インタビュー

ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症とは?

ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症とは?
川名 敬 先生

日本大学 医学部産婦人科学系産婦人科学分野 主任教授、日本大学 医学部附属板橋病院産婦人科 部長

川名 敬 先生

目次
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この記事の最終更新は2017年12月13日です。

ヒトパピローマウイルス(HPV)はほとんどの大人が感染しているごくありふれた存在です。性交渉によって感染するウイルスですが、性活動が多様な人に特有のウイルスというわけではなく、誰でも当たり前に感染します。HPVに感染すると、それをきっかけにしてがんや性感染症が引き起こされることもあります。ヒトパピローマウイルス(HPV)にはおよそ200の種類があり、がんと関連のあるハイリスクタイプは13種類、そのなかでも特に発がんに至りやすいハイリスクタイプは16型・18型の2種類です。

今回はヒトパピローマウイルス(HPV)の概要について、日本大学医学部産婦人科学系産婦人科学分野主任教授・川名敬先生に詳しくお伺いしました。

ヒトパピローマウイルス(HPV)は、皮膚病や性感染症の原因として知られるウイルスです。2017年現在、種類は少なくとも100以上、およそ200種類が確認されています。

ヒトパピローマウイルス(HPV)を大別すると、皮膚型*と粘膜性器型*の2タイプがあります。当記事では、粘膜性器型HPVについて解説します。

皮膚型HPV……皮膚接触で感染するウイルスで、主な症状は手足のイボ(尋常性疣贅(じんじょうせいゆうぜい))。

粘膜性器型HPV……性交渉で感染するウイルスで、症状は出ないが子宮頸がんや尖圭(せんけい)コンジローマを引き起こす場合がある。

粘膜性器型HPV(以下、ヒトパピローマウイルス(HPV))は、性交渉で感染するウイルスです。性交経験者であればほぼすべての大人の男女が感染しているごくありふれた存在で、感染しているからといって恥ずかしいことはありません。

ヒトパピローマウイルス(HPV)は症状が出ないウイルスのため、感染しても気づかないまま生活している方がほとんどです。しかし感染したウイルスの種類や場所、個人の体質によっては、がんや性感染症が引き起こされる場合があります。

ヒトパピローマウイルス(HPV)が引き起こす疾患

ヒトパピローマウイルス(HPV)が引き起こす可能性のある疾患は、男女で異なります。女性の場合は主に、子宮頸がんや尖圭(せんけい)コンジローマです。

男性の場合、かかりやすい疾患は尖圭コンジローマで、発がんする可能性はかなり低いといえます。ただし、HPV関連がんの1つである肛門がんは、肛門を使った性交渉で感染する可能性があります。また陰茎がんは、一般的に包茎や性器の不衛生が原因といわれていますが、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染が関係するケースもあります。

現代社会の雑踏

ヒトパピローマウイルス(HPV)は粘膜を介した濃厚な接触、つまり主に性交渉によって感染します。性活動が多様化している昨今、ヒトパピローマウイルス(HPV)はほとんどの大人の男女に感染しているといわれています。たとえば、セックスパートナーがお互いに1人しかいない(お互いに初経験である)など理論上は感染しないケースもありますが、現実的には過去に複数の相手がいるなど感染しないケースはほぼありません。

また基本的には性交渉以外の接触感染、飛沫感染、空気感染をすることはありません。たとえばドアノブに触れたり風呂やプールに入ったりしても感染しません。

ヒトパピローマウイルス(HPV)は1度感染したら生涯にわたって体内に残り続け、消えないことが特徴です。ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染には「潜伏感染」「持続感染」という2つの状態があります。

潜伏感染とは、ヒトパピローマウイルス(HPV)が免疫システムを避けて粘液の中に入り込んでいる状態です。このときHPV検査を行うと、その結果は陰性*になります。(検査の種類については記事2『HPV予防ワクチンとは?』で詳しく述べます。) そのため性交経験者でも多くの場合は検査上陰性になりますが、それは厳密にいえば、ヒトパピローマウイルス(HPV)が体内から完全に排除されたのではなく、潜伏感染の状態になったということです。

HPV陰性……HPV検査でウイルスが検出されない状態

潜伏したヒトパピローマウイルス(HPV)は、体調不良などで免疫力が低下しているときには粘膜の表面に出てきやすくなりますが、体調が回復するとまた潜伏することがほとんどです。また、潜伏感染状態のヒトパピローマウイルス(HPV)は、発がんの原因にはなりません。

潜伏感染に対して、感染したヒトパピローマウイルス(HPV)が潜伏せず粘液の表面にとどまる「持続感染」という状態があります。持続感染状態ではウイルス増殖が起こり、がんや尖圭コンジローマを発病しやすくなります。

また持続感染状態のときHPV検査を行うと陽性反応が出ます。何度か検査を行ってみて継続的に陽性反応が出る場合には、持続感染状態であることがわかります。

ウイルス増殖……ウイルスの感染した細胞が分裂すること。

川名先生

ヒトパピローマウイルス(HPV)の潜伏期間は、はっきりとはわかっていません。体内から消えることがないという意味では潜伏期間は一生といえます。感染してから発病するまでの期間は疾患によって異なりますが、感染自体による症状は現れないためいつ感染したかを明確にすることはできず、正確な年数は不明です。

たとえば子宮頸がんの場合は、ヒトパピローマウイルス(HPV)に感染してから発症するまで数年~数十年の期間があるといわれています。

ヒトパピローマウイルス(HPV)が潜伏感染となるか、持続感染となるかの違いは、個人の免疫力の差によるものです。同じヒトパピローマウイルス(HPV)に感染しても、陰性になる方と発病する方がいます。免疫力には個人差があり、生活の内容とは関係ありません。たとえば性活動の多様な人ほどがんになりやすいかというと、そういうわけではありません。

およそ200種類が発見されているヒトパピローマウイルス(HPV)のなかで、持続的に感染しやすく発がんしやすいヒトパピローマウイルス(HPV)は高リスク群(ハイリスクタイプ)に分類されます。また潜伏感染になりやすく発がんしないヒトパピローマウイルス(HPV)は低リスク群(ローリスクタイプ)に分類されます。

なお、新しいウイルスは次々に発見されており、ヒトパピローマウイルス(HPV)の分類方法は文献によって異なる場合があります。

ハイリスクタイプのなかでも中心的なヒトパピローマウイルス(HPV)が13種類あり、そのなかでも特に危険なヒトパピローマウイルス(HPV)が2種類あります。それはHPV16型と18型です。16型・18型は、感染してから発がんするまでの期間が非常に短く5年程度ということが特徴です。

ただし16型・18型に感染する確率は低く、また16型・18型に感染してもすべての方が発がんするとは限りません。

特に危険なハイリスクタイプ

16、18

中心的なハイリスクタイプ

31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、68

ヒトパピローマウイルス(HPV)に感染しているかどうかは、HPV検査によって調べることが可能です。HPV検査の種類はいくつかありますが、一般的にはハイブリッドキャプチャー法とPCR法を用います。どちらも子宮頸部の細胞からウイルスを検出する方法です。

※ハイブリッドキャプチャー法

ハイブリッドキャプチャー法は、ハイリスクHPVが検出されるかどうかを調べる検査です。高リスク群に分類されているヒトパピローマウイルス(HPV)のいずれかが検出された場合に陽性反応が出ます。感染している種類(HPV型)を調べることはできません。

※PCR法(遺伝子増幅法)

PCR法では、感染しているHPV型を判定することができます。

検査によってHPV16型・18型の陽性反応が出た方の多くは、自然と潜伏感染状態になったり、がんになる手前といわれる「前がん病変」まで進んでいても治癒したりします。ヒトパピローマウイルス(HPV)の陽性反応が必ずしも発がんと結びつくわけではありません。

多くの方がヒトパピローマウイルス(HPV)に感染したことがあっても、前出の「潜伏感染」となり、HPV検査では陰性となります。その場合は下記のケースに該当し、いずれの場合も発がんしません。

  • ヒトパピローマウイルス(HPV)を免疫で抑えられる体質である
  • 感染したヒトパピローマウイルス(HPV)が発がんしにくいタイプである

ただし、1度陰性になったとしても他のヒトパピローマウイルス(HPV)にも免疫があるとは限らないため、がん検診を定期的に受けて病気の有無を確認することが大切です。がん検診は4か月に1回受ければ十分です。

女性が元気な様子

2017年現在、感染したヒトパピローマウイルス(HPV)を根絶する方法はありません。しかし、日常生活のなかでウイルスの増殖を抑えることは可能です。たとえば風邪を引かないようにする、過労で体を壊さないといったことに気を付けて、免疫力を低下させないことが大切です。

反対に、ヒトパピローマウイルス(HPV)を増殖させる要因となるのは喫煙です。喫煙は免疫力を低下させることからウイルス増殖を引き起こしやすく、発がんのリスクとなります。

また、子宮頸がんのリスクを減らすには、HPV予防接種とがん検診をあわせて実施することが効果的と考えられています。HPV予防接種については、記事2『HPV予防ワクチンとは?』にて詳しく解説します。

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    川名 敬 先生

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