社会医療法人愛仁会高槻病院(以下、高槻病院)は、2001年に大阪府で2番目の総合周産期母子医療センターに指定され、ハイリスク妊娠に対する医療や高度な新生児医療を提供していることから、「高槻病院=周産期医療に特化した病院」というイメージが先行することが多いようです。
一方で、急性期病院として高度かつ専門的な急性期医療の提供、地域医療支援病院として地域医療確保のための支援、臨床研修病院として優秀な医師の人材育成、さらには市民病院不在の高槻市において市民病院的役割を担うなど、多角的に大阪府内の地域医療を支えている病院であることをご存知でしょうか。
今後の高槻病院に求められる役割とは、「周産期医療や急性期医療という強みを維持しつつ、地域医療を循環させるポンプのような存在になることだ」と、高槻病院院長の髙岡秀幸先生はおっしゃいます。このポンプのような存在とは、いったい何を意味しているのでしょうか。
大阪府高槻市と周辺地域の医療に対し、高槻病院が果たしている役割について教えていただきました。
高槻病院外観写真(2017年4月竣工) 画像提供:高槻病院
日本における救急医療体制は、都道府県が作成する医療計画に基づき3段階体制となっています。
入院や手術の必要がなく、外来で対応できる患者さんに対応する救急医療です。
手術や入院治療を必要とする、重症患者さんに対応する救急医療です。
脳卒中や心筋梗塞など、生命に関わる重篤な患者さんに対応する救急医療です。
高槻病院は救急告示病院であり、救急医療専従のスタッフを配置した救急センターやICU、MFICU(妊婦さんのICU)、PICU(全国でも数少ない小児のICU)、NICU(新生児のICU)といった設備を有しており、高槻市と周辺地域の1次〜2.5次救急医療(一部3次救急医療相当)を担う病院として機能しています。
高槻病院のある大阪府高槻市は、人口約35万人の都市です。高槻市は市内で発生した救急車受け入れ要請の9割以上を市内でカバーしており、当院はそのうち3割にあたる年間約7,000件の救急車を応需(受け入れ)しています。
高槻市内で3次救急医療を専門に担う医療機関は、大阪府三島救命救急センター(以下三島救命救急センター)のみであり、この三島救命救急センターが円滑に機能していることが高槻市の救急医療を担保することになります。
最近では当院の強みを活かして、三島救命救急医療センターで受け入れ後、容態が比較的安定してきた患者さんを当院で受け入れるなど、医療機関の垣根を越えた連携を始めました。その際は当院の医師と看護師を派遣し、患者さんの容態を直接確認の上、当院で受け入れ可能か当院以外により適した医療機関はないか、などについても判断をしています。
三島救命救急センターの患者さんを当院で受け入れることができれば、その分三島救命救急センターの病床に余裕が生じることになり、より重篤な患者さんの受け入れが可能になります。
仮に当院での受け入れが難しい方やリハビリテーションが中心の方に対しては、法人関連施設や地域の連携医療機関をご紹介して、こちらで治療に専念していただくこともあります。文書での患者紹介はタイムラグも生じますし、こうしたFace to Faceの医療機関の垣根を越えた連携を広めていきたいと考えています。
一方で、当院が三島救命救急センターの患者さんを受け入れることができるのは、一般の民間病院と高槻病院とは、立ち位置の違いを理解したうえで、当院での急性期治療が終了した患者さんを受け入れてくださる周囲の医療機関の協力があるからです。高槻病院が市民病院的な役割も果たしているということから、こうして助けてくださっているのだと考えます。
愛仁会では、高槻病院を含む3つの急性期病院、リハビリ専門病院、診療所、3つの介護老人保健施設、訪問看護ステーション、地域包括支援センター、ケアプランセンター、ヘルパーステーション、検査センター、看護助産専門学校ならびに社会福祉法人と、地域の各機関との連携のもとに、医療・介護・保健・福祉・教育を包括した総合的地域医療の積極的展開に取り組んでいます。
しかし、私達の有する機能だけで医療が完結することはないため、周囲に病院群を作りクラスター化し、総力として機能することが必要です。
地域に対し、よりよい医療を継続的に提供していくには、地域の医療機関がお互いをよく知り合うことでそれぞれの役割を理解・連携し、地域の医療資源を適切に配分することが重要です。「地域医療を回すポンプのような存在」とは、地域の医療資源がうまく循環し、有効活用されるために必要な仕掛けを作る存在であると考えています。
地域の医療機関と経営上の競合相手として競い合い、不毛な陣取り合戦をするのではなく、お互いの病院の機能(役割)を理解したうえで、「ともに地域の医療をよくしていく」仲間としてオープンに協働していくことが、高槻市や周辺地域だけでなく、将来日本全体の医療で必要になります。
その際に鍵となるのは、看護師です。看護師というスペシャリストが医療機関同士で顔の見える連携をしてネットワークを構築していけば、集約するリーダーが不在でも分散型のリーダーシップが発揮されるようになるでしょう。高槻市では、それを行政主導ではなく現場から始めているのです。
小児科PICU(小児専用のICU) 画像提供:高槻病院
当院に所属する小児科医は30名を越えています。NICUの病床数は21床と大阪最大級です。一般的な病院のNICUにおける500グラム以下の新生児の生存率(出生後、隊員に至った割合)が5割程度であるのに対し、当院では8割近くになります。
こうした医療の質の高さが評価され、当院は昨年タイのサミティヴェート病院と医療を通じた連携協定を締結しました。お互いの人事交流を通じ、高槻病院の新生児医療技術を伝えています。
小児科PICUでは、毎朝多職種回診が実施されている 画像提供:高槻病院
また、小児科、小児外科、小児脳神経外科とのタイアップによって、重症小児の急性期治療の実績を着実に積んでいます。隣接の愛仁会リハビリテーション病院には、亜急性期、障害時を含む慢性期医療までをカバーするひまわり病棟が稼働しており、さらに訪問看護を含む在宅医療を合わせると、切れ目のないオールマイティーともいえる機能が整備されていることになります。
不整脈センター㈰ 画像提供:高槻病院
不整脈センター㈪ 画像提供:高槻病院
かつては治療が困難であった種類の不整脈も、医療技術の進歩により適切な治療をすれば治療可能な病気になりました。患者さんの症状や悩みなどに応じて適切な不整脈治療を提供できる拠点になるため、高槻病院では不整脈センターを立ち上げました。不整脈を専門に研修した経験豊富な医師が担当医となり、薬物療法、ペースメ−カーの埋め込み、カテーテルアブレーションなど各種治療方法をご提案しています。
特にカテーテルアブレーションでは、高槻病院は日本初となるマグネティックナビゲーションシステムを導入しました。磁力を利用するために放射線被曝を軽減でき、より安全に、かつ複雑な不整脈を持った患者さんの治療を可能にしています。
現在、高槻病院で再生医療の取り扱いが開始できるよう、必要な体制整備を進めています。その他、医工連携にも積極的に参画するなど、新しいテクノロジーを医療へ取り入れる動きにキャッチアップすべく、精力的に活動しています。
当院は総合周産期母子医療センター、また小児にも対応する二次救急医療機関であり、様々な症例に出会います。特に小児救急の分野では、小児科領域だけではなく、小児外科や小児脳神経外科も標榜していますので、外傷で搬送されてくることもあります。大阪府は児童虐待通告件数が全国一という地域です。当院ではこどもの身体面だけみて終わり、ということではなく、子どもの様子や親子の関わりにも関心を持って目を向け、もし支援が必要な親子がいればすぐに介入できるよう、医師・看護師・ソーシャルワーカー等が連携し、児童虐待防止チームを組織して対応しています。
様々な症例に出会う中で、より早期からの支援開始が必要だと考え、妊娠期からの支援にも助産師と連携して積極的に取り組んでいます。来期には「こどもと家族の支援センター」を立ち上げ、地域の中核病院として、医療機関の立場から地域の児童虐待防止に貢献できればと考えています。
標榜診療科一覧:内科、消化器内科、循環器内科、呼吸器内科、糖尿病内分泌内科、腎臓内科、神経内科、精神科、産婦人科、 小児科、新生児小児科、小児外科、小児脳神経外科、外科、消化器外科、心臓血管外科、呼吸器外科、整形外科、脳神経外科、 泌尿器科、眼科、耳鼻いんこう科、皮膚科、形成外科、リハビリテーション科、放射線診断科、放射線治療科、病理診断科、麻酔科 *弊社規定のタグの診療科目は、病院が標榜しているものとは一部名称が異なる場合があります。
社会医療法人愛仁会高槻病院 病院長
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。