骨髄異形成症候群(MDS)は赤血球や白血球、血小板といった血液中の細胞が減少する病気です。自覚症状が現れにくく、健康診断などから偶然発見されるケースも少なくありません。
また、一般的ながんのように急激に病状が進行するわけではありませんが、白血病に移行するタイプでは早期治療が必要となることもあるため、発症した場合は主治医の判断の下で適切な治療や経過観察を続けていくことが大切です。
本記事では、骨髄異形成症候群の特徴や治療方法、予後などについて詳しくお伝えします。
骨髄異形成症候群には免疫療法、抗がん剤による化学療法、同種造血幹細胞移植など、さまざまな治療方法があります。これらの治療方針を決める際は検査によって病気を分類し、その分類に基づいて治療方針を決定します。
骨髄異形成症候群の分類は大きく“低リスク群”“高リスク群”に分かれ、そこからさらに細かく分類されます。
低リスク群の中でも症状がほとんどない場合は、特別な治療をせずに定期的な血液検査などで経過観察を行うケースもあります。
また、症状があったとしても低リスク群であれば即座に命に関わるような影響を体に与えることは少なく、貧血や血小板減少に対する輸血療法、細菌感染に対する抗生剤投与など、それぞれの症状を緩和するための対症療法が行われるのが一般的です。
骨髄異形成症候群にはいくつかのタイプがありますが、中には急性骨髄性白血病に移行するものもあります。このようなタイプの骨髄異形成症候群は、血液を顕微鏡で観察すると造血幹細胞が血液細胞に変化する際に生じる未熟な“芽球”と呼ばれる細胞が多く含まれるという特徴があり、これは高リスク群に分類されます。
高リスク群では、急性骨髄性白血病に準じた抗がん剤治療が行われます。急性骨髄性白血病に移行するタイプの骨髄異形成症候群は抗がん剤を使用すると余命が1年程度長くなることが科学的に証明されていますが、根本的に病気を治すことはできないとされています。
高リスク群の骨髄異形成症候群には、同種造血幹細胞移植が行われることもあります。現在、骨髄異形成症候群を根本的に治す方法は同種造血幹細胞移植のみです。
同種造血幹細胞移植とは、ヒトから提供された健康な造血幹細胞の点滴を投与することによって体内に正常な造血幹細胞を“移植”する治療法のことで、急性骨髄性白血病に移行する高リスク群の人、症状が重く輸血などの対症療法を繰り返さなければならない人、若くして発症した人などに積極的に行われています。
しかし、同種造血幹細胞移植はさまざまな合併症を伴う治療法であり、場合によっては拒絶反応などによって死に至る可能性もあります。治療を行うには、ドナー(造血幹細胞の提供者)がいることや全身状態がよいことなどの条件があるため対象者は限られてきます。
最近の技術、薬剤の進歩によって、条件さえ整えば 70歳前後の患者さんでも同種造血幹細胞移植を行うことも可能となってきました。
骨髄異形成症候群には上でも述べたようにいくつかのタイプがあり、タイプによって症状の現れ方や進行の程度などは異なります。
低リスク群の骨髄異形成症候群は症状が軽い、または無症状の場合もあり、進行が緩やかであるため、診断されてから10年以上生きている人が80%にも上ります。
一方、急性骨髄性白血病に移行する高リスク群の骨髄異形成症候群は血液細胞が著しく減少することもあります。急性骨髄性白血病への移行に至らなかった場合でも血液細胞の著しい減少が生じるケースが多く、診断されてから1年後も生きている人は約半数、ほぼ全ての人が4~5年後には命を落としているとのデータもあります。
このため、急性骨髄性白血病に移行しやすいタイプを発症した場合は、できるだけ早くに診断・治療を行うことが重要であり、年齢によっては同種造血幹細胞移植を行うことが望ましいと考えられています。
骨髄異形成症候群にはいくつかのタイプがあり、軽度な症状が現れるのみで治療の必要がないタイプもあれば、急性骨髄性白血病に移行するタイプもあります。
また、それぞれのタイプによって予後や経過も大きく異なります。現在治療中の方で治療方針や、その後の生活などについて気になることがある際には、担当医や看護師、場合によっては病院にいるがん専門のソーシャルワーカーや、公的な相談窓口などを利用して相談するようにしましょう。
骨髄異形成症候群について、佐賀大学医学部附属病院 血液・呼吸器・腫瘍内科ではインターネットの動画配信を行っています。詳しくは『もっと知ってほしい血液のがんのこと』をご確認ください。
佐賀大学医学部附属病院 内科学講座 血液・呼吸器・腫瘍内科 教授
木村 晋也 先生の所属医療機関
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