更年期におけるホルモン補充療法については記事5『ホルモン補充療法(HRT:Hormone replacement therapy)とは』でお伝えしました。ここでは、今後の中高年女性のヘルスケアに要点と、「中高年女性ヘルスケアの新たな展開」について東京医科歯科大学名誉教授 麻生武志先生にお話をお伺いしました。
ヘルスケアの基本になるのは、食事・運動・気分転換などを中心とする生活習慣の見直しと適正化です。その効果を一定期間(通常3‐6か月)かけて判定し、目標とした効果が得られない場合には、補完代替医療や薬物療法を適宜追加して行うことになります。
特に中高年女性のヘルスケアにとって重要なのは、この時期に急速に加速する全身機能の加齢にホルモンの変化:エストロゲンの減少が密接に関連のしていることであり、この特性に基づく性差医療です。また現在の症状や一部の検査値のみにとらわれず、高齢期に顕性する可能性があるが現在は潜在している障害を早期に発見して予防を行うことであり、ライフサイクル全体を視野に入れたヘルスケア・医療です。超高齢・少子社会に伴う問題が山積している我が国にとって「健康寿命」を延ばすヘルスケアへの総力をあげての取り組みが求められています
補完代替医療において多くのサプリメントが使用されており、その中でも広く普及しているのが植物エストロゲンの1つであるイソフラボンです。マメ科植物には多くのイソフラボン誘導体が含まれており、エストロゲン様作用・抗菌作用・酸化防止作用・鎮痙作用などを有するということは古くから知られていました。1990年米国立がん研究所(NCI)が実施した「デザイナーフーズプログラム」において以下の点が注目されました。
★日本人の心臓病による死亡率は欧米人に比べて非常に低い
★日本人の骨粗しょう症による大腿骨骨折率は米国人の約半分である
★米国女性の乳癌による死亡率は日本女性の約4倍である
★米国男性の前立腺癌による死亡率は、日本男性の約5倍である
★米国の更年期女性の約半分はホットフラッシュの症状を訴えるが、日本人女性には少ない
これを受けて大豆は最も重要度の高い食品群に分類され、大豆イソフラボンに関する研究が進展し多くの成果が報告されてきましたが、有用性を認めたとする結果と、認めないとする結果が混在しているのが現状です。そこで摂取した大豆イソフラボンがどのように代謝されるかが検討され、大豆イソフラボンの一つであるダイゼインから「エクオール」と言う物質への代謝パターンが、ある腸内乳酸菌の有無により異なることが明らかになりました。「エクオール」はエストロゲンとよく似た構造と作用を有しており、尿中の「エクオール」量が多い女性の方が、少ない女性に比して更年期症状の程度が軽いことも判明しました。また大豆イソフラボンから「エクオール」へ代謝できる人の割合が人種や年代によって異なり、日本人の中高年女性の約50%、若年者や欧米人の約30%がこれに当たると報告されています。これには伝統的な日常の食習慣における大豆食品の摂取量の多寡との関連性が示唆されています。大豆イソフラボンを「エクオール」へ代謝できない場合に、大豆イソフラボンを摂取しても十分な効果が得られないことになります。最近「エクオール」を含有するサプリメントが開発製造され、その多様な効果が臨床試験により証明され報告されました(麻生武志ほか、日本女性医学学会雑誌, 20(2): 313-332, 2012)。主な効果として、更年期症状(ほてり・発汗・肩こりなど)の軽減、閉経後女性の骨代謝・メタボリックシンドローム改善、肌(シワ)改善などがあります。また乳房や子宮内膜に対する作用は基礎・臨床試験により認められていませんので、ホルモン補充療法が使用できない場合の補完代替医療・サプリメントとしての選択肢の一つになり得ると考えられます。
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