横隔膜ヘルニアは、横隔膜に穴が開くことで、腸や肝臓などが腹部から脱出し、胸腔内に侵入する病気です。横隔膜ヘルニアには先天性(生まれつきのもの)と後天性(生まれつきでないもの)がありますが、多くは胎児期に発症する先天性横隔膜ヘルニアです。今回は先天性横隔膜ヘルニアの症状や診断について、名古屋大学大学院医学系研究科 小児外科教授である内田広夫先生にお話を伺いました。
横隔膜ヘルニアとは、胸とお腹を隔てている横隔膜に穴が開き、そこから腸や肝臓などが胸腔内に入り込む病気です。腸や肝臓が胸腔内に入り込むと、これらの臓器によって肺や心臓が圧迫されてしまい、呼吸障害などの症状が起こります。
横隔膜ヘルニアは、先天性と後天性のものにわかれます。
先天性横隔膜ヘルニアは、赤ちゃんがお母さんのお腹のなかで成長するときに横隔膜が十分に形成されないことで起こります。横隔膜が形成されるのは妊娠2か月頃(約8〜10週目)であるため、この頃に発症すると考えられています。また、先天性横隔膜ヘルニアを発症している場合、多くは生まれる前に胎児診断することができます。
一方、後天性横隔膜ヘルニアは、外部からの強い衝撃や外傷で横隔膜に穴が開くことで発症します。
本記事では横隔膜ヘルニアの多くを占める、先天性横隔膜ヘルニアについてお話しします。
日本小児外科学会が行った新生児外科全国集計によると、2013年の先天性横隔膜ヘルニアの症例数は166例であったという調査結果がでています。これに対し2013年には約100万人の赤ちゃんが生まれているので、約6,000人に1の割合で横隔膜ヘルニアを発症していることがわかります。
2018年現在、胎児期に横隔膜ヘルニアを発症してしまう原因はわかっていません。マウスを使った動物実験では、ニトロフェンという物質が何らかの原因となっているのではないかといわれていますが、実際のところ明らかにはなっていません。
先ほども少しお話しをしましたが、先天性横隔膜ヘルニアは、多くが胎児診断される病気です。診断方法は妊婦健診で行う超音波検査(エコー)です。
名古屋大学医学部附属病院では、横隔膜ヘルニアであることがわかったら、産婦人科、小児科、小児外科が合同でカンファレンスを行い、ご家族に十分にご説明して出生後の治療方針を決定します。また、当院では、生まれてきた赤ちゃんに対してすぐに治療ができる体制を整えたうえで、原則妊娠37週目に帝王切開を行うことにしています。
また、胎児診断では肺の大きさや腸や肝臓の位置を確認することで、おおよその重症度も予測できます。このとき、重症度が高く生まれたあとの生存率が極めて低いと考えられる場合には、胎児治療を検討することもあります。
胎児治療は、お母さんの子宮に内視鏡(体の内部を観察・治療する医療器具)を挿入し、そこから胎児の気管にバルーン(風船)を入れる治療です。バルーンで一定期間肺に圧力をかけることで、肺の成長を促す効果が期待できます。また、2018年4月現在、日本では国立成育医療研究センターで臨床試験として胎児治療を行っています。
生まれつき横隔膜ヘルニアを発症していても、妊婦健診では判別できないような軽症の場合には、生まれたあとに診断されることもあります。
たとえば、お子さんが少し苦しそうな呼吸をしているためレントゲン撮影をしてみると、胸腔内に腸の一部が脱出していることがわかることがあります。
しかし、このように生後に診断される横隔膜ヘルニアは、後述する重い呼吸障害がみられることはまれで、軽症であることがほとんどです。
横隔膜ヘルニアの症状は、横隔膜に開いた穴の大きさなどによって、軽症のものから重症のものまで千差万別です。重症な横隔膜ヘルニアでは、胸のなかに脱出した腹部臓器によって肺や心臓が圧迫されるため、重い呼吸不全・循環不全が起こります。
まず、横隔膜ヘルニアの代表的な症状として、肺低形成とそれに伴う肺高血圧症が挙げられます。
肺低形成とは、赤ちゃんがお母さんのお腹のなかで成長するときに、腸や肝臓などの臓器が肺の成長を妨げることで、肺が十分な大きさに育たないことをいいます。肺低形成では、肺の機能が弱くなっていることから、出生後にうまく呼吸ができないなどの症状がみられます。
また、肺低形成に伴って肺高血圧症(肺動脈のなかを血液が流れにくくなる病気)を発症することがあります。新生児が肺高血圧症を発症すると、胎児循環に戻りやすくなってしまい、非常に重篤(じゅうとく)な状態に陥ります。
胎児特有の血液循環のことを、胎児循環とよびます。
生後、私たちは肺を通じて血液中の酸素と二酸化炭素のガス交換を行いますが、胎児は肺ではなく胎盤でガス交換を行っています。そのため、胎児循環では肺へ血液が流れることはほとんどなく、代わりに卵円孔(らんえんこう)と動脈管を通じて全身に血液を送り出しています。この胎児循環は生後、肺呼吸の開始ともに卵円孔・動脈管が閉鎖され、出生後の循環へと移行していきます。
しかし、出生直後に肺動脈に血液が流れにくくなる肺高血圧症を発症すると、血液は肺を通らずに、胎児期のように卵円孔と動脈管を通じて全身に血液を送り出します。すると、血液が肺で酸素化されなくなるため、全身の酸素が不足し、生命の維持が非常に困難な状態となってしまうのです。
そのため、横隔膜ヘルニアでは、肺高血圧症に対する治療や管理をどのように行うかが大きな鍵となります。
また、胎児期に心臓が圧迫されることで、左室が十分に成長しない左室低形成がみられることもあります。
心臓は、左室・左房・右室・右房の4つの部屋に分かれていて、左室は全身に血液を送り出す重要な役割を担っています。この左室が十分に成長しないと、心臓の拍動が弱くなり、全身に血液を送ることが困難となります。すると、全身の循環がうまくできなくなるため、生後すぐに循環動態を安定させる治療を行う必要があります。
引き続き、記事2『横隔膜ヘルニアの治療法-手術方法や合併症についても解説』では横隔膜ヘルニアの治療法や手術方法について解説します。
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