インタビュー

過活動膀胱の行動療法とは? ——排尿トラブルの改善を目指して

過活動膀胱の行動療法とは? ——排尿トラブルの改善を目指して
髙橋 悟 先生

日本大学医学部 泌尿器科学系 泌尿器科学分野 主任教授、日本大学医学部附属板橋病院 病院長

髙橋 悟 先生

目次
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尿意切迫感(トイレを我慢することが難しい強い尿意)を主症状とする過活動膀胱。悪化すると生活の質の低下につながるため、生活する中で不便さを感じたら放置せずに泌尿器科を受診することが重要です。

過活動膀胱の治療の1つである行動療法は、副作用がほとんどなく症状の改善が期待できる治療といえます。なかでも膀胱底筋訓練は、日常生活に取り入れやすいトレーニングであるため、過活動膀胱の症状がある方はぜひとも知ってほしい治療法です。

今回は、日本大学医学部 泌尿器科学系泌尿器科学分野で主任教授を務める髙橋 悟(たかはし さとる)先生に過活動膀胱の行動療法についてお話を伺いました。

過活動膀胱とは、尿意切迫感を主症状とし、それ以外にも頻尿や切迫性尿失禁(尿漏れ)などの排尿に関する症状が見られる状態を指します。尿意切迫感とは、家事や仕事など、その時やっている作業を中断してすぐにトイレに行かなければならないほどの強い尿意のことです。

過活動膀胱の原因は神経因性と非神経因性に大別されます。その中で、非神経因性過活動膀胱の割合が8割以上を占めるとされており、それに比べて神経因性過活動膀胱は少数派といえるでしょう。

神経因性過活動膀胱

中枢神経などの神経系に異常をきたす病気が明らかに過活動膀胱の原因に関与していると思われる場合、神経因性過活動膀胱と診断されます。脳血管障害やパーキンソン病などの脳の病気、あるいは脊髄損傷(せきずいそんしょう)などの脊髄の病気が神経因性過活動膀胱の主な原因疾患です。

脊髄とは、脳の指令を全身に伝える役割を担う神経の束です。特に排尿中枢である仙髄よりも上の脊髄に異常がある場合、排尿をうまく抑制することができなくなってしまい、過活動膀胱の症状が現れます。

神経因性過活動膀胱

非神経因性過活動膀胱

神経因性過活動膀胱で挙げた原因以外でトイレが近くなる場合には、非神経因性過活動膀胱と診断されます。非神経因性過活動膀胱のもっとも多い原因は加齢によるものです。そのほか、前立腺肥大や骨盤底筋の弱体化、骨盤の中の血流障害などに加え、原因が判然としない過活動膀胱も非神経因性過活動膀胱に区分されます。

過活動膀胱の患者さんには高齢の方が多く、年齢が上がるにつれて男女ともに患者数は増加する傾向が見られます。なお、男性に比べて女性は尿道が短いため、尿失禁の症状は女性に多く現れます。

加えて、肥満などの生活習慣病糖尿病などは過活動膀胱のリスク因子といわれているため、これらが当てはまる方は過活動膀胱の予防のためにも生活習慣の改善に取り組むことも大切です。

トイレを我慢する男性 PIXTA
画像提供:PIXTA

過活動膀胱で必ず現れるのは尿意切迫感です。つまり、昼夜問わずトイレが近くなる状態を指します。加えて、実際にトイレに間に合わず、漏れてしまう切迫性尿失禁という症状が現れることもあります。

過活動膀胱は、いわゆるQOL(Quality of Life:生活の質)を低下させる病気ですので、治療によって患者さんの症状が改善され、患者さんのQOLが向上することが重要です。その点を鑑みて、治療方針を決めていきます。

過活動膀胱の治療は、行動療法・薬物療法・それ以外の治療法に大別されます。

過活動膀胱の一次療法として、まずは行動療法で生活指導・骨盤底筋訓練・膀胱訓練を行うのが基本です。行動療法は副作用がほとんどないため、薬物療法などほかの治療法と併用する場合もあります。

過活動膀胱の二次療法として、薬を用いて過活動膀胱の症状の改善を図ります。代表的な治療薬として、抗コリン薬・β₃(ベータスリー)アドレナリン受容体作動薬が挙げられます。

行動療法ならびに薬物療法で症状が改善されない場合には、難治性過活動膀胱という状態と考えられます。その場合には、仙髄を電気刺激する仙骨神経刺激療法などの神経変調療法を実施します。

正常な膀胱は200~300mlほどの尿量を膀胱に溜められるため、3~4時間は尿意を感じずに生活することが可能です。したがって、3~4時間トイレに行かずに生活できるのであれば、日常生活で不便さを感じることはさほどありません。行動療法では生活指導・骨盤底筋訓練・膀胱訓練によって膀胱をコントロールできるようにし、この状態を目指します。

次では、具体的な行動療法について、それぞれご説明します。

高血圧や肥満などの生活習慣病は、過活動膀胱ならびに尿失禁の要因となることが報告されています。そのため、生活習慣を是正して症状の軽減を図ることが重要です。

具体的にどのような点を改善すべきか見ていきましょう。

まず適切な水分摂取量を指導します。1日当たりの水分摂取量は、食事で取る水分を除いて1~1.5Lを目安と考えるとよいでしょう。1日1~1.5Lほど水分を摂取していれば、血が濃くなる、脳卒中になりやすいなどの心配もありません。また、塩分摂取量が増えると自ずと水分摂取量が増えてしまうため、塩分を控えることも大切です。

高血圧は、過活動膀胱のリスクとされているだけでなく動脈硬化が進みます。高血圧さらには動脈硬化の予防のためにも、食生活の見直しや適度な運動、お酒・カフェインの適量摂取などを心がけ、生活習慣の改善に努めましょう。

骨盤底筋訓練とは、肛門括約筋(こうもんかつやくきん)と呼ばれる尿道を締める力を強くする訓練です。いわば、ゆるんでいる肛門括約筋に尿道を締める力をつけるための筋トレであると理解していただければよいと思います。

尿道が収縮すると膀胱は弛緩する、一方で尿道が弛緩すると膀胱は収縮するというように尿道と膀胱は連動するようになっているので、骨盤底筋訓練で尿道を締める力をつけて尿漏れの予防につなげてください。

骨盤底筋訓練は、仰向けに寝て行う方法と座った姿勢で行う方法に大きく分かれます。仰向けと座位を組み合わせてもよいですし、いずれか一方の方法のみでも構いませんが、骨盤底筋訓練は20回を1セットとして1日3~4セット、計60~80回を最低1か月は続けることが重要です。

仰向けで行う場合

1.足を肩幅に開いて膝を立てて、仰向けに寝ます。
このとき、腹筋には余分な力が入らないように注意しましょう。

2.肛門、腟、尿道を5秒間ぎゅっと締めた後、5秒間ゆるめます。この組み合わせを10回行いましょう。
腹筋に力を入れず肛門が(女性であれば腟も)締まり、骨盤の中の臓器を下から掬い上げるようなイメージを意識しながらやってみてください。この動作は、骨盤底筋の筋トレにあたる動作です。

仰向けに運動

3.肛門、腟、尿道をぎゅっと締める、ゆるめるという動作を2よりも早いテンポで行います。この一連の動作を10回繰り返します。
早いテンポで締める・ゆるめるというのを繰り返すことで、敏捷性(びんしょうせい)(動作の素早さ)を高める練習になります。

4.2と3の組み合わせ20回を1セットとします。

座った姿勢で行う場合

1.椅子に腰かけて、足を肩幅に開きます。
このとき、腹筋には余分な力が入らないように注意しましょう。

座った姿勢で行う場合

2.肛門、腟、尿道を5秒間ぎゅっと締めた後、5秒間ゆるめます。この組み合わせを10回行いましょう。
腹筋に力を入れないで、肛門が(女性であれば腟も)締まり、骨盤の中の臓器を下から掬い上げるようなイメージを意識しながらやってみてください。

3.肛門、腟、尿道をぎゅっと締める、ゆるめるという動作を2よりも早いテンポで行います。この一連の動作を10回繰り返します。

4.2と3の組み合わせ20回を1セットとします。

正しい力の入れ方を覚える

腹筋にだけ力が入ってしまい、かえっていきんでしまっている方がいらっしゃいます。なかなか正しい感覚を掴むのは難しいと思いますが、お風呂に入ったときに肛門や腟の脇に指を添えて骨盤底筋が収縮しているのを確認してみてください。排尿を我慢するとき、あるいはおならが出そうなのを堪えているときが正しい力の入り方なので、その感覚を覚えて骨盤底筋訓練を実践していただきたいです。

さらには、肛門や腟の収縮を画像で確認しながら骨盤底筋訓練のやり方を専門のスタッフが指導するバイオフィードバックという方法と併せて行うことで効果が上がります。ご自身では感覚をつかめない方や、正しくできているか不安な方は専門のスタッフに教えてもらうのもよいでしょう。

仰向けの姿勢と座った姿勢の骨盤底筋訓練をうまく組み合わせて

電車に座る老夫婦
画像提供:PIXTA

尿道を締める力をつけるうえで骨盤底筋訓練の2と3にあたる長く締めるという動作と短く締めるという動作をどちらも行うことは大切ですが、それと同様に1日3~4セット、計60~80回の骨盤底筋訓練を最低1か月は続けるという点は非常に重要です。これを毎日こなすためには、座位の骨盤底筋訓練を、乗り物に乗っているときや病院の待合室で順番を待っているとき、会議中など日常の中で積極的に取り入れることをおすすめします。

体位についてさまざまな方法が取り上げられていますが、仰向けの姿勢と座った姿勢を組み合わせれば問題ありません。1日計60~80回、つまり20回を1セットとして3~4セット行うことが重要ですから、たとえば朝布団から出る前と寝る前に仰向けの姿勢の骨盤底筋訓練1セットずつ行い計40回、加えて座った姿勢の骨盤底筋訓練をすき間時間で1~2セット行うという組み合わせは毎日の生活の中で続けやすいと思います。

足を使う運動も併せて行う

運動をする老夫婦 PIXTA
画像提供:PIXTA

下半身を使う運動をすると、過活動膀胱の一因である骨盤の血流障害を和らげ、さらには夜間頻尿の原因の1つである足のむくみの改善にもつながると考えられます。

具体的には、ウォーキングやスクワットなど内転筋と呼ばれる太ももの内側の筋肉を使うような運動などを1日1時間ほど行うと骨盤内の腸骨動脈の血流がよくなる効果が期待できます。骨盤底筋訓練と膀胱訓練に下半身を使う運動をプラスすることもご検討ください。

膀胱訓練とは、尿意切迫感を自分の意思でこらえて、トイレに行くまでの時間を延ばすために行う訓練です。骨盤底筋訓練を筋トレとするのであれば、膀胱訓練はスポーツの実技練習のようなものといえます。そのため、骨盤底筋訓練と膀胱訓練をどちらも行うことが大切です。

トイレに行きたくなったとしても、尿道を5秒間ほどぎゅっと締めると尿意は和らぎます。この動作によって尿意が和らいだら、数分間トイレに行くのを我慢し、トイレに行くまでの間隔を延ばしていきましょう。

最終的に3~4時間トイレに行くまでの時間が確保できることが理想ですが、まずは1時間半~2時間にすることを目標に、それを5分、10分と段々とトイレに行くまでの時間を引き延ばしていきます。外出時ですと漏らしてしまう可能性があるので、最初は自宅にいるときなどいつでもトイレに行ける環境で行い、自信がついてきたら外出時にも行っていただきたいと思います。

「漏らしてしまうかもしれない」と心配に思われる方は、尿漏れパッドなどを使用するとよいかもしれません。

高橋悟先生

排尿に関して何かお困りごとがありましたら、まずは生活習慣の見直しを検討してください。生活習慣の改善は、過活動膀胱の症状の改善のみならずメタボリックシンドロームの予防にも直結しますので、健康に気を配るという意味でも規則正しい生活を心がけていただきたいと思います。

また、頻尿でお困りの方の中には、喉が渇いていないにもかかわらず水を過剰に飲んでいる方もいらっしゃいます。頻尿の症状がある方は、“水分をたくさん摂取するのはよいことだ”と思い込まず、1日1~1.5Lを目安にするようにしてみてください。

過活動膀胱の症状がある場合、行動療法の1つである骨盤底筋訓練を行うと60~80%、膀胱訓練では約75%の割合で症状が改善すると報告されています。行動療法は副作用もほとんどなく、認知症の方などではない限り適用があると考えられますから、生活指導に加えて骨盤底筋訓練や膀胱訓練といった日々のトレーニングを積極的に行い、症状の緩和や改善に努めていただきたいと思います。

過活動膀胱に関しては症状があったとしても、「歳のせいだから仕方ない」や「恥ずかしい」といった気持ちで病院に行くのをためらってしまう方がいらっしゃいます。しかし、行動療法をはじめさまざまな治療法がありますから、ご自身で生活習慣の改善や行動療法を実践して症状の改善が見られない場合にはためらわずに泌尿器科を受診ください。

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