院長インタビュー

よりよいがん診療の追求、未来の医療・医学発展に貢献する愛知県がんセンター

よりよいがん診療の追求、未来の医療・医学発展に貢献する愛知県がんセンター
丹羽 康正 先生

愛知県がんセンター 病院長

丹羽 康正 先生

目次
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1964年12月に設立され、2024年に60周年を迎える愛知県がんセンターは、都道府県がん診療連携拠点病院として県内の専門的ながん診療を担うとともに、未来の医療・医学の発展にも日々貢献しています。同センターの強みや注力する取り組みについて、総長である丹羽 康正(にわ やすまさ)先生にお話を伺いました。

愛知県がんセンターは1964年12月に設立されました。2007年1月に厚生労働省管轄の“都道府県がん診療連携拠点病院”の指定を受けた当センターは、県内の専門的ながん診療を担う医療機関として難治性のがんや原発不明がん、希少がんなどの治療にも対応し、臨床研究・治験にも力を入れてきました。2019年にはがんゲノム医療センターを開設し、がんの遺伝子パネル検査を用いてがん組織などで多数の遺伝子を調べ、見つかった遺伝子変異を元に一人ひとりの体質や病状に合わせた治療を行うとともに、その過程で既往歴・家族歴などから遺伝性腫瘍を診断し、リスクに応じた予防を行っています。2022年には特定機能病院(厚生労働省が“高度な医療安全の下で高度な医療の提供および高度な医療技術の開発、高度な医療に関する研修を実施できる能力などを備えた病院”と個別に承認した病院)の承認を、2023年にはがんゲノム医療拠点病院の継続指定を受けました。

これらの承認や指定が行われたことは、当センターが特にがん医療において大きな社会的役割を果たす実力を備えていると評価された成果と捉えています。その期待に全力で応え続けられるよう、今後も努力していく所存です。

先方提供
愛知県がんセンターの外観

当センターはがん診療を専門とする病院として幅広いがんの診療に対応していますが、その中でも乳腺科部は特に強みがあります。乳腺科部では直近の5年間で年間400件以上の原発性乳がん手術を行っており*、日本で乳がんが増加するなかで患者さんのニーズに応えてきた実感があります。また、近年は乳がん患者さんに対する手術だけでなく、がん抑制遺伝子の変異が見つかった方や乳がん検診で毎回再検査になってしまう方など、将来、乳がんを発症するリスクが高い方への“予防的乳房切除術”にも対応してきました。

乳がん治療ではもちろん外科手術だけでなく、必要に応じて放射線治療や薬物療法(化学療法、ホルモン療法、分子標的療法)も行っています。薬物療法において、当センターは複数の新規薬剤の臨床試験(治験)を行っているため、患者さんに対して治験への参加を提案することもあります。

また、当センターの乳がん治療は、この乳腺科部のみで行うわけではありません。患者さん一人ひとりの治療方針をチームで検討したうえで、症例や手術内容などに応じて他科の医師(形成外科、薬物療法科、放射線科、緩和ケア科)や看護師、薬剤師、社会保険労務士などと連携・協力をするという、いわば“センター全体のチーム力”で患者さんやご家族に寄り添う医療を心がけています。

*乳腺科部の診療実績(原発性乳がんの手術)対象期間2019年(令和元年)4月〜2024年(令和6年)3月
2019年(令和元年)度:466件
2020年(令和2年)度:459件
2021年(令和3年)度:453件
2022年(令和4年)度:440件
2023年(令和5年)度:469件

頭頸部外科(とうけいぶげか)部では、口腔(こうくう)や鼻・副鼻腔(ふくびくう)、咽喉頭(中咽頭(ちゅういんとう)、下咽頭、喉頭(こうとう))、唾液腺、甲状腺といった、顔から頸部にかけての部位のがん治療や再建手術を行います。頭頸部は呼吸や会話、食事など生活に欠かせない機能と深く関わる部位です。そのため治療に伴う後遺症を最小限に抑えるとともに、機能の温存や整容面にも十分に考慮した治療が求められます。私たちはそのような点と根治性とのバランスを見極めながら、患者さん個々に最適な診療を行うことを目指しています。

頭頸部のがん治療は基本的に標準治療を優先して進めます。そのほかに当科では、切除不能な局所進行または局所の頭頸部がんに対して、“第5のがん治療”として登場したがん光免疫療法(アルミノックス治療)の提案をすることもあります。アルミノックス治療とは、点滴投与した薬を腫瘍(しゅよう)の表面に集積させ、その部分にレーザー光を当てることで腫瘍細胞のみを壊死(えし)させる治療法です。2021年に保険適用となりましたが、適正使用を目的として、現状では実施できる施設や医師は限定されています。

当センターは、がん治療の分野におけるリモートでの治験(オンライン治験*)を実施しています。オンライン治験では、患者さんはかかりつけ医同席の下、当センターの治験実施医師と3者でオンライン診療を行い、自己紹介や診療情報提供書の内容確認、治験に関する説明を受けます。参加が決まれば、患者さんは従来どおりかかりつけ医による対面診療や検査を受け、当センターはオンラインでその結果を確認して患者さん宅に治験薬を配送します。

従来のがん治験は、当センターのような治験実施施設に患者さん自ら足を運ぶ必要がありました。しかし実際のところ治験実施施設の数は少なく、遠方の患者さんはなかなか参加できないという課題があったのです。特に、がんゲノム医療(がん組織などを用いて多数の遺伝子を調べ、明らかになった遺伝子変異を基に一人ひとりの体質や病状に合わせた治療を行う医療)においては、そもそもの対象患者さんの数が少ないため治験参加者がなかなか集まりませんでした。しかし、オンライン治験ならば全国から患者さんの参加を募ることができ、これまでの課題がクリアしやすくなりました。オンライン治験は、今後のがん医療の発展に寄与する大きな第一歩となると確信しています。

*2024年7月現在、オンライン治験で出せる治験薬は経口薬のみです。

我々は、がん治療と就労の両立支援にも力を注いでいます。がんの診断を受けたからといって必ずしも仕事を辞める必要はありません。医療の進歩により、現在は通院しながら仕事や日常生活を続けることが可能になってきました。実際、がん患者さんのおよそ3分の1は20〜60代でがんに罹患するといわれ、当院においても仕事をしながら通院されている方が多くいらっしゃいます。そうしたなかで当院は、がん治療と就労の両立に関して気軽にご相談いただけるよう、地域医療連携・相談支援センターで仕事に関する相談を受け付けています(無料、原則予約制)。

そのほか、どなたでも気軽にご参加いただけるオンライン公開講座や、医学研究者や医師を目指す中学生や高校生を対象とした公開講座、高校生を対象とした基礎実験体験講座を実施するなど、多くの方にがんに関する知識や理解を深める、あるいは未来の医療者を育成するお手伝いを続けています。

MN

我々はがんになった患者さんが安心して頼れる医療機関であるために、病院と研究所が一体となってがんの知識と理解を深め、よりよいがん診療を提供することを心がけてきました。今後も、日々のがん診療はもちろんのこと臨床研究・治験にもさらに力を入れ、日本全国、世界に向けて、有益な情報提供ができるよう努めてまいります。

また、当センターの主要な建物が2030年代初頭には改築後40年を迎え、老朽化が懸念されることから、建て替えの構想が進んでおります。現在(2024年7月時点)の段階では、2028年度に建て替え工事の着工を、2030年代初頭に新施設の利用を開始することを目指しています。新施設では、AI(人工知能)などデジタル技術を積極的に活用し、患者さんの利便性向上やスタッフの負担軽減を図るとともに、併設の研究所では理学や工学など医学以外の分野との連携も行い革新的な治療法や予防法の開発を目指しますので、どうぞご期待ください。

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