概要
ヒトパピローマウイルス(HPV)は、性感染症や皮膚病の原因となるウイルスです。性交渉によって性器やその周囲に感染するほか、全身の皮膚の傷からも感染します。
ヒトパピローマウイルスを原因とする病気として、いぼ(疣贅)、尖圭コンジローマ、子宮頸がん、腟がん、肛門がん、口腔がん、陰茎がんなどが挙げられ、特に近年では若い女性の子宮頸がんが増えているといわれています。
ヒトパピローマウイルスはありふれたウイルスで、性生活のある人の多くが生涯に1度は感染します。ほとんどの場合、感染してもウイルスが自然に排除されますが、排除されずに感染した状態が続くと上記のような病気になることがあります。
種類
ヒトパピローマウイルスには現在のところ200種類以上の型に分類されています。
このうち、いぼや尖圭コンジローマなどの良性疾患では主に6型と11型の2種類の型が関係し、がんにおいては約14種類の型が関係しています。
このようながんの発生に関わる型はハイリスク型と呼ばれ、ハイリスク型の中でも16型と18型は特にがんでの検出頻度が高く、注意を要する型となっています。
原因
ヒトパピローマウイルスの主な感染経路は性交渉(セックス・オーラルセックス・アナルセックス)で、性器の小さな傷からウイルスが基底細胞に侵入し、潜伏感染が確立します。
性交渉による感染では、良性疾患の尖圭コンジローマのほか、子宮頸がん、腟がん、肛門がん、口腔がん、陰茎がんなどの発生に関わっています。
ヒトパピローマウイルスに感染しても、ほとんどは外敵から体を守る免疫機能によって排除されます。しかし、まれに排除されずに長く感染が持続することがあり、持続感染によって細胞が徐々にがん化していきます。
また、ヒトパピローマウイルスは全身の皮膚の傷から感染する場合もあります。これは一般的にいぼと呼ばれるもので、子どもを含め、あらゆる年齢で起こり得ます。
症状
いぼ、尖圭コンジローマ
全身の皮膚の傷からヒトパピローマウイルスに感染した場合、その部位にいぼが生じます。通常、いぼの表面はザラザラしていて、単独でできる場合もあれば周辺に広がる場合もあります。いぼができる以外の症状はあまりありませんが、時に痛みやかゆみを伴うこともあります。また、足裏にいぼができた場合では、歩くときなどに痛むことがあります。
尖圭コンジローマは、性器や肛門、口腔内など性交渉によって感染した部位や周囲に、茶色または薄ピンク色のいぼが多発します。いぼは独特な形状をしていて、カリフラワー状、鶏冠状(鶏のトサカのような形)、乳頭状(乳首のような形)などと表現されます。
がん
子宮頸がんでは子宮頸部異形成という前がん病変を経て、多くは十数年かけてがんに進行します。一般的に、子宮頸部異形成、子宮頸がんの初期の段階では無症状であり、体調の変化から異常に気付くことはほぼ不可能です。一方で、がんが進行すると不正出血、性交時の出血、おりものの異変や増加、下腹部痛などの症状がみられることがあります。
外陰がんや陰茎がんなどの体表に生じるがんでは、いぼ状のしこりを自覚します。一般的に初期には症状がありませんが、痛み、かゆみ、熱感、出血などが起こることもあります。
このような性器やその周辺にできるいぼのほとんどは、尖圭コンジローマなどの良性疾患ですが、がんの場合もあるため早めの検査が大切です。
検査・診断
ヒトパピローマウイルス感染症によるいぼの形は特徴的なため、多くの場合、視診によって診断が可能です。コルポスコープ(腟拡大鏡)や肛門鏡などを用いて病変部を詳しく観察する場合もあります。
また、がんかどうかを調べるために、細胞や組織の一部を採取して顕微鏡で見る生検が行われることもあります。
治療
ヒトパピローマウイルス感染症では、良性か悪性かによって治療法が異なります。
いぼ、尖圭コンジローマ
いぼや尖圭コンジローマに対する治療には、外用薬(塗り薬)を用いた治療と外科的治療があります。
外科的治療としては、いぼの切除、電気メスで焼き取る電気焼灼法、液体窒素による冷凍凝固療法、炭酸ガスレーザーで病変を蒸散させるレーザー蒸散法などがあります。このような治療法の中から、患者さんに適したものを選択して行われます。いぼは良性ですが、治療の後に再発することが多く、完全に治すために複数回治療を行ったり、長期間にわたる治療が必要になったりする場合があります。
がん
一般的に、がんの治療には主に手術、放射線治療、薬物療法の3つがあり、病期(進行度)に応じて治療方針が決定されます。
手術では、病気の状態や患者さんの状況に合わせて、病変や周辺の組織・臓器を外科的に切除します。これに加えて、子宮頸がんでは子宮頸部中等度・高度異形成(前がん病変)や進行度が低い子宮頸がんに対して、子宮の入り口の部分を切り取る「子宮頸部円錐切除術」を行うことがあります。円錐切除術はその後の妊娠における早産のリスクを高めますが、子宮を温存することが可能なため、重要な治療の選択肢となります。
放射線療法は、放射線を病変部に照射してがん細胞を死滅させる治療法です。さまざまな病期で用いられ、単独で行われることもありますが、多くは手術や薬物療法と併用されます。
薬物療法では抗がん薬や分子標的薬などが用いられ、手術後に再発を防ぐ目的で投与されるほか、がんが再発した場合や遠隔転移のある進行がんに対して行われます。
予防
日本では小学校6年~高校1年相当の女子を対象に、無料でHPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)の定期接種が行われ、このワクチンによってハイリスク型の16型と18型の感染や子宮頸部異形成・子宮頸がんの予防効果が期待できます。
対象年齢を過ぎた女性や男性でも有料で接種を受けることができるため、特に新たなパートナーとの性活動がある年代の方は、ワクチンの接種を検討しましょう。定期接種でHPVワクチンを打ち逃してしまった女性が、遅れて接種を行う際(キャッチアップ接種)に補助を行っている自治体もありますので、お住まいの市町村に確認してみてもよいでしょう。
早期発見のために、併せて定期的に子宮頸がん検診を受けることも大切です。
また、性交時にコンドームを使用することも、ヒトパピローマウイルスの感染予防に効果があるとされています。性器クラミジア感染症、淋菌感染症、性器ヘルペス、HIV感染症などほかの性感染症の予防にも役立ちます。
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