院長インタビュー

リスク診断から緩和ケアまで一貫したがん診療で地域の方々を支える愛知県がんセンター

リスク診断から緩和ケアまで一貫したがん診療で地域の方々を支える愛知県がんセンター
丹羽 康正 先生

愛知県がんセンター 病院長

丹羽 康正 先生

目次
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愛知県がんセンターは、がん診療連携拠点病院として地域のがん診療を支えています。近年では、がんゲノム医療に注力し、がんのリスク診断から緩和ケアまで一貫した治療の提供に尽力しています。

今回は、同院の特徴的な診療体制や取り組みについて、病院長の丹羽 康正(にわ やすまさ)先生にお話を伺いました。

愛知県がんセンター 外観
愛知県がんセンター 外観

当院は、1964年に設立されたがん治療を専門とする医療機関です。2007年に都道府県がん診療連携拠点病院の指定を受け、現在に至るまで集学的がん治療や緩和ケアの提供、セカンドオピニオンへの対応を行ってきました。また、医師や看護師、薬剤師への研修を実施し、がん診療を行うことで人材の育成にも注力しているほか、地域のがん診療拠点病院との密な連携にも努めています。

近年では、2016年に希少がんを扱うサルコーマセンターを開設。2017年に個別化医療センター、2018年にリスク評価センターを開き、2019年にはがんゲノム医療センターを設けました。それにより、がん治療のさらなる専門化を図るとともに、がんゲノム医療に本格的に注力し始めました。そうした背景があり、2019年9月に厚生労働省が認めるがんゲノム医療拠点病院に指定されています。

がんセンターという名称の通り、当院では全身のがんに対して内視鏡手術や外科手術、化学療法、放射線治療、免疫療法などを網羅的に実践する集学的医療を提供しています。その中でも、消化器全般や肝胆膵領域、頭頸部、乳腺、肺などに発症するがんに注力しています。

特に、頭頸部がん頭頸部外科部を構えて形成外科部と協力しながら、可能な限り後遺症や傷あとを残さないように対応しています。また、乳がん治療では、乳腺科部と形成外科部が連携して術後の乳房再建術も行っています。

治療の方針に関しては、各診療部門で治療を受けている患者さん一人ひとりに対して、各領域の内科と外科、放射線治療部、薬物療法部などの医師が集まってカンファレンスを行い、年齢や性別、がんの進行度など多角的な視点をもって決定しています。化学療法で切除可能になったがんを取り除くコンバージョン・サージェリーもひとつの選択肢として実施しており、どの段階の患者さんに対しても、常により適した治療の選択を心がけています。

合同カンファレンスの様子
合同カンファレンスの様子

また、がんのほかに合併症を併発している患者さんもいます。そうした、総合的な診療が必要な方の治療も可能な限り当院で行っています。そのうえで、より専門的な治療を受ける必要がある場合は、専門的な部門を有する地域の医療機関にご紹介することで対応しています。

緩和ケアセンターを開設し、治療と並行して早期から緩和ケアを提供できる体制を整えています。同センターは四つの外来を設置しており、主に身体的苦痛のケアを行う“緩和ケア科”、精神的不安の緩和を図る“精神腫瘍科”、麻酔科で痛みをコントロールする“ペインクリニック”、他院で診断を受けた患者さんのご相談に応じる“緩和ケア科(セカンドオピニオン外来)”があります。いずれの外来でも、患者さんの意思を尊重し、治療と療養の継続をサポートしています。

また、患者さんが少しでも治療に前向きに取り組めるように、当院ではさまざまな方法で精神的ケアを行っています。たとえば、患者さんとご家族を集めてがん治療と緩和ケアに対する啓発と説明を行うだけでなく、患者さん同士が交流できる“がんサロン”を定期的に行っています。災害時のがん治療やホスピスについてのセミナー、キャンドル作りや漫画でがんについて勉強する体験企画など、幅広いプログラムを用意しています。

がんサロンの様子
がんサロンの様子

さらに、当院の売店では、抗がん剤で髪の毛が抜けてしまった患者さんのために、ウィッグの販売をしています。各メーカーの相談会も実施していますので、ぜひお気軽にご利用ください。

リスク評価センターは遺伝子医療を専門とする部署であり、遺伝的にがんに罹患するリスクがあるかを評価、診断しています。また、同センターでは遺伝カウンセリング外来を開設しています。この外来では、遺伝性のがんに対する不安を持つ方のお話を聞き、必要に応じて遺伝学的検査を行っています。たとえば、「がんになった家族がいるが、自分は大丈夫だろうか」、「そもそも、がんは遺伝するのか」などといったお悩みをご相談いただけます。

さらに、同センターでは、ご承諾いただけた患者さんの血液や各種データを保存し、基礎研究や臨床研究に役立てています。研究所併設の病院という利点を生かして、遺伝性がんに関する研究や新たながん治療の確立、新薬開発などを積極的に行っています。

かのこ文庫の書架整理の様子
かのこ文庫の書架整理の様子

当院では、地域住民の方による院内ボランティア活動が行われています。ボランティアの方々には、院内図書館“かのこ文庫”の図書貸出や書庫整理をはじめ、外来の案内、庭園の手入れなどを担っていただいています。また、ボランティアの方が撮った写真を院内に飾っています。

当院の診療は、このような地域住民の方たちのご協力によって支えられていると思っています。私自身も、定期的にボランティアの方と対話の場を設けるようにして、積極的に交流を図っています。

当院では、患者サービス委員会を設置して定期的に地域の方々との交流の場を設けています。たとえば、ロビーなどで行う院内コンサートを開催しています。こうした取り組みは、患者さんの治療の合間の気分転換にもなっています。

さらに当院では、がん患者さん同士が交流し、がん治療後の機能訓練を行う場として院内フロアを提供しています。たとえば、日本喉摘者団体連合会“愛友会”が主催する発声訓練指導などが代表的です。ここでは頭頸部がんの手術後、声が出せなくなってしまった方に対する発声訓練を行っています。

このように、治療だけでなく多様な患者サービスで、今後も地域のがん治療を支えていきたいと思っています。

当院では、医療安全に対する取り組みに力を入れています。具体的には、医療事故防止対策の策定と事故防止対策のマニュアルを作成。さらに、インシデント・アクシデントレポートの導入と徹底に加え、リスクマネジメントの専任者を招くなど、さまざまな取り組みを行っています。また、インフォームド・コンセントの徹底にも力を入れています。常によりよい診療を行うことを目指すだけでなく、患者さんやご家族にその治療についてきちんと説明し、十分にご理解いただいたうえで同意を得ることが大切だと考えています。

さらに、当院の医療安全に関する取り組みを監査するために、愛知県がんセンター医療安全監査委員会があります。ここでは、当院に所属しない医療職や法律家、医療安全の専門家が監査委員となっており、当院の取り組みを客観的に評価しています。

当院の職員全員で医療安全に対する意識を高めることで、患者さんの安全を守るためのシステムを確立していきたいと思います。

丹羽先生

若手のときは、がん医療だけでなく多様な経験をしてほしいと思います。初めから専門性の向上に向かうだけでなく、広く総合的に勉強してください。

医療の世界は、どんどん姿を変えていきます。さまざまな経験と知識でしっかりと医師としての土台を築き、変化に対応できるように視野を広げていきましょう。

がんセンターとして、標準治療を確実に行いながら、ゲノム医療などの先進医療の提供にも積極的に取り組んでいきたいと考えています。ゲノム医療の普及が進むと、今よりさらに、がんの発症リスクの有無が明確化します。リスクがあると診断された方の治療と心のケアの両方に対応していけるよう努めていきます。そして、今後もどのような段階のがんに対しても、より適切な治療を提供していけるように尽力してまいりたいと思います。

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