院長インタビュー

地域の医療を支える日本医科大学多摩永山病院の取り組み

地域の医療を支える日本医科大学多摩永山病院の取り組み
中井 章人 先生

日本医科大学 産婦人科学教室 教授、日本医科大学多摩永山病院 院長

中井 章人 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年12月28日です。

多摩川流域の東京都多摩市、稲城市、八王子市、町田市にまたがる広大な多摩丘陵に、多摩ニュータウンの建設が始まったのは1970年代です。日本医科大学多摩永山病院は、多摩ニュータウンおよび周辺地域の医療体制を支えるべく、1977年に開院しました。

地域医療を担う病院として活躍する同院が取り組む医療について、院長の中井(なかい) 章人(あきひと)先生にお話を伺いました。

病院外観
病院外観

当院は、東京都などの要請によって1977年に開院しました。多摩ニュータウンにおける地域医療を担う病院として、現在も変わらずその責務を果たし続けています。

特に近年では、救急医療、がん診療、周産期医療の強化を図っています。

手術中の様子
手術中の様子

当院は、東京都がん診療連携拠点病院に指定されています。

これは、その地域におけるがん診療や連携協力体制の要として指定された医療機関のことで、当院は南多摩地区におけるがん診療を牽引する存在としての活躍が期待されています。

手術中の様子
手術中の様子

がん治療の中でも根治を目指すための方法として、手術・抗がん剤治療・放射線治療などがあり、通常はこれらを組み合わせて治療にあたります。

当院では、手術ができないことで患者さんのがん根治の可能性を低下させることのないよう、本当に手術ができないのか事前検査も含めて再検討して、工夫しながら可能な限り根治手術を実施しています。たとえば手術前では、がん以外の合併症への対策を十分に練るほか、手術の負担を軽減させるためにさまざまな術前処置を行い、抗がん剤治療を組み合わせるようにしています。手術自体では、低侵襲治療と呼ばれる内視鏡手術などによって対応しています。手術後は早期に離床を促し、特に術後肺炎、肺塞栓などの合併症の防止に努めたり、早い段階で食事を開始して栄養状態を改善したりすることで、より早い社会復帰を目指しています。

これらの取り組み以外にも、各診療科の垣根を越えた多職種によるチーム医療で術前術後管理に対応しています。

大規模火災現場への派遣
大規模火災現場への派遣

当院は1983年3月に救命救急センターに指定されました。救命救急センターでは、重症の外傷や熱傷、急性中毒、心肺停止、脳血管障害、急性心筋梗塞などの心疾患といった、通常の医療機関では対応が難しく一刻を争うような症例への対応を行っています。

当院は以来30年以上にわたって、周辺地域で発生した要請の中でも特に重症度の高い搬送者を中心に受け入れ治療し続けてきました。

一人でも多くの患者さんを救うこと、そして1日でも早く社会復帰させることを実現するため、2004年8月からドクターカーによる消防庁救急車との連携をスタートしました。また2011年3月からは、軽自動車によるドクターカーも運用を開始しています。

ドクターカーでは専門のトレーニングを受けた救急科の医師・看護師・救命救急士で結成されたチームが直接現場に向かい、傷病者の治療、トリアージなどを開始します。そのため、通常の救急車搬送時に比べて必要な検査や処置を早い段階で実施可能なことが特徴です。

分娩室の様子
分娩中の様子

地域に対してより安心かつ快適な周産期医療を提供するためには、妊婦さんを複数の医療施設で診ていけるような連携体制の構築と強化が必要と考え、地域の医療機関との連携協力によるセミオープンシステムを導入しました。

これは、妊婦さんのリスクに応じて施設を選択していただくワークシェアリングシステムです。ハイリスクの方は従来どおり当院で管理し、リスクの低い方はお住まいの近くにある提携医療機関で定期健診を受けていただき、分娩時もしくは何かしらの問題が生じた場合には当院を受診していただくといったものです。

このシステムでは、妊婦さん・地域の提携医療機関、当院それぞれにメリットがあります。

妊婦さんはご自宅近くにある医療機関で健診を受けられるため時間的・身体的負担が少なくなるほか、万が一の事態にはすぐに当院での診療につなげることができます。

提携医療機関は、当院とのスムーズな連携を取りやすくなることに加え、当院で年に数回の研修会や協議会を行うことで、地域内の周産期医療の質の標準化にもつながっています。

地域の医療機関と分業化を進めることで、当院では、出産に伴うより高いリスクをもつ妊婦さんの治療に専念できるようになりました。

このシステムを導入するにあたり、携帯用カルテも取り入れました。妊婦さんにカルテを預けて健診のときに持参していただき、医療機関は検査結果や所見などを書き込むことで、ネットワーク内での情報共有がよりスムーズになりました。

院内助産システムも地域の周産期医療を支える取り組みのひとつです。

これは、医療機関で行う助産外来や院内助産などの妊婦健診や、分娩または保健指導の場で助産師を積極的に登用し、妊婦さん一人ひとりが持つニーズに柔軟に対応するためのシステムです。

先にご紹介したセミオープンシステムと院内助産システムをうまく運用することで、ハイリスク妊娠にも地域全体でスムーズに対応し、お産しやすい地域づくりに貢献していきたいと考えています。

高齢化の進行に伴って、目の水晶体が濁る白内障や、視界が歪むといった症状の出る加齢黄斑変性の患者さんが増えています。これらの眼疾患に対応するため、白内障手術をはじめ、網膜硝子体手術、緑内障手術などを行っています。

職員集合写真

今後も地域に医療を提供していくためには、医療に携わる人材の育成も欠かせません。大学付属病院である当院にとって、医学部生・薬学部生・看護学生に対する研修や教育も、診療と同じくらい重要な使命であるといえるでしょう。

2018年10月現在、当院は46領域での施設認定を受けており、それぞれが目指すキャリアを実現するために必要な学びの場を提供することができます。

先生

当院は開院以来、がん診療、救急医療、周産期医療などをはじめ急性期医療に取り組み続け、南多摩地域の医療を支え続けてきました。

私自身は産婦人科の医師として、“当たり前のことを当たり前のようにできる”ことが大切だと考えています。院長としても、南多摩地域にお住まいの皆さんが必要な医療をスムーズに受けられるようにするためにはどうしたらよいか、また当院のスタッフが地域の皆さんの求める医療を的確にご提供できるようにするためにはどうしたらよいか考え、行動し続けてきました。

高齢化の進行や働き方改革など、さまざまな問題が注目を集めています。今後もこの地域の医療を支えていくためには、地域の医療機関同士がそれぞれの特性を生かしながら連携して、地域全体が一体化していく必要があります。

一人でも多くの方に医療をスムーズに提供していくため、ご理解とご協力をお願いします。