インタビュー

女性の更年期障害の治療と対策――肩こりや腰痛、関節痛など運動器の症状を中心に

女性の更年期障害の治療と対策――肩こりや腰痛、関節痛など運動器の症状を中心に
安達 将隆 先生

安達ウィメンズライフクリニック 院長

安達 将隆 先生

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女性は閉経が近づくにつれて、女性ホルモン(エストロゲン)が減少するため心身にさまざまな不調をきたしやすいことが知られています。代表的な更年期症状としてホットフラッシュが挙げられますが、ほかにも肩こりや腰痛、関節痛といったさまざまな身体的不調をきたすとされます。更年期を健やかに過ごすためには、どのような治療や対策を行えばよいのでしょうか。

今回は、安達ウィメンズライフクリニック院長の安達 将隆(あだち まさたか)先生に、女性の更年期障害の中でも、運動器の症状と漢方薬を中心とした治療法などについてお話を伺いました。

エストロゲンは女性の心身の健康を保つうえで重要な役割を担う女性ホルモンであり、閉経が近づくにつれて大きく揺らぎながら減少していきます。閉経の平均年齢は約50歳であり、その前後5年の45~55歳は更年期と定義されています。この時期に現れるさまざまな心身の不調を更年期症状といい、なかでも日常生活に支障をきたすものを更年期障害と呼びます。

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イラスト:PIXTA

エストロゲンは、体温や血圧の調節、睡眠・覚醒のリズムを調整する自律神経系のみならず、全身に作用します。そのため、エストロゲンの分泌量が減少しホルモンバランスが揺らぐ更年期には、全身にさまざまな不調が現れやすくなります。

さらに、更年期は職場で要職に就くなど社会的な責任が大きくなる時期であり、親御さんの介護や子の自立する時期とも重なり、心身に負担がかかりやすくなります。このようなさまざまな環境的要素も相まって更年期障害が起こると考えられます。

一般的に、ホットフラッシュ(ほてり、のぼせなど)や冷え症といった体温調節に関する自律神経失調症状が頻度の高い更年期症状として知られています。そのほか、睡眠と覚醒のリズムが乱れることによる不眠症(入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒)をはじめ、疲労感や倦怠感、めまいなど多岐にわたります。これらの症状は40歳代後半から現れることが多いとされます。

イライラや憂うつ感などの精神的な症状が現れる場合もあります。

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エストロゲンは、骨や靱帯(じんたい)などの構成成分であるコラーゲンの生成・保持に関わっています。したがって、女性ホルモンが減少し始める更年期には、運動器の症状が出現することがあります。具体的には、手根管症候群(正中神経が圧迫されて指に痛みやしびれが生じる疾患)などの手指関節の痛みをはじめ、手首や肩、肘・膝関節(しつかんせつ)、腰痛などが頻度の高い症状といえます。

更年期は、骨密度の低下に伴う骨量減少・骨粗鬆症(こつそしょうしょう)をはじめ、新陳代謝の低下による肥満傾向なども相まって、特に腰痛や膝関節痛が悪化する傾向があるため注意が必要です。

更年期の不調を「更年期症状だろう」と思って我慢している方は多いと思われます。しかし、別の疾患が関与している可能性もあるため、まずは婦人科を受診し、適切な検査・治療を受けていただきたいと思います。

特に注意すべき症状は以下のとおりです。

  • 関節痛、関節の腫れ……関節リウマチに代表される膠原病(こうげんびょう)が原因で生じている場合があります。 
  • ホットフラッシュ……多汗症、動悸、倦怠感などの症状がある場合、甲状腺機能亢進症あるいは、甲状腺機能低下症などの内科的疾患が関与している場合があります。
  • 精神神経症状……イライラ、抑うつ感、不眠などの症状がある場合、うつ病双極性障害などの精神疾患の可能性があります。
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家事や仕事に支障をきたすような場合はもちろんですが、自分では困っていなかったとしても多汗やイライラ、怒りっぽい(易怒性(いどせい))などの諸症状について家族や周囲の方から指摘された場合は更年期障害を疑い、医療機関の受診をおすすめします。婦人科では、各症状の内容・程度を確認し、同時に他疾患が関与していないかを精査します。婦人科での対応が困難な場合は、内科や精神科などの専門の診療科を紹介します。

問診や血液検査を行い、甲状腺機能異常などの内科的疾患がないかを確認します。血液検査は内科的疾患との鑑別目的のみならず、女性ホルモン値を調べて閉経が近いか否かを確認する目的や、ホルモン補充療法(HRT:Hormone Replacement Therapy)が安全に実施可能な肝機能・腎機能かを判断する目的としても行います。また、動脈硬化骨粗鬆症といった更年期から注意を要すべき疾患の早期発見・治療目的として、コレステロールや中性脂肪、血糖値、HbA1c、骨代謝マーカーも必要に応じて精査します。さらに、子宮筋腫子宮頸(しきゅうけい)がん、子宮体がんの有無を調べるために内診や超音波検査、子宮がん検診などを行います。

更年期障害の治療法には、ホルモン補充療法・漢方療法・向精神薬・生活指導などがあります。第1選択としてはHRTが挙げられます。特に、女性ホルモンの欠乏に伴い自律神経失調症状をきたしている場合や、骨密度の減少や脂質異常症の傾向がみられる場合にはHRTが有効と考えられます。

頻尿を認める場合にはHRTを行うこともありますが、漢方療法も有効です。また、女性ホルモンの欠乏に伴って生じているとは限らず、HRTによる治療効果が期待し難い症状(倦怠感や不眠、イライラなど)に対しても漢方療法が選択されることがあります。

精神的な症状が強い場合には、向精神薬の使用が検討されます。当院ではHRTや漢方療法を行っても精神的な症状が改善しない患者さんには、精神科や心療内科を一度受診いただくように案内しています。

禁煙や節酒、適度な運動、バランスの取れた食事といった、生活習慣の見直しも大切です。たとえば、肥満体型の方がホットフラッシュや多汗症状を訴えている場合には食生活を見直し、適切な体重管理を行う必要があることもお伝えするようにしています。

漢方にはさまざまな概念があり、それらを用いて総合的に不調を捉えていきます。基本的には、足りていない部分があれば補い、逆に過剰になっている部分があれば落ち着かせるといったイメージで治療を進めていきます。

漢方の概念の1つである“()(けつ)(すい)”で説明すると、この3つがバランスよく保たれているのがよい状態であると捉えます。たとえば、エネルギーである気が足りていないと(気虚)、倦怠感や集中力低下が生じます。気の流れが滞ると(気鬱)、気分の落ち込みや喉の不調がみられることがあります。気が逆流すると(気逆)、汗が止まらなくなり、動悸を伴うようになります。血の流れが不足すると (血虚)、皮膚の乾燥や脱毛といった症状が現れます。血の流れが滞ると(瘀血)、子宮筋腫子宮内膜症に伴う月経痛、便秘、腰痛などが生じるようになります。水の流れが滞ると(水毒)、むくみや頭痛、吐き気、めまい、下痢などをきたすようになります。

このように、気・血・水のバランスが崩れていることで不調をきたしている場合には、それらのバランスを整える作用を有する漢方薬を使用します。当院では、漢方診療専用の問診票を用いて患者さんの主たる不調を確認したうえで舌診や脈診、腹診などを行い、東洋医学的に適切と思われる漢方薬を処方するようにしています。

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漢方薬には複数の生薬が含まれているため、それらの特徴を踏まえて処方することで、漢方薬1剤で多くの症状を改善できる可能性があります。多岐にわたる症状が出現する更年期障害では漢方療法を行うメリットが大きいといえます。また、HRTと漢方薬を併用することでHRT単独では対応が難しい症状の改善とともに、HRTの副作用症状(吐き気、不正性器出血など)の軽減も期待できます。

すでに脆弱性骨折(ぜいじゃくせいこっせつ)などをきたしていないかを、まず確認する必要があります。骨密度検査など、整形外科的な評価も重要と思われます。

当院では、手指や手首、膝関節といった運動器の更年期症状に対して漢方薬を処方することがあります。水が滞留して運動器に痛みが生じている場合には利水作用のある漢方薬を、関節が腫れて熱感がある場合には清熱作用(熱を和らげる)を有する漢方薬を用います。血の滞りがある場合は駆瘀血(くおけつ)作用(血の滞りを解消する)のある漢方薬を用います。

更年期症状や更年期障害を軽減するにはHRTや漢方薬のみでは難しく、根本的には生活習慣の是正が必要と考えます。食生活に関しては分食にする、夜遅い時間の食事を控える、油や塩分を取り過ぎに注意する、糖尿病脂質異常症肥満症について意識することが重要です。また、適度な運動によって睡眠の質が向上する可能性があります。

運動器の症状低減のためには、適度な運動やストレッチを行い、必要に応じて整体や鍼灸などを取り入れることも有効と考えられます。

更年期症状は、自分だけではなく誰にでもあるものと思って、我慢されている方も多いと思います。整形外科に膝や腰の痛みを相談しても、耳鼻咽喉科(じびいんこうか)めまいや耳鳴りなどの症状で受診しても、原因が判明せず更年期だから仕方ないと我慢している方は多いのではないでしょうか。適切な治療を受けることで、症状が改善する可能性があります。更年期症状を疑う不調でお悩みの方は、まずは婦人科を受診してみてください。

女性は月経のたびに体調が変化するだけでなく、年齢を重ねるにつれてエストロゲンの分泌量が減少するため心身にさまざまな影響が出てきます。女性に起こる心身の変化について、ご家族や周囲の方が理解し共有するとともに、仕事や生活に支障をきたすような強い症状がみられる場合には、医療機関への受診をすすめていただきたいと思います。

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