院長インタビュー

沖縄県立北部病院が目指す地域医療-良質な医療を提供するには、地域の理解と協力が欠かせない

沖縄県立北部病院が目指す地域医療-良質な医療を提供するには、地域の理解と協力が欠かせない
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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沖縄県名護市にある沖縄県立北部病院は、沖縄県北部地区と離島を中心にしたエリアで主に急性期医療を担う病院です。令和10年には北武地区医師会病院との統合を控え存在感が高まっている同院の役割や今後について、院長の久貝 忠男(くがい ただお)先生にお話を伺いました。

当院は1946年(昭和21年)に名護中央病院として開設されました。現在の場所に移転したのが1991年(平成3年)で、その際に病院名を沖縄県立北部病院に改称しています。その後、新しい医療設備の導入や新たな診療科を開設するなど診療体制の充実を図り、現在は327床を有する急性期の中核的な病院として地域医療を支えています。

このように当院の歴史は長く、その過程でさまざまなターニングポイントといえる出来事を乗り越えてきました。その1つが医師不足です。沖縄県は県内に医学部がない時代があり、医師がなかなか集まらないといった課題を抱えていました。当時は県立中部病院で臨床研修を終えた医師がそれぞれの地域に巣立っていくというのが一般的な流れで、当院に着任された医師の皆さんはかなりハードワークを強いられたと聞いています。そのため、赴任してから5年も経過すると、外来診療から救急まで幅広い症例に対応できるスキルが身についたものでした。
現在は当院でも多くの研修医を受け入れており、医師不足はかなり緩和されました。現在でも幅広い診療科に対応できる教育は現在も受け継がれており、当院の医師はそれぞれの専門分野以外の症例についても一定の診療ができる“総合外科(ジェネラルサージェリー)・総合内科(ジェネラルメディスン)”としてのスキルが備わっています。

救急医療では“断らない”をモットーに、急性心疾患から脳卒中外傷など、さまざまな症例の患者さんを24時間365日体制で受け入れています。受け入れている救急車は月当たりおよそ300台で年間4000台、ウォークインを含めると多い日は救急患者さんが月2000名を超えることもあります。症例によっては二次救急医療(入院や手術を要する重症患者への救急医療)や三次救急医療(生命に関わる重症患者に対応する救急医療)を必要とするケースもあり、患者さんの容体に応じて適切な医療が提供できるよう取り組んでいます。また、入院患者さんの65%から70%が救急室を経由しており、救急室受診を入り口にして、総合医療を提供できるのが当院の特徴であり強みです。

沖縄県北部のやんばる地域では毎年800人くらいの子どもが誕生しており、そのうち300人ほどが当院の産婦人科で生まれています。また、NICU(新生児集中治療室)6床を併設し、地域周産期母子医療センターとしてハイリスク妊娠・分娩も扱うなど、地域の周産期医療(妊娠22週から生後満7日未満までの母体、胎児、新生児に対する医療)を支えています。婦人科疾患では北部地区で婦人科手術を行う唯一の施設で、内視鏡の技術認定を取得した医師も在籍しており、腹腔鏡(ふくくうきょう)による子宮摘出術や子宮筋腫核出術(子宮を温存して子宮筋腫のみを取り除く手術)を実施しています。そのほかにも、救急において24時間体制で産科・婦人科の救急疾患に対応しており、離島を含む北部地区の産婦人科医療に欠かせない存在だと自負しています。

外科の特徴は、それぞれの医師が得意分野を持ちつつも、さまざまな疾患に対応する総合外科、つまり、ジェネラルサージェリー(General Surgery)であることです。胃がん大腸がんなどの消化器がんから、内視鏡による虫垂切除術や胆嚢摘出術、救急医療では消化管穿孔(しょうかかんせんこう)をはじめとした急性疾患から胸部・腹部外傷まで、ほとんどの外科疾患を当院で完結することができます。北部地区にお住まいの方の中には那覇や中部地区の病院を受診されている方がいらっしゃいますが、当院を受診いただければ時間的・経済的な負担を軽減できるはずです。まずは気軽にご相談ください。

近年、一部ではありますが救急車を安易に利用する方がおり、医療現場では人員と医療資源がひっ迫しています。また、小児救急においても、保護者の方が仕事を休めなかったり、帰宅が5時以降になったりするとの理由で、夜間救急を受診するケースが増えています。このままでは緊急を要する患者さんに適切な医療を提供できなくなる可能性があることから、来年(2025年)あたりから救急車と子どもの救急医療の適正利用について、病院と医師会、行政、お子さんをお持ちのお母さん方の4者で話し合う場を持ちたいと考えています。誤解しないでいただきたいのですが、救急への受診を控えてくださいというものではありません。新生児や1歳未満の乳幼児の患者さんは迷わず救急車を要請していただきたいですし、重篤な症状がみられた場合も救急搬送を要請してください。ただ、救急車で搬送されてくる患者さんの6割に緊急性がなく、診察後にお帰りいただいているのが現状です。夜間救急を避けて、翌日の昼間に受診いただくだけで、かなり医療のひっ迫が解消されることから、落としどころが見つかればよいなと思っています。

当院は令和10年に北部地区医師会病院と統合し、新しく“公立沖縄北部医療センター”に生まれ変わります。これにより沖縄県の北部地区で唯一となる、急性期・高度急性期医療を提供する病院が誕生し、当地域で多くの医療を完結できるようになります。これまで那覇市など遠方の病院まで通っていた方などは、新しい病院の誕生でかなり負担が軽減されるかと思います。

現在、統合を控えておりますが、今後も当院では“断らない”をモットーに医療サービスを提供してまいります。あわせて、地域のイベントやFMやんばるのラジオ番組出演などを通して医療情報を積極的に発信し、地域の皆さんの医療リテラシー向上に貢献したいと考えています。良質な医療を提供するためには、地域の皆さんのご理解とご協力が欠かせません。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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