滋賀県高島市にある高島市民病院は、急性期医療や救急医療を担う湖西地方の中核的な病院として、50年以上にわたり地域医療に尽力してきました。
近年は“介護老人保健施設 陽光の里”や“高島市訪問看護ステーション”を統合するなど、高齢化社会に対応した医療体制の強化に努めています。
そんな同院の特長について、院長の武田 佳久先生にお話を伺いました。
当院は、1950年にわずか6床の高島町国民健康保険直営高島診療所として開院しました。その後、順調に医療規模を拡大し、2012年には現在の病院へと移転し、高島市民病院として再スタートを切りました。開院当初は内科と耳鼻科だけでしたが、現在は24の診療科と210床の病床を備える湖西医療圏の中核的な病院として地域医療に貢献しています。
この地域でも全国同様に高齢化が進んでいます。当院では2021年に“介護老人保健施設 陽光の里”、2024年に“高島市訪問看護ステーション”を次々と統合し、高齢者医療への対応と地域包括ケアシステムの構築に力を入れています。
さらに、年々高まる救急医療のニーズに応えるため、当院は“断らない救急”をモットーに2023年には2,365件の救急搬送を受け入れ、地域医療を支えています。
当院は消化器内科と消化器外科が連携し、消化管疾患や胆肝膵疾患の診療に注力しています。2024年4月に当院の総合診療科に着任した千野 佳秀先生は消化器内科と消化器外科の両方に精通する消化器のスペシャリストで、高齢化に伴ってさまざまな疾患を抱える患者さんが増えている昨今、消化器外科、消化器内科、総合診療科が協力して診療を行っています。
千野先生は大阪府高槻市にある社会医療法人 東和会グループ 第一東和会病院で消化器外科の医師として20年以上務めた経歴を持ち、腹腔鏡下総胆管結石手術(LCBDE)による胆石症の治療実績が豊富であるため、現在は胆石症の患者さんがとくに増えています。
胆石症は、場合によっては胆嚢にある結石と胆管にある総胆管結石の両方を治療しなければなりません。一般的な治療法としては、内科による内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)で総胆管結石を除去し、外科医による腹腔鏡下手術で胆嚢にある結石を摘出する二期的治療が主流です。しかし、ESTによる治療は合併症のリスクを抱えています。千野先生は一貫してLCBDEに取り組み、胆嚢と胆管の中にある結石を一度の手術で摘出する一期的治療を進めています。
LCBDEは、ESTと違って十二指腸にある乳頭筋を温存できるため、長期的に結石の再発を防げる優れた治療法です。しかしまだ患者さんにはあまり知られていないため、当院では患者さんに治療方法を分かりやすくお伝えして治療を行っています。
また、消化器系はもとより循環器系、呼吸器系、脳神経系、腎泌尿器系など内科系、外科系診療科と総合診療科が密に連携して医療体制の充実を図っています。
昨今の高齢化により、転倒や骨粗しょう症などによる骨折の症例数が急増しています。当院の整形外科では首から腰までの脊椎に関する手術のほか、変形性関節症に対する人工関節置換術などに対応しています。また脊椎に不安定性が見られる場合は、日本整形外科学会認定の脊椎脊髄病医による脊椎固定術も行っています。
同科ではできるだけ低侵襲(体に負担が少ない)な治療を行うことを心がけています。低侵襲であることは、患者さんにとっては痛みが少ないだけでなく回復も早いといったメリットがあります。今後もより低侵襲な治療を積極的に取り入れ、患者さんに喜んでいただけたら幸いです。
当院の画像診断センターは、2024年中にAI技術を搭載した最新型の320列CT装置を導入する予定です。この装置は現在活用している64列CT装置よりも広範囲の撮影に対応し、放射線被ばくを大幅に抑えることで低侵襲な検査を実現します。また、AI技術によって、不整脈などによる画像のブレを補正し、高精度な写真でこれまで以上に的確な診断を行えるようになります。
320列CT装置は低侵襲であるため安定期の妊婦さんにも活用でき、高精度な画像診断で臨床検査技師の負担を減らせることも大きなメリットです。この機器によるさらなる質の高い医療の提供にご期待ください。
琵琶湖西岸に広がる湖西地方はその美しい景観とは対照的に、地下には琵琶湖西岸断層帯や花折断層帯がある地域です。当院はこの地域の中核的な病院として災害拠点病院に指定されており、普段から発災時でも十分な医療が提供できるよう備えを徹底しています。
また、災害が起きた地域への災害派遣医療チーム(DMAT)も行っており、2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震などのほか、直近では2024年の元旦に発生した能登半島地震においても1月4日にDMATが出動し、現地の医療活動を支援しました。さらには、能登半島地震を含め数多くの被災地に災害支援ナースを派遣して被災者に対して適切な医療や看護を行うとともに、被災地域で奮闘する看護職の皆さんのサポートもしています。
このような取り組みを通じていざというときに地域の方の安心の拠り所になれるよう、今後も備えを怠らずに取り組んでいく所存です。
当院は、健康に関する講座やがんサロンの運営などを通じて、地域の方々に向けた健康に関する啓発活動を行っています。
毎年開催している市民向けの公開講座は、コロナ禍で一時中断していましたが、2023年度に再開しました。また“市民病院健康出前講座”と称して看護師が地域の学校や公民館に出張し、健康をテーマにした講座を毎月2回のペースで行っています。がんサロンの“ほっと湖西”についてもコロナ禍の影響で休止していましたが、2023年に再開し、がん患者さんとそのご家族が医師や看護師に悩みを相談できる機会を設けています。
また、高島市では地域の課題として空き家問題が挙げられています。当院ではこれに対する取り組みとして、空き家の1つを2017年に”お休み処 まちあかり”として復旧し、新たな地域交流の場となりました。この施設でリはハビリテーション科の職員による体操指導を行い、高齢者によく見られるフレイル(加齢とともに運動機能や認知機能が低下してきた状態)の予防などにも取り組んでいます。
私が医師を志したのは、父親をがんで亡くしたことがきっかけでした。最近は外科医を目指す若者が減ってきていると言われていますが、人の命を一番に考える外科医という誇らしい職業を1人でも多くの方に挑戦してほしいと願っています。
少子高齢化で医師の確保も困難になってくると思いますが、当院は引き続き高齢者医療に重点を置き、医療から介護までの支援体制をさらに拡充していきます。湖西医療圏の中核的な病院として、がん診療などの急性期医療をはじめ、救急医療や災害医療によって地域の皆さんを全力で支えて参りますので、どうぞよろしくお願いいたします。