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住み慣れた我が家で最期を迎える「在宅での看取り」の魅力と課題

住み慣れた我が家で最期を迎える「在宅での看取り」の魅力と課題
藤井 慶太 先生

栄小磯診療所 院長

藤井 慶太 先生

目次
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人の一生の終着を見届ける「看取り」。現代における日本の看取りは、病院で行われることがほとんどで、横浜市も例外ではありません。しかしながら、75歳以上の高齢者の増加に伴う医療・介護の需要の拡大や医療費の圧迫、病床不足などの問題から、病院での看取りは限界を迎えつつあります。そこで近年、慣れ親しんだ家で最期を迎える「在宅での看取り」が、在宅医療と共に注目されてきています。栄小磯診療所院長の藤井慶太先生は、市民の方々が看取りについて深く知り、適切な選択をできるように啓発活動を進めていきたいとおっしゃいます。

病院での看取りと在宅での看取りには、どのような違いがあるのでしょうか。両者の違いや在宅での看取りのメリット・デメリット、栄小磯診療所が実際に行っている取り組みについて、藤井慶太先生にお話しいただきました。

在宅での看取りについてお話しする前に、そもそも「看取り」とはどのような行為であるか、改めて考えてみましょう。看取りの定義にはさまざまな説があり、断定することは難しいのですが、私の考える看取りとは、「人生の最終段階にある〈病気の方〉のそばに寄り添って日常生活のお世話を行い、その方の最期を見届けること」です。つまり、看取りの対象になる方は必ずしも高齢者であるとは限りませんし、心不全認知症などの慢性疾患ではない、末期がんなどの場合も含まれるということになります。

冒頭でも述べた通り、日本では、ほとんどの方が病院で看取られている現状があります。

しかしながら、人口の高齢化やいわゆる「2025年問題」に伴い、今後の日本では首都圏を中心に病床の空きがなくなり、病院での看取りも難しくなっていくと予測されています。横浜市においても高齢者の数は年々増加し、2025年には市在住の75歳以上の高齢者が57万人に達すると推測されており、看過できない問題と考えられます。

そこで市が着目しているのが、自宅でも看取りを行うことのできる在宅医療です。在宅医療は「治す」ための医療ではなく、その方の療養環境を整え、QOL(生活の質)を維持するための医療とされています。もちろん、在宅医療の一環に看取りも含まれます。在宅での看取りであれば、その方が心から安心できる場所でご家族や身内、大切な方に囲まれながら、最期を見届けてもらうことができます。

ただし、すべてのケースに在宅での看取りがすすめられるわけではありません。重要なのは、看取りは病院だけではなく在宅でもできるのだということを多くの方に知っていただき、状況や希望に応じて看取りの方法を選択できるようになることです。

在宅での看取りの最大のメリットは、ご本人の自由度にあると考えます。

たとえばご本人が愛煙家の場合、入院中はほぼ間違いなく喫煙できません。また、お酒が好きな方の場合も、入院中に制限なく飲酒することは難しいでしょう。しかし、在宅で過ごす場合は、飲酒や喫煙のような「健康によくないと思われてしまうこと」も自由にすることができます。

これらは一見健康を害するようにも思えますが、患者さんによっては生きる楽しみでもあります。日々自由に行動できることで患者さんが毎日を楽しく過ごせるようになり、最終的にご本人やご家族にとって満足のいく人生につながる可能性もあるのです。

このような考え方から当診療所では、患者さんが自宅で自由にしていただけるように、あえて生活に過度の制限を設けないようにしています。実際に私が在宅医療を行っている末期がんの患者さんの中には、在宅医療に切り替えてから自由に飲酒をするようになって、痩せていた体に肉がつき、見違えるほど元気になった方もいます。

看取りという観点からその方の残りの人生を考えたとき、健康に気を使った生活を送るよりも、好きなことを好きなだけして楽しく生活したほうが、ご本人やご家族にとって満ち足りた最期が迎えられると考えています。

もうひとつのメリットは、慣れ親しんだ家に住んで療養する形をとるので、ご家族とのコミュニケーションが増えることです。

施設によって基準は異なりますが、病院で看取りをする場合、ご家族が患者さんに会える時間(面会時間)は限られていることが多いです。また、患者さんは馴染みのない無機質な病室で最期を迎えることになります。これに対して、実際に生活していた場所で自由に過ごせる在宅医療では、いつでも患者さんとご家族が顔を合わせて会話できる状況ですし、馴染みのある場所で安心して最期まで暮らせます。

また、一般的に在宅医療は入院に比べて費用が安いというメリットもあります。

デメリットは、介護の面・精神面でご家族に大きな負担がかかることです。在宅医療の場合、常に医療従事者がご自宅にいることはできないので、褥瘡(とこずれ)処置やおむつ交換など、入院していれば医療従事者が対応することも、ある程度はご家族にしていただく必要があります。これに加えて、患者さんが病院に入院していれば見ることのない、末期症状で痛がる姿や苦しそうな姿を、ときとして目の当たりにすることになるかもしれません。これは精神的な負担にもなります。

先ほど述べたように、在宅医療では介護が大きな課題点となります。介護は未経験という方であっても、体位の変換やおむつ交換の手順、局部の拭き方などを一から覚えて、実際に行い、慣れていかなければなりません。もちろん、事前に看護師が伺って介護の手順やポイントをお伝えしますが、それでもご自分の手で介護をすることが難しいと判断されるご家族もいらっしゃいます。この場合、訪問介護(ヘルパー)を検討することもあります。

看護師の人手やご家族の介護負担を考えたとき、今後はより多くの介護者を在宅医療の場に増員できれば理想的です。多くの介護者を在宅医療に取り入れられるようになれば、在宅での看取りの量・質ともに向上することが期待できるでしょう。

もう1点、在宅での看取りが普及しづらい要因には、「大病院が行う医療が最良な治療法である」というイメージが、世間に浸透していることが挙げられます。

病院は病気を治すための施設ですので、前述したような「自由な」生活は必ずしも実現できません。ご本人やご家族の明確な意思表示がない限り、末期がんの患者さんにも積極的な治療を行うことがあります。たとえば食事が摂れなくなった患者さんには点滴や経鼻胃管、胃ろうなどから栄養を補給することも多々ありますし、呼吸が自力でできない患者さんには人工呼吸器が装着されることもあります。

日本ではこのような医療がスタンダードであると認識されている方がまだまだ多いのが現状です。

病院で行う医療を否定する気持ちは一切ありませんが、前述したような全力の医療だけがすべてではありません。食事が摂れなくなったり、体が動かせなくなったりしても点滴をせず、安らかな最期を迎えるための医療が存在します。各々の価値観によって、「最良」と考える医療は異なるのです。高齢者の増加や2025年問題に直面し、病院での看取りが難しくなる昨今で、より多くの方が安心して看取りを迎えることができるようになるためには、継続的に在宅医療や在宅での看取りがどのようなものであるかを啓発し、多くの方に認識していただく必要があると考えています。

当診療所では、在宅医療を行うことになった患者さんが大病院を退院する直前に、退院前カンファレンスを可能な限り行っています。退院前カンファレンスの際は私たちが病院まで伺い、退院前の患者さん、ご家族、病院での担当医、在宅医療の担当医、看護師、ケアマネージャーなどが直接顔を合わせて引継ぎを含めた話し合いを行います。

カンファレンスを開き、病院の担当医と在宅医療の担当医が連携していることをあらかじめ知っていただくことで、大病院を離れて在宅医療に移る不安を和らげることができると実感しています。

また、私自身、横浜市南部病院、横須賀市立うわまち病院、横浜栄共済病院の非常勤を務めており(2019年1月時点)、大病院とのつながりを保っています。在宅医療に移ってから病院との関係が切り離されてしまうことはありませんし、これまでの治療方針と全く異なる医療が行われることもありません。在宅医療を希望している皆さんには安心して退院し、ご自宅で自由に過ごしていただければと考えています。

在宅医療への移行や在宅での看取りを検討したい場合は、まず病院の地域連携室の窓口にご相談することをおすすめします。地域連携室では、その方の希望(「明るくてお話好きな先生」、「穏やかな先生」など医師のタイプに関しても相談に乗ってくれることがあります)に応じて、適切な在宅医療機関を紹介してくれます。かかりつけの大病院がない方は、かかりつけ医、もしくはお近くの地域ケアプラザなどにご相談ください。

在宅での看取りは、患者さんのQOL(生活の質)を最大限尊重しています。残された生活をより幸せに送っていただくためにサポートをするだけではなく、ある程度までであれば病院と同程度の医療を実施することも可能です。退院して自宅に戻ったからといって十分な医療が受けられないということはありません。

市民の方々には、本記事でご説明してきた在宅医療や在宅での看取りのメリット・デメリットを知っていただき、人生の最終段階の選択肢のひとつとして認識していただければ嬉しいです。

そして実際に自身またはご家族が人生の最終段階に差し掛かったとき、在宅での看取りと病院での看取り、どちらが望ましいかをしっかりと考え、適切な選択をしていただきたいと考えます。一人ひとりが看取りについてしっかり考え、正しい選択をすることが、ひいては横浜市全体の医療の向上につながるでしょう。

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