院長インタビュー

患者さんがいつでも頼れる病院であるために 杏雲堂病院の取り組み

患者さんがいつでも頼れる病院であるために 杏雲堂病院の取り組み
中村 俊夫 先生

公益財団法人佐々木研究所 理事長、公益社団法人佐々木研究所附属 杏雲堂病院 院長

中村 俊夫 先生

この記事の最終更新は2017年06月27日です。

公益財団法人佐々木研究所附属杏雲堂病院は東京都千代田区で130年以上に渡り運営される、歴史のある病院です。杏雲堂病院は「無痛ラジオ波焼灼術」や「光線力学療法」など特徴的な治療を提供しながらも、地域のニーズに対応すべく地域包括ケア病棟の運営も行っています。今回は杏雲堂病院の院長である中村俊夫先生に杏雲堂病院の歴史や取り組みについてお話を伺いました。

杏雲堂病院

杏雲堂病院は1882年(明治15年)に初代院長佐々木東洋によって創設されました。

佐々木東洋は打診(指先や打診器で内臓の診察をすること)の実力に評判があり、「たたき東洋」の名で世に知られました。また当時の国民病であった脚気(かっけ)の専門医でもありました。

二代目院長の佐々木政吉はドイツ留学を経て、大学東高(東京大学の前身)で日本人初の臨床教授となった人物です。彼は結核の名医であり、院長在任中に神奈川県平塚市に結核療養所として「杏雲堂平塚病院」を創設するなど、多くの功績を残しました。

三代目院長の佐々木隆興は臨床だけでなく基礎研究にも力を入れ、公益財団法人佐々木研究所を設立しました。佐々木隆興は研究所の研究員であった吉田富三とともに、がんに関する研究実績を積み、両者ともに学士院恩賜賞と文化勲章を受賞しています。

杏の花

初代院長佐々木東洋が命名した「杏雲堂病院」という名称は中国の神仙伝という著書に由来しています。

神仙伝には、「人の為に病を治すも銭物をとらず、病の癒ゆる者、軽症の時には杏一株を植えしめ、重症の時には五株を植えしめたり。かくの如くすること数年にして十万株となり、鬱然(うつぜん)として林を成し、杏花雲の如く、杏子大に熟せり」つまり「中国のある名医が治療費をとらず、代わりに杏の木を軽症のものには一株、重症のものには五株植えさせ、それがのちに大きな杏の林となった」という一文があります。

これに感銘を受けた佐々木東洋は、自分もこのような名医でありたいとの願いを込め「杏雲堂病院」と名付けたといわれています。

このように歴代の院長が築き発展させた杏雲堂病院は、2017年で創立135年を迎えます。当院では病院を持続・発展させていくために様々な取り組みを行っています。

杏雲堂病院は東京都千代田区に位置し、当院の二次医療圏(病床数が地域ごとにどれだけ必要かを考慮して定められた医療圏)は区中央部医療圏(文京区、台東区、千代田区、中央区、港区)に属しています。

区中央部医療圏の特徴は、全国的に著名な大病院が数多くあることと、急性期病床の数が非常に多いことです。そのため、医療圏内に入院している患者さんの約8割は医療圏外から来院しています。一方、医療圏内に居住している約半数以上の方は、医療圏外の病院へ入院しています。

つまり、区中央部医療圏の病床機能が地域のニーズに見合っていないということです。これを受けて杏雲堂病院は、地域のニーズに対応するため地域包括ケア病棟の運営を開始いたしました。

地域包括ケア病棟とは、急性期病棟での治療は終えたものの、自宅や施設への退院支援が必要な患者さんや、入院が必要な状態ではあるが、急性期病棟での治療は必要としない患者さんなどを受け入れるための病棟です。

先にも述べましたが、当院が属する区中央部には高度な治療を行う急性期病棟が非常の多い地域ですが、地域包括ケア病棟などの回復期病棟や慢性期病棟は非常に不足しています。

しかしながら、区中央部の人口は今後も増加するとされており、それとともに65歳以上の高齢者の数も増加していくと予測されます。よって区中央部における回復期や慢性期病棟の必要性は、今以上に求められていくことと考えます。

そこで当院はこの地域の患者さんが、お住まいがある医療圏外へ入院する必要がないよう、2014年12月に地域包括ケア病棟を45床設置いたしました。

自宅や施設に入院されている患者さんの受け入れはもちろんのこと、近隣の急性期病院とも連携を密に図り、これらの病院からの患者さんの受け入れも積極的に行なっています。

杏雲堂病院では一部病床を地域包括ケア病棟に転換しましたが、杏雲堂病院ならではの治療を行うことで急性期の治療にも引き続き力を入れて取り組んでいます。ここではそれらの取り組みについてご紹介いたします。

当院の消化器内科の大きな特長は「無痛ラジオ波焼灼術」を実施していることです。

ラジオ波焼灼術とは肝臓がんに対する治療で、超音波で観察しながらがん組織に電極を挿入し、周波数の低いラジオ波を流すことでがん組織を加熱、壊死させるものです。

このラジオ波焼灼法を行っている医療機関は全国に800施設ほどありますが、ほとんどの施設では局所麻酔によって軽い鎮静をかけるのみで、患者さんの意識がある状況で手術を行っています。

しかし、当院で行う「無痛ラジオ波焼灼術」は、静脈麻酔を用いて行うため、患者さんは眠っている間に痛みや恐怖を全く感じることなく手術を受けることができます。

さらに進行した肝がんに対して、肝動注療法を実施し、良好な成績を挙げております。

過去10年間で1,100人の患者に治療し、日本で一番の実績があります。

これらの治療を受けた患者さんからはお褒めの言葉を多数いただいており、全国から患者さんが来院しています。

婦人科においては子宮頸部異形成(子宮頸がんの前段階)や子宮頸部初期がんに対する「光線力学療法(PDT療法)」が大きな強みとなっています。

光線力学療法とは、がん細胞に集積しレーザー光に反応する薬剤を静脈注射したあと、レーザー光線を病変部に照射しがん細胞を破壊する治療です。この治療は麻酔の必要がなく、出血や痛みも伴いません。また、円錐切除術と異なりがん細胞のみを死滅させるため、子宮頸部の形態と機能を温存することができます。

子宮頸部異形成は20〜30代の若い女性に多くみられる疾患で、この治療を行ったあと、かなり高い確率で妊娠・出産が可能となります。

当院では消化器外科や婦人科での手術を中心に、腹腔鏡手術に力を入れています。

腹腔鏡手術とは、お腹に複数の小さな穴をあけ、そこから専用の器具を挿入して行う手術のことです。メスでお腹を切る必要がないため、出血などもほとんどなく、患者さんにとって安全で負担の少ない手術です。

当院のある千代田区には会社が多くあるため、夜間人口に比べて昼間人口が非常に多くなります。そのため昼間に急性腹症虫垂炎や胆石など)で搬送されてくる患者さんが多く、消化器外科ではこれらの疾患に対する腹腔鏡手術の実施件数が多くあります。

中村俊夫先生

杏雲堂病院は、困った患者さんがいるときにすぐに頼ってもらえるような病院であり続けたいと考えています。

そのためにはまず、地域包括ケア病棟の運営を強化していくことで、この地域の患者さんが自身の医療圏内できちんとした医療を受けるべきだと考えています。地域包括ケア病棟では、患者さんの退院後の支援を強化するために2017年4月から医療ソーシャルワーカー(社会福祉士)を増員しました。これによって今後ますます、患者さんに対しあらゆる面からのサポートができると考えています。

このような体制を強化したうえで、当院で働くすべての職員には暖かい気持ちで患者さんに医療を提供してほしいと考えています。

患者さんのなかには、杏雲堂病院のことを「杏雲堂さん」と呼んでくれる方が多くいます。これからも皆さんに「杏雲堂さん」と呼び続けていただけるよう、思いやりを持った診療を継続していきます。

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