更年期障害の薬物治療は、基本的に閉経期ホルモン療法と漢方薬を中心に行います。2018年2月現在、閉経周辺期に更年期症状の改善を目的として開始した閉経期ホルモン療法を続けることで、慢性疾患*予防のメリットも得られることがわかっています。今回は更年期障害の薬物治療について、東京医科歯科大学の寺内公一先生にお話を伺いました。
慢性疾患…徐々に発症して治療も経過も長期におよぶ病気
閉経期ホルモン療法とは、エストロゲンという女性ホルモンを少量補う治療法です。
閉経期ホルモン療法は、以下の症状に対する治療を目的として行われます。
薬には飲むタイプ、貼るタイプ、塗るタイプがあり、ご自身に合った薬を選択することができます。
さまざまな報告から、更年期と呼ばれる時期に閉経期ホルモン療法を開始し、続けていくことで、心臓や血管の動脈硬化性の病気*や、骨粗しょう症の骨折を予防できると考えられています。
また2018年2月現在においては、「60歳未満であり、閉経後10年未満の女性」が閉経期ホルモン療法を始めることで、将来的に死亡リスク減少や健康寿命の延伸などのメリットがあるとも考えられています。
60歳未満もしくは閉経後10年未満の方に限定した場合、閉経期ホルモン療法により統計学的に起こりうるとされる副作用は、エストロゲン・黄体ホルモン併用治療(EPT)による深部静脈血栓症*のみです。
また深部静脈血栓症のリスクは、経口摂取ではなく経皮投与(貼るタイプ、塗るタイプ)を用いることで下げられます。
こうしたことから、閉経期ホルモン療法は正しく用いれば副作用の懸念が少ない治療法と考えられています。
深部静脈血栓症…足や骨盤などの深部にある静脈に、血のかたまりができて詰まる症状
更年期障害の漢方治療では、一人ひとりの体質や症状に応じた漢方薬が使われます。主に使用されている以下3種類の漢方薬は、「婦人科三大処方」とも呼ばれています。
更年期障害による精神神経症状が強い場合、まずはカウンセリングを行います。カウンセリングの目的は、一人ひとりの症状の背後にある心理社会的要因をみつけ出し、心理的な負担を軽減していくことです。
たとえば、患者さんが「家族や友人にあまり理解されない」という状況に悩まれている場合には、「話を聞いてくれる人がいる」と感じられる環境を作ります。
このようなカウンセリングを行った上で医師が必要と判断した場合に、向精神薬(抗うつ薬、抗不安薬、催眠鎮静薬)が用いられます。
ヒト胎盤由来製剤(プラセンタ注射)の医薬品のなかにも、2018年2月現在保険適用となっている製品はあります。しかし、ヒト胎盤由来製剤が更年期障害の症状を改善するというエビデンスは十分にありません。
また、このような更年期障害に対するヒト胎盤由来製剤治療の正しい知識は、一般の方々の間に広く知られているわけではありません。一人ひとりの患者さんが適切な治療にたどり着けるよう、私たち医療者が啓発活動を行うことも必要かもしれません。
ヒト胎盤由来製剤(プラセンタ注射)の治療について詳しく知りたい方は、主治医に相談してみるとよいでしょう。
プロアントシアニジンはポリフェノールの一種で、不安症状を改善するということが報告されています(注1)。植物の果実、種子、樹皮、葉に含まれる成分です。
マメ科の植物に多く含まれるイソフラボンは、エストロゲン受容体に結合してエストロゲン作用を示します。
大豆イソフラボンアグリコン(イソフラボンの一種)を用いた研究では、8週間の治療後にプラセボと比較して有意にうつ症状・不眠症状を改善することが報告されています(注2)。
(注1)Terauchi M, et al. Menopause.2014;21(9):990-6.
(注2)Hirose A, et al. Arch Gynecol Obstet.2016;293(3):609-15.
治療を終えるタイミングは、医師と患者さんが話し合いながら決めていきます。
たとえば、閉経期ホルモン療法の場合は、治療を続けていくことのメリット・デメリットをお話ししたうえで、患者さんのニーズを伺います。
このように、更年期障害の治療を終えるタイミングは、さまざまな要素を照らし合わせて決めていく必要があります。
一人ひとり違うからこそ、医師と相談して自分に合った治療法を選択することが大切です。
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科女性健康医学講座(寄附講座)教授
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