更年期障害の治療は、基本的に問診、生活習慣の改善、非薬物療法、薬物療法という順番で行われます。症状や体質は一人ひとり大きく異なるため、医師とじっくり話し合いながら自分に合う治療を選ぶことが重要です。今回は、更年期障害の治療について東京医科歯科大学の寺内公一先生にお話を伺いました。
東京医科歯科大学医学部附属病院では、以下の流れで更年期障害の治療を行っています。
更年期障害の症状は、食事や運動を見直すだけでも改善することがあります。
東京医科歯科大学医学部附属病院では、3か月ごとに医師・管理栄養士による評価を行っています。定期的な評価を受けることにより、心理社会的ストレスと不規則な生活習慣の悪循環を断ち、心身の健康の回復を目指すことができます。
日々の生活では、以下のことに気をつけて、生活習慣を改善していきましょう。
症状に応じて異なる場合もありますが、基本的に体は冷やさないよう気をつけることが大切です。
欧米では「ほてり」や「のぼせ」、「発汗」などの症状が重視されていますが、日本人女性の場合は「冷え」の症状がある方が多いとされます。そのため、日本人の患者さんの場合は体を冷やさないほうがよいと考えられています。
更年期障害では、体の温度調節機能がホルモンの影響を受けるため、「ほてり」や「冷え」などの症状が生じます。薄い服を重ね着するなど、温度調節しやすい服装を心がけましょう。
心血管疾患のリスクとなる中心性肥満(内臓脂肪型肥満)に気をつけましょう。
以下の順番で、ご自身が中心性肥満かどうかを確認することができます。
やせ<18.5<正常(至適=22)<25<過体重<30<肥満
BMIは「体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)」で算出される体格の指標です。しかし、体脂肪と筋肉の比を考慮に入れていないため、BMIが高い方すべてが異常というわけではありません。
がりがり<15<筋肉質<20<普通<25<まあまあ肥満<30<肥満
次に体脂肪を測り、肥満でないかを確認します。ただし、体脂肪は脂肪の分布(内臓脂肪:皮下脂肪)を考慮に入れていません。そのため、体脂肪をみて肥満だったとしても、必ずしも体に悪影響があるとはいえません。
正常(至適=0.70)<0.80<中心性過体重<0.85<中心性肥満
ウエスト・ヒップ比は、脂肪の分布を示します。腹囲が90cm以上であり、ウエスト・ヒップ比(腹囲をお尻の周囲で割った比率)が0.80を超えた場合、中心性肥満です。
更年期のうつ症状に対する運動の影響を調べた研究によると、運動をする更年期女性はうつのリスクが低いことがわかっています。また、運動をあまりしない更年期女性が運動をすることで、うつのリスクが低下することも報告されています(注)。
このことから、適度な運動は更年期におけるうつのリスクを減らすために重要な要素といえます。
(注)Brown WJ, et al. Am J Prev Med.2005;29(4):265-72.
更年期障害は症状が多彩なため、さまざまな症状を全般的に改善していく閉経期ホルモン療法や漢方薬を中心とした治療が行われます。
更年期障害の薬物療法についてはこちら『更年期障害の薬物療法―閉経期ホルモン療法や漢方薬など』をご覧ください。
ホルモンが変動する時期は、閉経前後の4年ほどです。ただし、更年期障害の症状が生じる期間や治療を要する期間には、人により大きな個人差があります。
たとえば、「ほてり」や「のぼせ」など血管運動神経症状の持続期間の中央値は、日系アメリカ人で5年間、アフリカ系アメリカ人では11年間というデータもあります(注)。症状が続く期間には、それほど個人差があるということです。
そのため、更年期と呼ばれる時期が過ぎたとしても更年期障害の症状が続いている場合は、更年期と同様の治療を行います。
更年期障害の治療はどこかで止めなければいけないというものではなく、医師と患者さんがよく話し合って決めていくものなのです。
(注) Avis NE, et al. JAMA Intern Med.2015;175(4):531-9.
施設によって異なりますが、保険診療内の場合、薬の値段に限ってみると月1,000円台から薬物治療を受けることができます。閉経期ホルモン療法か、漢方薬を選ぶかで多少値段は変わりますが、保険診療内で受けられる薬物治療ならばさほど高額になることはありません。
厚生労働省が実施している「平成26年度患者調査」によると、更年期障害で継続的に医療(薬物治療)を受けている女性はおよそ136,000人と推計されています。
しかし、このようなデータに現れてこない患者さんも多数いる可能性があります。たとえば、中等度以上の症状を自覚しているにもかかわらず、病院を受診せずに市販薬などで対処している方もいることでしょう。
更年期の症状で生活に支障が出ている方は、無理をせずに一度婦人科を受診してください。
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科女性健康医学講座(寄附講座)教授
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