インタビュー

心因性発熱とは? ストレスが原因となって起こる解熱剤の効かない病気

心因性発熱とは? ストレスが原因となって起こる解熱剤の効かない病気
岡 孝和 先生

国際医療福祉大学医学部心療内科学 主任教授、国際医療福祉大学成田病院 心療内科

岡 孝和 先生

この記事の最終更新は2017年10月04日です。

心因性発熱(しんいんせいはつねつ)とは、主にストレスが原因となって起こる体温上昇を指し、機能性高体温症とも呼ばれます。発熱のメカニズムは大きく炎症性とストレス性の2種類に分けられ、風邪による発熱の場合、サイトカインという物質が関係しており、解熱鎮痛剤が効果を現します。一方でストレスが原因となる心因性発熱は交感神経の作用で起こるため、解熱鎮痛剤が効かず、周囲からも仮病と誤解されやすいことが問題になっています。心因性発熱とはどのようなメカニズムで起こり、風邪による発熱との違いはどこにあるのでしょうか。数多くの心因性発熱の患者さんを治療してこられた、国際医療福祉大学病院心療内科教授の岡孝和先生に、心因性発熱についてお話しいただきました。

ストレス過多でうな垂れている人

心因性発熱とは、急性もしくは慢性的なストレス状況下に置かれたとき、その人の平熱以上※に体温が上昇することをさします。

心因性発熱という病名そのものは1900年代から存在しており、ひとつの疾患として認識されていたものの、当時は風邪による発熱とのメカニズムの違いが解明されていませんでした。

2017年現在、心因性発熱は風邪による発熱と全く異なるメカニズムで生じることが知られており(詳細は後述します)、交感神経機能の亢進が体温上昇に大きく関係することから、機能性高体温症とも呼ばれています。一般的なストレス反応の一種であり、誰でも心因性発熱を引き起こす可能性があります。

2013年に全国17施設で実施された不明熱(原因不明の発熱)の研究調査によると、121名の不明熱の患者さんのうち、3名(2.5%)が心因性発熱と診断されました。つまり、100人中2.5人は心因性発熱によって体温上昇が起こっていると予測できます。

心因性発熱は性別や年齢を問わず、子どもから高齢者まで起こる可能性があります。特に子どもの場合は、高熱になりやすい傾向があります。なぜなら、幼少期は熱産生の機能が大人に比べて発達している時期であるため、些細な刺激でも体温を上げる機能が大きくはたらくからです。

 

※そもそも発熱とは何度から?平熱・発熱の定義

一般的に37.0度以上を発熱と考えている方が多いのですが、日本人腋窩温(わきの下で測定した体温)を調べた研究によると平熱が37度台後半を示す方も少なくありません。また体温は日内変動や性周期による変動があり、測定部位や測定機器の影響も受けるため、一概に「何度以上が発熱で、何度未満が平熱」と述べることは困難です。厳密な意味では、感染症や炎症性疾患にかかることによって体温のセットポイント(設定温度)が上昇し、その結果、その方が元気なときの体温の変動範囲よりも高い状態になったとき、発熱と考えます。

解熱鎮痛剤

冒頭で述べた通り、心因性発熱と通常の風邪による発熱では、発熱のメカニズムが異なります。体温上昇のメカニズムが異なるために、風邪による発熱の際に有効な解熱鎮痛剤が、心因性発熱には効果を示しません。

では、これらの発熱のメカニズムは具体的に何が異なるのでしょうか。風邪による発熱と心因性発熱の違いを下記にご説明します。

一般的な風邪(感冒)は、細菌やウイルス感染によって引き起こされます。

風邪にかかった際、人の体内でまず、マクロファージという免疫機能が動きます。マクロファージは白血球の一種で、体内に侵入したウイルスや細菌と闘うために、サイトカインという物質を放出します。サイトカインが免疫機能を活性化させることで、免疫細胞は次々とウイルスや細菌を倒していきます。

サイトカインは免疫機能の活性化以外にもさまざまな作用をもたらします。発熱(体温上昇)は、サイトカインによって生じる反応のひとつです。

サイトカインは、脳の血管内皮細胞のサイトカイン受容体に作用し、プロスタグタンディンE₂という発熱のメディエーター(仲介者)となる物質の生産を促します。プロスタグタンディンE₂が視床下部視索前野に信号を送り、EP₃受容体に作用すると、熱産生反応が亢進し、放熱反応が抑制されるため体温が上昇します。これが、風邪による発熱のメカニズムです。

炎症性サイトカインの作用によって、脳は体に対して休息を取るよう指令を出します。すると、「シックネス反応」という一連の症状(無気力、食欲不振、行動抑制、倦怠感など、風邪の際に一般的に現れる諸反応のこと)が共通して現れます。風邪をひいた方を目の前にした周囲が、その方の体調不良を認識できる理由は、このシックネス反応がみられるためです。

一方、心因性発熱の場合、細菌やウイルスとは無関係に起こるストレス性の体温上昇ですから、サイトカインやプロスタグタンディンE₂の産生を伴いません。心因性発熱の体温上昇は主に交感神経の亢進による褐色脂肪細胞の熱産生によって生じると考えられています。

解熱鎮痛剤にはプロスタグタンディンE₂を作り出す酵素であるシクロオキシナーゼの産生を阻害する作用があります。そのため、風邪の際のサイトカインによる発熱に対しては、解熱鎮痛剤が効果を現します。しかし心因性発熱ではプロスタグタンディンE₂が関係しないため、解熱鎮痛剤を投与しても効果がみられません。

また、サイトカイン放出を伴わない心因性発熱では、上述のシックネス反応が生じないので、たとえ高熱があった場合でも、患者さんはぐったりしておらず元気そうにみえる場合があります。

このため周囲から病気と認識されず、仮病と誤解されてしまうことも残念ながらあります。

ストレスにもさまざまな種類がありますが、特に緊張を引き起こすストレスは、心因性発熱の原因になりうると考えられます。

孤独な子供

かつて心因性発熱は、過剰適応といって、親や教師から過剰な期待を受け、それに応えようと頑張り続ける「良い子」に多くみられる病気でした。しかしながら現在は、学校でのいじめ、家庭での虐待やニグレクト、両親の不和、発達障害に関連した学校生活への適応困難から生じる心因性発熱も多くなってきています。

いずれの場合も、こうした状況に置かれた子どもは、常に緊張状態を強いられます。心因性発熱は、その慢性的な緊張によるストレス反応のひとつといえます。ですから、心因性発熱の子どもは、腹痛や頭痛などの他のストレス性症状も訴えることが多いです。

過労気味な中年

成人の場合、心因性発熱をきたす主なストレス要因は職場や家庭での人間関係、過重労働や介護があげられます。特に中高年以上では仕事と介護の両方のストレスを受けている方もいて、不眠症やうつ状態を合併していることもあります。

詐熱とは、本当は熱がないにもかかわらず、何らかの手段を用いて発熱の状態を作り、他者に熱があることを訴える状態を指します。

心因性発熱と詐熱は、ともに心理的な要因が関係する高体温ではありますが、病態概念は大きく異なります。

心因性発熱はあくまで心理的なストレスによる生理的反応であり、患者さんはその熱を治療してほしいと思っています。

その一方で詐熱の患者さんは、高体温で何もできないことが必要な状態です。これを疾病利得といいます。何かその方にとって回避したい状況があるために、実際は熱がないにもかかわらず、体温計を操作して熱があるようにみせかける方もいます。

このように、詐熱は患者さんが意図的に熱のある状態を作りだしていることであるのに対して、心因性発熱はストレスに対する生理的反応あり、患者さん自身が治療を望んでいる点が異なります。

とてもしんどそうな大人

先に述べた通り、発熱を何度以上と定義することは難しく、熱の高さで治療介入の必要性を判断することはできません。心因性発熱の治療では、その方が熱のあることを苦痛に感じ、治療してほしいと思っているかどうかが重要になります。

腋窩温が37.7度以上を発熱とする考え方がありますが、それ以上の高体温であっても無症状で元気に活動できる方もいます。しかし心因性発熱の患者さんの中には、37.7度以下の体温であっても、たとえば36.9度から37.2度に熱が上がると急激に強い倦怠感を覚える方がいらっしゃいます。

この場合、患者さんは、多くの人にとっては平熱の範囲内であっても、わずかな体温上昇を苦痛に感じており、治してほしいと思っていらっしゃるため、「平熱の範囲内だから、気にしないように」という保証ではなく、治療が必要です。

また、心因性発熱では熱以外にもストレス性の反応としての諸症状(頭痛や腹痛、睡眠障害)がみられます。

高熱で寝込んでいる子ども

心因性発熱は、慢性的に微熱程度(37~38度)の高体温が続く場合と、特定のイベントに反応して高熱(40度近くになることもある)がでる場合があります。高熱が急に出るタイプの心因性発熱の場合、そのストレッサー(ストレスを与える要因)が明確で、たとえば学校に登校した途端に高熱が出て、帰宅後はすぐ平熱になる場合があります。その場合は、学校などのストレッサーに対して、ストレス過剰反応性が生じていると考えられます。

精神的ストレスを寒冷ストレスに置き換えて考えてみましょう。人は寒い環境におかれると体温が下がってしまうので、熱を産生して体温を一定に保とうとします。このような寒冷ストレスに何度も暴露されると、寒さを感じたときにすぐ体温が上がるように、体が熱産生のメカニズムを発達させます。寒さというストレスに立ち向かい、ホメオスターシスを維持するために、体を適応させるのです。

これと同様、慢性的に精神的ストレスを受けていると、体はストレスに対してすぐ闘えるように反応性を高めます。そのため、ストレスが強くかかったときに体が過剰反応し、高熱が出やすくなってしまうのです。

ストレス性の発熱である心因性発熱には、その人の個別的なストレスに対する処方箋が治療になります。心理療法や自律訓練法、薬物療法などを状況に応じて行いますが、根本的な心因性発熱の治療のためには、その方にとって何がストレスになっているのかを見出し、治療者と一緒に解決策を考えてゆくことが重要です。

記事2『心因性発熱の診断と治療―子どもの学校生活や大人の仕事で注意する点は?』では、詐熱との鑑別を踏まえた心因性発熱の診断の流れや治療についてお話します。

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