄斑変性を発症した目の眼底画像

加齢黄斑変性を発症した目の眼底画像(佐藤 拓先生ご提供)

光の干渉を利用することによって目の組織の断面図を見ることができる検査です。針を刺す、造影剤を使うといったことなく、ただ専用の装置で目を撮影するだけで断面図を映すことができます。そのため患者さんへの負担が軽い検査で、近年の眼科の検査でメジャーなものになっています。OCTによって細かな断面図を見ることができるようになったことから、眼科検査の精度は飛躍的に向上しました。

加齢黄斑変性ではOCTを行うことによって、どの部分にどのくらいの深さから出血が生じているのか、どの程度出血しているのか、どこに新生血管があるのかといったことを即時に見つけることが可能です。

造影剤を用いた眼底検査と異なり、リスクや痛みもなく検査は一瞬で終わります。

加齢黄斑変性は、網膜の中心に水が溜まる中心性漿液性脈絡網膜症(ちゅうしんせいしょうえきせいみゃくらくもうまくしょう)と症状が似ており、近年までは専門家でもその鑑別が難しいといわれていました。しかし、OCTの登場とその機能の進化により、鑑別可能になってきました。

中心性漿液性脈絡網膜症では水が溜まるだけに対し、加齢黄斑変性は新生血管が現れます。そのため、同じく水が溜まっていても、新生血管があれば加齢黄斑変性、新生血管がなければ中心性漿液性脈絡網膜症と鑑別できるようになってきています。従来の造影検査に加えて、OCT angiographyという新しい検査で鑑別しています。

OCT angiographyでみた加齢黄斑変性の画像

OCT angiographyで見た加齢黄斑変性の画像(佐藤 拓先生ご提供)

 

加齢黄斑変性には萎縮型と滲出型がありますが、萎縮型に関しては2017年現在、まだ有効な治療法がありません。そのため今回は、滲出型の加齢黄斑変性の治療法についてご紹介します。

加齢黄斑変性において現在行われている治療法は、光線力学的療法、抗血管新生療法(抗VGEF薬治療)です。かつては高出力のレーザーを照射して新生血管を焼灼(しょうしゃく)するレーザー治療や、新生血管を外科的に抜去する手術も行われていましたが、視力低下、網膜剥離のリスクがあるため、現在行われることはほとんどありません。

光線力学的療法はレーザーを使用した手術ではありますが、レーザーの光に反応する薬剤を点滴し、主に新生血管に集まる薬剤の特性を生かして低出力でも効果的に新生血管にアプローチできる治療法です。網膜に障害が残らない程度の低出力のレーザー照射で治療効果が得られるため、視力低下のリスクが少ないです。

光線力学的療法を受ける場合は2日間の遮光が必要になります。その理由は、光に反応する薬剤の効果が全身に及び、日光などに過敏に反応してやけどなどが生じてしまう副作用があるためです。そのため薬剤が体から抜けるまでのあいだは、なるべく直射日光に当たらないよう、注意して生活する必要があります。

抗血管新生療法

近年、加齢黄斑変性の治療で一般的なものは抗血管新生療法(抗VEGF薬治療)です。この治療は滲出型加齢黄斑変性の原因である新生血管に間接的にアプローチすることで新生血管の増殖を抑えます。

私たちの体の中には、新生血管の増殖や成長を促す血管内皮増殖因子(VEGF)という物質があります。抗血管新生療法では、加齢黄斑変性で増加したVEGFのはたらきを抑制する薬剤を目に直接注射することによって、VEGFの新生血管の増殖や成長を抑え、まるで草木が枯れるように新生血管を小さくすることができます。

抗血管新生療法が今までの加齢黄斑変性治療と大きく違う点は、早期発見の場合は一度低下した視力を回復することができる点です。早期に発見し治療を開始できれば、視力回復の可能性が高くなります。また、注射による治療のため、外来で治療を受けることが可能であり、仕事や家庭と両立しながら治療を受けられます。

しかしながらこの抗血管新生療法は、一度注射をして効果が永続するものではなく、回復した視力を維持するためには定期的に注射を打ち続ける必要があります。治療の間隔は症状に応じて調節され、通常2〜3か月ごとに注射をします。近年は注射しながら通院間隔を調整するTreat and Extend療法か、毎月定期検査をしながら再発時に注射するPRN療法が推奨されています。

抗血管新生療法に使われる抗VEGF薬は、1本あたり約15万円です。保険適用で自己負担額が約4万円(3割負担の場合)と、決して安いとはいえない額です。最近では、光線力学療法と組み合わせる抗VEGF併用光線力学的療法でより長期に効果が持続することが分かっています。そのため、治療回数を減らしたい場合は併用療法を推奨しています。

佐藤 拓先生

冒頭で述べたように、加齢黄斑変性は加齢が主な原因で起こるものです。高齢化が進む昨今、日々診療するなかで患者数は増えていると感じています。

加齢黄斑変性は時には失明に陥る、眼疾患の中でも重篤なものですが、検査や治療の進歩により早期発見・早期治療で良好な視力を守れるようになってきました。ですから、ものが見えにくいといった目の異常を感じたら決して放置せず、眼科を受診してください。

人間は、情報の約80%を目から得ているといわれています。もし失明してしまった場合、目から情報を得られなくなったことによって脳が刺激されなくなり、認知症の発症・進行が早まるというデータもあります。

医療の発達により長生きできるようになった今だからこそ、病気と上手に付き合い健康に生きることのできる健康寿命の延伸が次の医療や社会の目標です。皆さんには、内科のかかりつけ医はだいたいいらっしゃることと思います。内科だけでなく、ぜひ眼科のかかりつけ医(目のホームドクター)を持っていただき、気になることがあれば気軽に相談してください。

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  • 高崎佐藤眼科 院長

    日本眼科学会 眼科専門医

    佐藤 拓 先生

    1996年群馬大学医学部卒業後、群馬大学眼科研修医、公立富岡総合病院につとめる。1998年より群馬大学眼科医員、同助手(現助教)、同講師をつとめた。その後2016 年からは眼科クリニック高崎佐藤眼科を開業し、加齢黄斑変性の診断・治療から、硝子体・白内障の手術、硝子体注射、眼科一般診療まで、大学病院で行っている診療を身近に、快適に、患者さんへ提供することをモットーに、患者さんとご家族と一緒に病気に対して向き合う「二人三脚の医療」を行うことで、信頼される眼科クリニックを目指している。

    佐藤 拓 先生の所属医療機関

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