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インタビュー

過活動膀胱の薬物療法——その特徴や注意点について解説

過活動膀胱の薬物療法——その特徴や注意点について解説
柿崎 秀宏 先生

旭川医科大学 腎泌尿器外科学講座 教授

柿崎 秀宏 先生

目次
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頻尿や急激な尿意などの症状が起こる過活動膀胱は、加齢や生活習慣病などとも関連し、日常生活に大きな影響をきたす病気です。基本的には患者さんの希望に応じた治療法を選択しますが、中でも薬物療法は過活動膀胱に対する中心的な治療法の1つで、症状のさらなる改善と生活の質(QOL)の向上を目的に行われます。今回は、旭川医科大学 腎泌尿器外科学講座 教授 柿崎(かきざき) 秀宏(ひでひろ)先生に、過活動膀胱の薬物療法の特徴と期間、注意点などについてお話しいただきました。

過活動膀胱とは、“尿意切迫感”という急に我慢できないほどの強い尿意が起こり、頻尿(尿の回数が増えること)や尿失禁(尿が漏れること)など、排尿に関してさまざまな症状が起こる状態の総称です。

2002年に日本国内で行われた疫学調査の結果によると、過活動膀胱の推定患者数は40歳代から年齢が進むにつれて増えていき、70歳代では約4人に1人、80歳以上になると約3人に1人が過活動膀胱による何らかの症状を持っていると考えられています。すなわち、過活動膀胱とは基本的に高齢の方に多い病気であるということができます。

また、肥満・糖尿病高血圧脂質異常症といった生活習慣病との関連が深い病気としても知られています。

過活動膀胱は、神経系の病気が原因となるタイプとそうではないタイプに大きく分類され、前者は神経因性過活動膀胱、後者は非神経因性過活動膀胱と呼びます。それぞれの特徴を説明しましょう。

神経因性過活動膀胱

脳や脊髄(せきずい)末梢神経(まっしょうしんけい)などの神経系の病気が原因で過活動膀胱が起こるタイプで、以下のような病気が原因になることが多いとされています。

非神経因性過活動膀胱

上述したような神経系の病気とは無関係に過活動膀胱が起こるタイプです。

女性に多い原因

加齢や出産に伴い、骨盤底筋(こつばんていきん)という骨盤を支える組織の構造が脆弱化(ぜいじゃくか)すると、排尿に関する機能が正常にはたらかなくなり、過活動膀胱が起こります。

男性に多い原因

前立腺肥大症の患者さんの5~7割に過活動膀胱を合併することが知られており、特に50歳以上の男性の過活動膀胱は、前立腺肥大症との関連性を常に念頭に置く必要があります。

原因不明のタイプ

ここまで述べてきた加齢や骨盤底筋の脆弱化、前立腺肥大などの因子が関係せずに過活動膀胱の症状が起こる“特発性過活動膀胱”も、実臨床では非常に多く見られます。

過活動膀胱による一般的な症状は以下のとおりです。

  • 尿意切迫感(急に我慢できないほどの強い尿意が起こる)
  • 頻尿(何度もトイレに行く)
  • 夜間頻尿(就寝後にトイレのため繰り返し起床する)
  • 切迫性尿失禁(急に強い尿意が起こり、我慢できずに尿が漏れる)

また、患者さんの多くが最初に訴えやすい症状は頻尿や切迫性尿失禁です。このような蓄尿に関する症状が現れて困っている方、日常生活に影響を及ぼしている方は治療が必要ですから、早めに泌尿器科を受診してください。過活動膀胱の治療にはさまざまな方法があり、基本的には患者さんの希望に応じて治療法を選択します。治療をすることで患者さんの生活の質(QOL)も向上することが期待できるので、1人で悩まず、医師と治療法を相談していきましょう。

なお、過活動膀胱と診断するためには尿意切迫感の確認が必須となりますが、そもそも“尿意切迫感”という状態を患者さんが医師に説明することは容易ではありません。このため、問診でさまざまな質問をさせていただき、尿意切迫感が生じているかどうかを確認します。

過活動膀胱に対する治療法には、行動療法、薬物療法、ボツリヌス毒素局所注射療法、仙骨神経電気刺激療法、磁気刺激療法などがあります。具体的な治療の方法についてみていきましょう。

行動療法は、過活動膀胱と診断された患者さんに対してまず行われる治療で、ライフスタイルの指導や症状緩和のためのトレーニングなどが中心となります。具体的な指導内容には、飲水量が多すぎる場合には適正な飲水指導、便秘があれば便秘改善の指導、肥満の方にはダイエットの指導、特に女性に対しては下腹部や下半身を冷やさないようにするための指導、骨盤周辺の筋肉を鍛える骨盤底筋訓練の指導などがあります。患者さんの年齢や性別、生活習慣に応じてこれらの指導を組み合わせ、アドバイスをしていきます。

画像提供:PIXTA
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行動療法を続けても十分な効果が見られず、症状のさらなる改善を希望される患者さんに対しては薬物療法が適応されます。2021年4月現在、過活動膀胱に対して主に用いられている薬は抗コリン薬とβ3アドレナリン受容体作動薬の2種類です。それぞれ作用機序や副作用が違うため、通常は両者の特徴や患者さんの状態などを考慮したうえで、まず単独でいずれかの薬を処方します。それでも十分な効果が見られない場合には抗コリン薬とβ3アドレナリン受容体作動薬の2種類を併用することもあります。薬物療法については後ほど詳細に解説します。

行動療法や薬物療法を行っても効果が見られない難治性の症例に対しては、ボツリヌス毒素を膀胱壁内に注入する“ボツリヌス毒素局所注射療法”、膀胱に向かう仙骨神経を機器で刺激する“仙骨神経電気刺激療法”、骨盤底筋領域にある神経を刺激する“磁気刺激療法”などを行う場合があります。

いずれの治療法を選ぶにしても、治療のゴールは、患者さんの生活の質(QOL)をいかに改善するか、つまり治療によって満足していただくことに変わりありません。そのためには、医師が一方的に治療を提示するのではなく、患者さんと一緒に治療法を相談していくことが重要です。そのため私は、患者さんの希望を事前にしっかりと伺ったうえで治療法を選択しますし、治療開始後も現在の方法でどのくらい患者さんが満足しているのか常に確認しながら治療を進めることを意識しています。たとえば、もっと症状を改善したいけれども薬を併用するのは副作用が心配という患者さんには、単独での薬物療法を継続しつつ行動療法を強化するという治療の進め方を検討することもあります。

前立腺肥大症の関与が疑われる男性の患者さんには、まず前立腺肥大症の治療薬を先行して処方し、それでも症状の改善が見られない場合に、過活動膀胱の治療薬である抗コリン薬またはβ3アドレナリン受容体作動薬を併用します。前立腺肥大が見られず過活動膀胱の症状のみが現れている男性や、女性の患者さんに対しては、行動療法に続いて過活動膀胱の治療薬を使います。

抗コリン薬

抗コリン薬は膀胱の収縮に関わるアセチルコリンという物質のはたらきを抑制することで、排尿に関する症状を改善します。歴史的に過活動膀胱の薬物療法における中心的存在であった薬で、その有用性や安全性についても科学的に証明されています。しかし、抗コリン薬を服用すると腺分泌や腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)(消化管のリズミカルな収縮運動)のはたらきも抑えられてしまうため、口内乾燥や便秘などの副作用が多く見られるという問題があります。また、閉塞隅角緑内障(へいそくぐうかくりょくないしょう)の方には使用できません。

β3アドレナリン受容体作動薬

β3アドレナリン受容体作動薬は、膀胱平滑筋の緊張を和らげることによって尿がたまったときの膀胱の拡張を促し、蓄尿機能を向上させて、頻尿や切迫性尿失禁などの過活動膀胱の症状を改善します。抗コリン薬で起こる口内乾燥などの副作用がほとんど現れないため、近年はβ3アドレナリン受容体作動薬が第一選択薬として処方されるケースも増えてきています。

ただし、β3アドレナリン受容体作動薬では1分あたりの脈拍がわずかに上昇するという副作用があるため、心血管系疾患がある方への処方は慎重に検討する必要があります。

また、一部のβ3アドレナリン受容体作動薬は子宮や前立腺などの生殖器への影響が認められているため、生殖可能な年齢の男女に対しては基本的に投与を避けることが望ましいとされています。このことから、年齢の若い男性や閉経前の女性には抗コリン薬を使用するなど、性別や年齢などを考慮した薬剤選択が重要になります。

前立腺肥大症の治療薬

前立腺肥大症の治療薬は、膀胱にたまった尿の排出を促すことで排尿困難を改善します。2021年4月現在、“α₁アドレナリン受容体遮断薬”、“ホスホジエステラーゼ5阻害薬”、“5α還元酵素阻害薬”などがあります。前立腺肥大症に伴う過活動膀胱の患者さんはまずこれらの薬を服用し、前立腺肥大症の治療を行います。その結果として過活動膀胱の症状が改善した場合は、上述した過活動膀胱の治療薬を併用する必要はありません。一方、前立肥大症の治療薬を使っても過活動膀胱の症状が残っている方には、抗コリン薬またはβ3アドレナリン受容体作動薬を前立腺肥大症の治療薬と併用して治療を継続します。

そのほかの治療薬

抗コリン薬やβ3アドレナリン受容体作動薬のほかにも、フラボキサートや漢方薬など、歴史的に頻尿に使われてきた薬はいくつかありますが、これらの薬剤は過活動膀胱の治療においては保険適用外であり、初期治療で用いることは基本的にありません。ただし、何らかの理由で標準的な治療薬を使うことができないケースや、患者さんがこれらの薬の処方を強く希望するケースには使用する場合もあります。

当院の場合、最初に薬を処方した後は2週間~4週間後に一度受診していただき、効果の現れ方や副作用の有無を確認します。薬の効果はおよそ3か月で最大となり、以後はその効果が持続します。症状改善の効果が認められ、なおかつ大きな副作用が見られなければ、その薬による治療を継続します。基本的に薬は長期間服用し続けていただくことが望ましいですが、重症ではない患者さんの場合、行動療法を継続していけば薬物療法を止めても良好な経過を辿ることが珍しくありません。そのため当院では、患者さんから「薬を一生服用することに抵抗がある」「薬を服用してから調子がよくなったので一度薬を中断してみたい」という希望をいただいた場合には、休薬も積極的に検討します。万が一、休薬して再び過活動膀胱の症状が強くなってきた場合はもう一度受診していただいたうえで、薬物療法を再開します。ただし、自己判断で薬の使用を中止すると症状が再び悪化することがあります。そのため自己判断で休薬はせず、まずは主治医に相談してください。

画像提供:PIXTA
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薬だけに頼らないことが大事

薬物療法開始後も行動療法は継続していただき、そのうえでしっかりと服薬することが重要です。たとえば、便秘や冷え、過剰な水分摂取などは過活動膀胱の症状を悪化させる要因となります。夕方以降の水分摂取量を控えめにする、就寝前から部屋を暗くしておく、できる限り入浴して体を温めるなど、日々の生活の中で過活動膀胱の症状の改善につながる習慣をなるべく取りいれるように心がけてください。

利尿作用がある飲料の飲みすぎに注意

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過活動膀胱に対し、明確なエビデンスに基づいたカフェイン・アルコール類の摂取制限の定めはありません。とはいえ、利尿作用があるこれらの飲み物を1日に何杯も飲んだり、夕方以降から就寝までの間に大量の水分を摂取したりすると夜間頻尿が起こりやすくなりますから、飲む量や飲む時間帯には注意が必要です。私の場合はおおよその目安として、コーヒーや緑茶はできれば1日2杯まで、かつ夕方以降のカフェインの摂取はなるべく控えていただくよう患者さんにお願いしています。

ほかの病気を治療中の患者さんは薬の飲み忘れに注意

過活動膀胱は生活習慣病との関連性があるため、過活動膀胱の治療を開始する以前から高血圧糖尿病などに対する薬を服用されているという患者さんも珍しくありません。そのような患者さんに過活動膀胱の治療薬を処方することで、いわゆる“ポリファーマシー(必要以上の薬が投与されている状態)”の状況になることは避けなければなりません。このため、生活習慣病がある方にはなるべく行動療法での症状改善を目指しますが、そうした方は行動療法だけでは症状があまりよくならない傾向にあります。その場合は生活習慣病の薬と過活動膀胱の治療薬を併用しますが、処方される薬が多いほど飲み忘れが起こる可能性が高まるので、服薬管理は非常に大切です。過活動膀胱の薬を開始したからといってほかの薬の服薬を自己判断で止めたり、飲み忘れたりしてしまわないように患者さんご自身が意識し、合併する病気の治療もしっかりと続けていただくことが大事だと考えます。

過活動膀胱は珍しい病気ではなく、排尿に関する悩みを抱えているのは決してあなただけではありません。

現在では過活動膀胱の症状を改善するためのさまざまな治療法がありますから、1人で悩まずに泌尿器科を受診してください。多岐にわたる治療法の中でもどのような方法があなたに合っているのかについて、医師と相談しながら一緒に考えていきましょう。薬物療法を開始した場合も、1つ目の薬があまり効かなければほかの薬へ変更することも可能ですから、あきらめないで前向きに取り組んでいくことが大切です。そしてそのために、私たち泌尿器科医は力になりたいと思っています。

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