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横隔膜ヘルニアの治療法-手術方法や合併症についても解説

横隔膜ヘルニアの治療法-手術方法や合併症についても解説
内田 広夫 先生

名古屋大学大学院医学系研究科 小児外科学教授

内田 広夫 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年07月05日です。

横隔膜に穴があく「横隔膜ヘルニア」では、腹部臓器が胸に入り込み肺や心臓を圧迫することで、重い呼吸器障害が起こります。そのため、横隔膜ヘルニアでは横隔膜の穴をふさぐ手術治療も大切ですが、呼吸障害に対する内科的治療がとても重要な役割を担います。

今回は、名古屋大学大学院医学系研究科 小児外科教授である内田広夫先生に横隔膜ヘルニアの治療法や合併症などについてお話を伺いました。

横隔膜ヘルニアの概要、症状、検査方法については記事1『横隔膜ヘルニアとは?胎児期に発症する横隔膜ヘルニアの症状や診断方法について』をご覧ください。

胎児

横隔膜ヘルニアは、手術で横隔膜の欠損部を修復する治療を行います。しかし、横隔膜自体を修復したとしても、胎児期に成長できなかった肺や心臓の機能はすぐには回復しません。

生後はすぐに、肺や心臓の治療を徹底し、肺高血圧症などの悪化を防ぐ必要があります。

そのため、横隔膜ヘルニアでは産科医、小児科医、小児外科医、麻酔科医で密接な連携を行い、内科的治療から外科治療までの一連の治療にあたることが大切です。そのなかでも、呼吸・循環管理などの内科的治療は非常に重要です。

生まれる前に横隔膜ヘルニアであることがわかっている場合には、当院では原則妊娠37週目に帝王切開で出産を行います。

出産後はすぐに手術を行うのではなく、まずは気管挿管を行い、人工呼吸管理とします。人工呼吸を行う理由は、自分で呼吸をする刺激によって肺高血圧症が悪化したり、消化管にガスが入ることで胸郭(きょうかく:胸の骨格)が潰れてしまったりする危険性があるためです。

また、呼吸・循環動態が非常に悪い場合には、出産当日にECMO(エクモ:体外式膜型人工肺)という、肺に代わり人工的に循環を補助する治療を行うこともあります。

そのほか、肺高血圧症に対する一酸化窒素(NO)の吸入治療や心臓の動きをサポートするための薬物治療などを行い、肺や心臓の状態安定に努めます。

これらの内科的治療で状態が安定したら、手術で横隔膜を修復する治療を行います。当院の場合は、出産後およそ数日〜1週間後に手術を行うことが多いです。

手術

横隔膜ヘルニアの手術方法は、開腹手術胸腔鏡手術があります。

開腹手術は、横隔膜に欠損がある側の季肋部(きろくぶ:肋骨のあたり)を切開して行います。また、胸腔鏡手術は胸に1cm程度の穴を3〜4箇所あけ、そこから専用の器具を通して行う手術方法です。

どちらの方法で手術を行うかは、患児の状態や各病院の治療方針によって異なります。

当院では、全身状態が悪く緊急性を要する場合には、開腹手術を行っています。これは、開腹手術のほうが胸腔鏡手術に比べて手術時間が短く、確実性が高いためです。

一方、胸腔鏡手術は小さな傷口で手術を行うことができ、身体的負担も軽減できることから、状態が安定している軽症の患者さんに行います。

手術ではまず、胸のなかに入り込んでいる腸や肝臓などの臓器を慎重に腹部へ戻します。

臓器を正しい位置に戻したら、次に横隔膜の修復を行います。このときの修復方法は、欠損部の大きさによって異なります。

欠損している部分が小さな場合には、横隔膜を直接縫合・閉鎖します。一方、欠損部分が大きく直接縫合することが難しい場合には、人工布パッチを使用して欠損している部分を閉鎖します。

当院の場合、開腹手術は通常1時間半ほど、胸腔鏡手術は通常約2〜3時間半ほどで終了します。ただし、臓器の状態によっては予定されていた時間を超過することもあります。

横隔膜ヘルニアの手術をしたあとは、胸のなかのスペースが空くため、肺や心臓による血液循環がしやすい状態になります。

しかし、胎児期に十分に成長できなかった肺はすぐには元の大きさには戻りません。そのため、術後しばらくは薬物治療や人工呼吸を継続しながら、肺の成長を待ちます。

その後、肺の大きさは正常な側の肺と同程度の大きさまで成長します。しかし、肺血流シンチグラフィ(肺の血流や換気を評価する検査)を行うと、みた目の大きさは正常でも、肺の機能は完全には回復していないこともあります。

多くのお子さんが元気に普通の生活を送ることができますが、術後長期に渡って経過を追っていくことが大切です。

通常、手術に伴う出血は少量です。しかし、臓器が損傷されたりして出血が多量である場合には輸血を要することもあります。

また、術中に腸や肝臓、脾臓(ひぞう)、腎臓、肺などの臓器に損傷(副損傷)が起こることがあり、その際は早急に損傷部位の修復を行います。

術後は、体力や免疫力が低下しているため、肺炎腸炎などの感染症を起こす可能性があります。これらの重症化を防ぐために抗生剤の点滴などで治療を行います。

術後、創部(手術でできた傷)が細菌感染し、化することがあります。そのため、抗生剤の投与や排膿などで化膿を抑える治療を行います。また、まれに腹腔内や胸腔内に膿瘍(のうよう:局所に膿がたまる症状)ができることがあります。その場合には、チューブで膿を排出させるドレナージなどの処置を行うこともあります。

術中にリンパ管を損傷すると、胸腔内にリンパ液が漏れ出し貯留する乳び胸水が起こることがあります。

腸の癒着(ゆちゃく)が強い場合には、腸閉塞(イレウス:腸の一部が塞がる病気)を発症することがあります。腸閉塞を発症すると、腸内を食べ物がうまく通過することができず、嘔吐などの症状が現れます。

胃食道逆流症とは、胃酸などを含んだ胃の内容物が食道に逆流することです。主な症状は嘔吐や胸焼けです。胃食道逆流症は生まれてすぐに手術を行った場合でも、ある程度大きくなってから訴えるお子さんもいるため、定期的に検査を行うことが大切です。
 

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