埼玉県さいたま市浦和区にあるJCHO埼玉メディカルセンターは、急性期から地域包括ケア、訪問看護まで、地域が必要とする医療・介護をシームレスに提供しています。
地域の基幹病院として大きな役割を果たしている同院の役割や今後について、病院長の児玉 隆夫先生にお話を伺いました。
当院は、1955年に“社会保険埼玉中央病院”として開設されました。1999年には“埼玉社会保険病院”に改称し、2014年4月からは独立行政法人 地域医療機能推進機構(JCHO) 埼玉メディカルセンターへと生まれ変わり、JCHOの一員として、患者さんが安心して治療を受けられるよう、質の高い医療の提供に努めています。
JCHOは救急医療や災害医療、リハビリテーションなど、地域が必要とする医療と介護の提供を通して、地域住民の皆さんの健康と福祉の増進を目的に設立された組織です。その趣旨に従い、当院も急性期病棟から地域包括ケア病棟、健康管理センター、附属介護老人保健施設、訪問看護ステーションなどを有し、地域住民の皆さんが必要とする医療と介護サービスをシームレスに提供しています。
また、救急においては地域の2次救急(入院や手術を要する重症患者への救急医療)を担っています。
私が当院の病院長に就任したのを機に、地域のクリニックの先生方のところへご挨拶に伺いました。その中でいくつか課題が見えてきたため、さまざまな点で改善を行っています。
その1つが、当院への診療予約システムです。これまでは、地域の先生方が患者さんへ当院を紹介する際には地域連携室を介して予約を入れるシステムになっていました。これが先生方にとって非常に負担になっているということで、今後は緊急性が高いケース以外は紹介状だけ書いていただき、予約は患者さんに取ってもらうシステムに変更する予定です。
そのほうが患者さんもスムーズに受診していただけますし、クリニックの先生方の負担も軽減し、ほかの患者さんの診療に専念できるはずです。
当院は整形外科疾患全ての診療を対象に、専門性が高い医療サービスを提供しています。
中でも膝関節外科や股関節外科などは当院の強みでもあり、2008年4月からは整形外科の一部門として人工関節センターを運営しています。整形外科10名のうち8名が日本整形外科学会認定の整形外科専門医であり、そのうち4名が人工関節の手術に携わっています。(2024年5月時点)、股関節と膝関節を合わせると年間症例数が380件*に達するなど実績が豊富です。
得意とする手術は、MIS人工膝関節置換術やMIS人工股関節置換術、MIS大腿骨頭置換術などです。MISは“minimum invasive surgery(最小侵襲手術)”の略称で、早期回復・早期社会復帰が期待できる治療法です。そのほか、膝に関しては更に侵襲が少なく回復が早い、部分的人工関節(UKA)を積極的に行っており、患者さんの高い満足度を得ています。
*2023年1~12月実績……380件
“手の外科”の分野でも専門性の高い診療を行っています。
手・肘・肩の痛みから骨折、腱や靱帯の断裂、上肢のリウマチ、上肢の変形性関節症など幅広い症状・病気の診療にあたっており、関節の内部を内視鏡で治療する手関節鏡や、指と肘の人工関節手術などを行っています。“手”は日常生活でもっともよく使われる器官であるため、痛みや病気があると生活に支障が生じてしまいます。
そこで、2024年4月に“手外科センター”を立ち上げ、日本手外科学会認定の手外科専門医の森田 晃造先生と石井 和典先生が中心になって運営しています。実は、さいたま市には手外科医が少なかったことから、専門性が高い治療を受けるために市外の病院へ通う患者さんも少なくなかったようです。当院に手外科センターができたことで、地域の皆さんは気軽に受診できるようになるのではないでしょうか。
脊椎や脊髄の病気では、首・腰の痛みや手足のしびれ、手足の麻痺といった症状から、椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症、脊椎カリエス、脊椎脊髄腫瘍などの病気まで、幅広い症例の診療をしています。
また、椎弓形成術や脊椎固定術、椎間板内酵素注入療法(ヘルニコア)などの手術・手技を得意としており、2023年には年間210件*の手術を行いました。
こうした強みのある診療領域をさらに強化するため、2024年4月より脊椎脊髄の病気を専門的に診療する“脊椎脊髄病センター”を開設しました。当センターには、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医が2名在籍しています(2024年5月時点)。
*2023年1月~12月実績……210件
当院には、常勤の医師と診療放射線技師、看護師、事務員で構成されている放射線技術部があります。CTやMRIをはじめとした画像検査や、CTなどの画像を見ながらカテーテルや針を使って行う画像下治療(Interventional Radiology:IVR)、放射線治療などを互いに協力し合いながら行っています。
研究活動にも注力しており、学会発表や認定資格の取得などを通して診療レベルの向上を図っています。
当院の放射線技術部では、新しい医療機器を積極的に導入しています。2022年度の整備計画では、全脊椎や全下肢を一度に広範に撮影できるX線撮影装置を複数台導入しました。従来機では複数回に分けて撮影していたため位置ずれが発生していましたが、一度の撮影で済むことから息止めの時間も短くなり、患者さんの負担も軽減されたかと思います。
また、2025年2月の治療開始を目指して、米国製の放射線治療システムを導入する予定です。2方向からCT撮影が可能で、画像を重ね合わせることで放射線を照射する際の誤差を1mm以下に抑えることが期待できます。これにより、たとえば小さな脳移転や脳腫瘍の定位放射線治療(SRSやSRT)などで、精度の高い放射線治療ができるようになります。
地域の皆さんとの交流を図るため、2024年から月1回程度のペースで、市民公開講座を開催することにしました。構想はコロナ前からあったのですが、開催しようとしたタイミングで感染が拡大したため延期になっていました。
第1回目は6月に“認知症”をテーマに開催しました。健康管理センター長で神経内科部長の栗原 一浩先生と日本看護協会 認知症看護認定看護師の資格を持つ看護師が講師を務めました。約40名の参加者がありとても好評でした。
当院は患者さんが安心して治療に専念できるように、質の高い医療の提供と受診しやすい環境の整備に取り組んでいます。急性期病棟から地域包括ケア病棟、健康管理センター、介護老人保健施設、訪問看護ステーションまでをグループ内に整備し、急性期から回復期、介護から在宅までシームレスな医療・介護の提供に努めています。
今後も地域のクリニックの先生方や行政、関係機関とも協力し、地域の皆さんの健康と生活を全面的にサポートしてまいりますので、継続的なご支援とご協力を心よりお願い申し上げます。