骨髄異形成症候群の治療法は、同種造血幹細胞移植、アザシチジンという薬剤による治療、輸血や発症した症状に対する治療をする支持療法などがあります。どういった治療を実施するかは、患者さんの年齢や、予後予測から決めていきます。
記事1『骨髄異形成症候群(MDS)の原因や症状とは? 高齢者に多い血液の病気』では、原因や症状、患者数などをご説明しました。今回も引き続き、筑波大学血液内科千葉滋先生に、骨髄異形成症候群の検査方法と治療法についてお話をうかがいました。
まず、血液内科に来た患者さんには、血液検査を行い血算*を測定します。骨髄異形成症候群の場合、血液細胞(白血球、赤血球、血小板)が減っているということが最初の所見です。血算の結果によって詳しく検査を行うかを決めます。また、最初から血液像(白血球分画)*などを詳しく検査する場合もあります。
血算…血液中の細胞の数や大きさ、ヘモグロビンの値などをみること。
血液像…白血球の各種類の割合を調べ、パーセンテージ(%)で表したもの。
現在では、血算はもちろん、血液像も器械により自動的に算出されることが一般的になっています。血算や血液像で異常が見つかった場合には、形態異常がないかを検査技師が目視で確認します。形態異常が発見された場合は、MDSを疑い、次の検査へと進みます。
血算や血液像で異常が見つかったり、形態異常が疑われたりする場合には、骨髄の検査を行います。骨髄検査には、穿刺吸引検査と、生検検査があります。穿刺吸引検査では、骨髄の中の造血細胞と、血液とが混ざった「骨髄液」を採取し、いろいろな検査を行います。生検検査では、主に病理検査を行います。
まず、骨髄液から標本を作成して細胞を染め、顕微鏡で観察します。骨髄には、流血中には通常流れていない、赤芽球や骨髄巨核球、あるいは顆粒系の未熟な細胞がいますので、こうした細胞の数や形態も観察できます。骨髄異形成症候群では、骨髄は通常、正形成(造血細胞の密度が正常の場合と同じくらい)または過形成(正常よりも多い)であり、赤芽球、骨髄巨核球、顆粒系の細胞の1〜3系統に異形成を認めます。
骨髄異形成症候群の患者さんの約半数に染色体異常が見つかります。染色体異常の同定は、患者さんのその後の経過を予測するためにも有用なので、染色体検査は必ず行います。
蛍光色素で標識した抗体を使って、細胞表面抗原を蛍光染色した細胞をフローサイトメトリーという方法で観察します。骨髄異形成症候群では、正常では見られない細胞表面抗原の組み合わせがわかることがあり、診断に有用です。
WT-1という遺伝子のメッセンジャーRNAの測定は、ルーチンで行われています。この他、最近では、直接DNAをシークエンスという方法で異常を探すことが行われつつあります(ゲノム解析の説明を参照)。ときに治療選択の参考になることもあるため、後々にでもDNAが調べられるように、検体保存が勧められます。
ホルマリンで固定した骨髄液あるいは骨髄生検検体を、HE染色という染色によって染めて、病理医が診断に用います。免疫染色と呼ばれる染色法も用いられ、診断の補助になることもあります。
骨髄異形成症候群を完治させる治療法は、同種造血幹細胞移植しかありません。「同種」というのは、自分以外の他のヒトの造血幹細胞をもらう、という意味です(ただし一卵性双生児は除く)。
同種造血幹細胞移植は、造血幹細胞をどのようにしてもらうかによって、骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血(さいたいけつ)移植があります。
血縁者(主に兄弟姉妹;最近は親子間も特殊な方法で行われることがあります)、あるいは骨髄バンク(日本には、1つだけの公的な骨髄バンク=ドナーを登録し、説明、同意、検査などを支援し、提供者と患者さんとの橋渡し役をする組織=があります)のドナーから大量の骨髄液を採取し、患者さんに移植(血管から輸注)します。
ドナーに薬剤を注射し、造血幹細胞を骨髄から血液中に動員します。そして、血液を採取し、血液分離装置にかけ、造血幹細胞が多い部分だけを抽出し、患者さんに移植(血管から輸注)します。
臍帯血*は、本来、胎盤とともに廃棄されるものですが、これを廃棄せず、「臍帯血バンク」と呼ばれる施設に集めて、凍結保存しています。移植施設では、患者さんに合う臍帯血を取り寄せて、直前に溶かして、これを移植(血管から輸注)します。これを臍帯血移植といいます。
臍帯血…胎児と母体を結ぶ臍帯(へその緒)と、胎盤のなかに入っている血液。造血幹細胞が多数含まれている。
同種造血幹細胞移植をする場合、移植前処置として、患者さんには大量の抗がん剤治療や放射線治療を受けていただきます。前処置を行う理由は二つあります。一つは、患者さんの体の中に残っているがん細胞(骨髄異形成症候群の細胞)をできるだけ排除することです。もう一つは、患者さんの体の中の免疫細胞を排除して、移植した細胞が拒絶されないようにすることです。このように前処置を行ってから健康な状態のドナー由来の造血幹細胞(骨髄血、末梢血幹細胞、臍帯血に含まれる)を移植することで、ドナー由来の健康な造血が回復します。この際、免疫細胞もドナー由来のものに置き換わっていきます。
移植の前に行う抗がん剤治療と放射線治療は、副作用が大きいため、同種造血幹細胞移植は患者さんへの負担が大変に大きな治療法です。そのため、患者さんの経過の見通しがよいのか悪いのか(予後予測)や、年齢などを考慮して、移植を実施するかどうかを判断します。
たとえば、50歳前後の比較的若い患者さんで、移植を行わなければあと1〜2年しか生きられないなど予後の見通しが悪い場合は、積極的に移植を薦めます。しかし、72歳の患者さんで、移植を行わない場合の余命を3年と予測する場合はどうか。移植の合併症による重度の後遺症や死亡の危険を考え、移植は行わない、という方針がとられるのが一般的です。
移植治療を行えるのは何歳までという明確な線引きはありません。施設によって65歳までや、70歳まで、などと、異なります。また、移植を行う際は、家族など周囲のサポートが必要になります。そのため、医師には、患者さんの意向も聞きながら、総合的な判断が求められます。
年齢や本人の意思などで移植を行わない方、または、いずれ移植を行うが時間に猶予がある方などには、アザシチジンという薬を使用しています。アザシチジンとは、骨髄異形成症候群の細胞の中で、多数の遺伝子の働きを変化させると考えられる薬剤です。予後が悪いと予測される骨髄異形成症候群患者の生存を延長することが、臨床試験により証明されています。
1か月のなかで1週間毎日アザシチジンの注射を打ちます。患者さんによって効き目が異なりますが、効果がみられる方にとっては非常に頼もしい薬です。よく熱を出したり、常に出血することを心配していた患者さんでも、山にハイキングへ行けるほどに回復された例もあります(骨髄異形成症候群の症状については記事1『骨髄異形成症候群(MDS)の原因や症状とは? 高齢者に多い血液の病気』をご参照ください)。
比較的予後の見通しがよく、ただちに移植を行ったり、アザシチジンを投与したりする必要がない患者さんは、必要に応じて支持療法*だけを行うことが選択されます。支持療法には、貧血に対する薬剤の注射や赤血球輸血、細菌感染症にかかっている場合の抗菌薬の投与、血小板減少による出血傾向がある場合の血小板輸血、などがあります。
支持療法…もとの病気の治癒や病気そのものの状態を変える治療ではなく、症状を緩和したり、臓器の障害や合併症などから体を守ったりするための治療。
輸血は重要な支持療法ですが、長期的に繰り返し輸血を行うと、体内に鉄が溜まり、致死的な鉄過剰症をおこすことが大きな問題でした。鉄は一旦体に溜まると、体の外にでていく仕組みがないからです。しかし、現在は、鉄を尿の中に排出する飲み薬が開発されたため、この薬が飲めて効果がある患者さんの場合には、長期に渡り輸血をすることが可能です。
近年、ゲノム*解析技術が大幅に発達しました。ただし、ゲノム解析は、現在はまだ研究として行われています。これを、検査として骨髄異形成症候群の患者さんに行えるようにするための努力が続けられています。ゲノム検査によって、予後の見通しを一人一人の患者さんごとに予想できるようになるのではないか、と期待されるからです。移植をしたほうがよいのか、支持療法がよいのかなど、患者さんにとって適切な治療を行うことができるようになってほしいものです。
ゲノム…細胞がもつDNAの1セット。
アザシチジンに関しても、効果があるかないかはおよそ半々の確率とされています。ゲノム検査によって、治療前に有効かどうかを予測できるようになり、だれに使用すべきかがわかるようになると、無駄な治療を避けることもできます。ゲノム検査に保険が適応され、一般的な検査に早くなってほしいものです。
骨髄異形成症候群は高齢になるほど発症する確率が高くなります。もし、骨髄異形成症候群と診断された場合は、主治医と相談をしながら、治療法を選択してください。また、そうなったときにサポーターとなってくれる仲間を、今のうちから見つけておくことも大切です。
筑波大学 医学医療系血液内科 教授
関連の医療相談が10件あります
貧血傾向にあります
去年の7月の健康診断で ヘモグロビンの値が11、8 とでました。 昨日半年後の血液検査を行い、 値が下がっていたら 更に検査が必要といわれました。 このような場合どういう 病気が予想されるのでしょうか?
手の痺れ、だるさ
現在の体の不調は 両手の痺れ、腕のだるさ、足の痺れ、左右の顔の痺れ、肩凝り、首痛、頭痛、目の奥の痛み、めまい、です。 今年の2月頃から、肩凝りがひどく、そこから 頭痛、目の奥の痛みが出ました。 その時は目が原因だと思い眼科に行き目薬をもらいました。 4月に入り首も痛くなり、1週間程前から 痺れも出てきました。 痺れは片側の痺れが強くなったり弱くなったり無くなったり様々です。 3日前に整形外科に行ってレントゲンを撮ったのですが、骨には異常はなく、牽引と薬で様子見という事になりました。 でも、ネット調べていると、 首のヘルニアだったり、自律神経失調症、脳梗塞などの症状にも当てはまります。 なので、別の病院(神経や脳など見れるような所)にも行くべきなのか、先生に言われた通り薬で様子見をするべきなのか迷っています。
1週間前からの息苦しさ、左胸の痛み
1週間前から息苦しさがあり、その2日後、37.6の熱が2日間続いた。すぐに熱は下がったが、息苦しさは変わらず続いていた。気になって内科を受診したが、酸素濃度も、肺炎の症状もみられなかったため、精神的なものだと診断された。(風邪症状もほぼなし。)念のため喘息用の漢方薬を処方していただき、3日ほど服用。本日から左胸の痛みがある。生理中。 新型コロナではないかと心配だが、心臓も何度か健診でひっかかったことがあるので不安がある。どの病院に行った方が良いか。
慢性的な貧血の原因
3年前初めての胃カメラで生体検査となり胃マルトリンパ腫と診断され、ピロリ菌の除菌をして経過観察中です。人間ドック時の年一回の胃カメラと生体検査で今のところ寛解を維持、とされています。同じ頃から血液検査でヘモグロビンの値が低く、6.4と出た時には鉄剤の注射に通いその後9.5くらいを保っていますが治療が必要、と人間ドックの度に結果が出ます。自覚症状は軽い頭痛くらいでほとんどありません。思い当たる事として年に1〜2回生理の経血量が多い事がありますがそれが慢性的な貧血の原因なのでしょうか?子宮体がんの検査でも異常なしでした。悪性リンパ腫は原因とならないのでしょうか?関連があるのかどうか知りたくてご相談申し上げます。 そして治療するなら何科を訪ねたら一番良いかも教えていただきたくお願いいたします。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「骨髄異形成症候群」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。