記事1『2017年度 京都外科夏季研究会レポート−第1部「京都大学外科学講座教室の紹介」第2部「病院紹介」』では、京都外科夏季研究会の第1部「京都大学外科学講座教室の紹介」と第2部「病院紹介」の内容についてまとめました。本記事では研究会の後半、第3部「多施設共同研究」「がん研究の最前線」と特別公演である「人工知能:その技術とパラダイム」についてレポートします。
第3部「多施設共同研究」「がん研究の最前線」では、京都大学の各外科学講座が行なっている研究について発表がありました。
京都大学消化管外科学の肥田先生からは、京都大学消化管外科学での研究、全国レベルの他施設共同研究、またJCOG0212の研究結果についてお話がありました。
京都大学消化管外科学で行われている研究に関しては、胃がんの術前化学療法に関する臨床試験や、腹腔鏡下大腸切除前の予防的経口抗菌薬の投与についての研究結果が発表されました。全国的な他施設共同研究では、ステージ4の大腸がんに対する腹腔鏡と開腹手術を比較した試験についてのお話がありました。
最後は、直腸がんに対する側方リンパ節郭清の有用性に関するJCOG0212という試験結果についてでした。試験結果は、側方郭清を省略してもよいとも悪いともいえず、では今後どのようにすればよいのかという課題も提言されました。
肥田侯矢先生
腹腔鏡下大腸切除前に予防的経口抗菌薬を投与した方が、投与なしに比べて術後感染症の発症率が低かった。
JCOG0212の試験結果 青のラインが直腸がんに対して側方郭清した場合、赤のラインが側方郭清を行なっていない場合。グラフの通り非劣性は示されなかった。
続いて、京都大学肝胆膵移植外科学・臓器移植医療部の海道利実先生からは、肝移植後の消化管障害に対する大建中湯(だいけんちゅうとう)の有効性に関する多施設共同試験(DKB14)の結果が報告されました。ERASプロトコールでは、手術後の回復を早めるためには、早期の経口摂取が重要であるといわれています。そこで、肝移植後に大建中湯を服用することで腸管蠕動(ぜんどう)が促進され、早期経口摂取が可能となることで、早期回復・早期退院が実現するのではないかという仮説のうえで試験が行われました。結果は、プラセボ群に比べてカロリー摂取量の増加率が高くなり、大建中湯が術後の早期回復に寄与するのではないかということでした。
海道利実先生
手術後の回復を早めるためのプロトコールには17の項目がある。
大建中湯を服用した場合、抜管後7日目のカロリー量の増加率は2.5倍であった。
他施設共同研究発表の締めくくりは、京都大学乳腺外科学の鈴木栄治先生です。鈴木先生からは、乳がん治療におけるコンセンサスの確立と免疫チェックポイント阻害薬を使用した臨床試験(KBCRN-B001試験)に関する発表がされました。
鈴木栄治先生
京都大学消化管外科学の錦織先生からは、外科領域でのビッグデータであるNCDを用いた「食道切除術のHospital volumeが手術死亡へ与える影響」についての研究結果についてお話がありました。研究結果ではHospital volumeが低い、つまり手術件数の低い病院の方が、手術死亡率は高い傾向にあったそうです。しかし、研究は現在も進行中であり、課題も多いとのことです。
錦織達人先生
2014年に行われたNCDを用いた研究。研究のリサーチクエスチョンは、食道切除術における死亡率は、手術件数の多い病院の方が、手術件数の少ない病院に比べて低率なのではないかというものだった。
研究の結果はBJSや読売新聞にも掲載された。
引き続き、京都大学胆膵移植外科学の石井隆道先生からは、肝細胞癌における癌幹細胞に関するお話でした。がん細胞のなかにも、正常の細胞と同じように幹細胞が存在し、それがヒエラルキー構造を呈するという仮説に基づき、K19陽性の肝細胞癌の治療や予後についてお話をされました。
石井隆道先生
肝細胞癌における癌幹細胞の仮説
最後に、京都大学乳腺外科学の松本純明先生より、光超音波イメージングのお話がありました。乳がんは、罹患率が非常に高く、早期発見がとても大切な疾患であるといわれています。光超音波イメージングとは、生体内部を捉える能力と、深達度・高解像度を併せもつ、低侵襲で簡便性の高い検査方法です。新生血管や酸素飽和度がわかるため、乳がんの検査において非常に有用的であるそうです。
松本純明先生
光超音波イメージングのメカニズム
光超音波イメージングは、今後医療のみならず、あらゆる分野への応用が期待されている。
特別公演では、京都大学大学院情報学研究科教授の石田亨先生による人工知能に関する公演がありました。
人工知能について、多くの方々は一つの物体であると勘違いしているようですが、コンピューターサイエンスにおける「研究分野」のことをいいます。
人の知能に関する研究分野にはあらゆる分野(心理学や脳神経学など)がありますが、人工知能ではコンピューターサイエンスという面から、人と同じような振る舞いをする計算モデルの構築を行なっています。
公演では人工知能がどのような歴史を辿ってきたか、アップル社やIBM社のエピソードを交えながらお話をされました。1950年代にデジタル計算機やゲームなどの、問題解決から始まった人工知能は、技術の進歩と共に時代を経て論理追求、言語理解などの能力が開発されてきました。
2017年現在、ブームとなっている人工知能分野は学習能力についてで、深層学習や画像認識などを組み合わせた研究が行われています。
さらに今後、人々の興味は知的機能から、現実的な効果へと移行していくと考えられています。たとえば、医療や健康など、自分の生活に一体どんな意味があるのかということです。
ですから、今後は専門家の医師や石田先生のようなコンピューターサイエンスを専門にされている先生が、協働して人工知能の研究を行う必要があるのではないかとおっしゃっていました。
石田亨先生
特別公演の内容。技術としての人工知能、パラダイムとしての人工知能について歴史を辿りながらお話をされた。
人工知能の教科書の目次。目次を読むとそれぞれどの時代にどういった人工知能のブームがあったかということがわかる。
インテルの創設者であるゴードン・ムーアによる「ムーアの法則」
18か月で半導体の集積率は2倍になるという経験測を発表した。実際に今日に至るまで、この法則通りに半導体の集積率は上がっている。石田先生は「これは物理的な法則があるわけではなく、インテルの技術者達の努力の結晶である」とお話する。
しかし、この法則にもそろそろ物理的限界が来るのではないかといわれている。
講演会終了後には、京都外科交流センターの方々による情報交換会・懇親会も開催されました。情報交換会では各施設の取り組みや抱えている問題点などについて、活発な情報交換が行われました。
京都外科交流センター理事長、森本泰介先生によるご挨拶
戸井雅和先生によるご挨拶
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