兵庫県神戸市にある神戸市立神戸アイセンター病院は、眼科に特化した質の高い医療を提供する公立病院です。
高度医療の提供に加え、遺伝子やiPS細胞を用いた先進的な医療の提供、開発も進めている同院の地域での役割や今後について、院長である栗本 康夫先生に伺いました。
当院は公的病院としては唯一の眼科専門の病院です。2017年に神戸市立医療センター中央市民病院眼科と先端医療センター病院眼科を統合し誕生しました。質の高い眼科標準治療と先進的な眼科医療を地域の皆さんへ提供することを使命とし、高度な専門性と充実した診療体制を確立しています。
また、理化学研究所の網膜再生医療研究開発プロジェクトと協力し、iPS細胞を用いた治療の開発も進めており、新たな治療法の確立に向け日々尽力しています。このプロジェクトは2021年より当院の研究センターに統合されました。眼科では初の遺伝子治療の実施施設としても認定を受け治療を実施しており、さらに日本発の眼科遺伝子治療の開発・提供を目指しています。
国民の平均寿命が延びている現代、当院は地域の中核的な病院として一般的な眼科診療から先進的な治療まで、幅広い医療サービスの提供に努めています。
当院を開設した主な目的の1つは、眼科分野において質の高い治療を提供することです。従来、神戸市立医療センター中央市民病院が担っていた地域の中核病院としての役割も引き継ぎながら、地域医療に貢献することが使命だと考えています。具体的な診療内容としては眼科のほぼ全分野を網羅していますが、網膜硝子体疾患や緑内障の治療に特に強みを持っています。また、白内障の手術件数でも実績を重ねており、ハイリスクな症例にも対応が可能です。
さらに当院には現在、常勤で15名の視能訓練士が在籍しており、視力や視野の検査、眼底検査をはじめ矯正訓練なども行っています。このような体制づくりが功奏し、アイセンター病院開院時の医師の数自体は中央市民病院当時と変わらないものの、診療件数や手術件数は、年間で3~4割増加しました。また、外来患者さんの待機時間減少にもつながっています。今後も眼科に特化した病院として質の高い医療を提供するため、人員や設備の強化に積極的に取り組んでまいります。
遺伝子変異により網膜の働きが低下し、視力低下や視野狭窄などの症状がみられる病気に、遺伝性網膜ジストロフィーがあります。当院は、その治療のための遺伝子診断と遺伝カウンセリング、そして遺伝子治療の実施施設として認定を受けています。国内で認定を受けているのは、現在2施設のみです。眼科治療としては日本初となる遺伝子治療をすでに開始しており、現在はさらに日本人に多いタイプの遺伝性網膜ジストロフィーの遺伝子治療の開発を進めているところです。
遺伝性網膜ジストロフィーは、進行性の障害を来すことで知られており、症状が進んでしまうと失明に至るケースもあります。他分野ですでに実施されている遺伝子治療を眼科にも取り入れ、これまで困難だった疾患の治療に生かし、患者さんによりよい治療を提供していきたいと考えています。
当院の2階には、視覚障害者支援を目的としたVision Park(ビジョンパーク・公益社団法人 NEXT VISION運営)が併設されています。Vision Parkには、さまざまな情報を得ることができるリーディングエリアや、クライミングウォールが設置されたアクティブエリアなど多彩なスペースが用意されており、リハビリテーションやイベント、セミナー、就業支援なども実施しています。当院を訪れる患者さんやそのご家族はもちろん、市民の方、企業の方や医療、福祉、教育など専門分野の方など多くの方々にご利用いただける集いの場です。
視覚障害者への包括的なサポートを提供する場を通し、公的病院として治療以外の面からも患者さんが充実した生活を送るためのお手伝いができればと考えています。
高齢者が失明する主な原因となる病気に、網膜の病気である網膜色素変性や加齢黄斑変性があり、網膜色素変性は国が指定する難病の1つにもなっています。当院はこの病気への治療法としてiPS細胞から作られる細胞を移植する臨床研究を行ってきました。
当院の前身である神戸市立医療センター中央市民病院眼科と、先端医療センター病院眼科が10年前から開始していたこの研究は、国家戦略特区プロジェクトにも認められました。iPS細胞を用いた治療が今後、先進医療として認可を受ければ、治療にかかる医療費の一部の保険適用が可能となります。これまで、臨床研究として限られた患者さんにしか適用できませんでしたが、一般の患者さんにも提供が可能になるところまでもうすぐです。
難病というと、罹患するのはごくまれであるという印象が持たれるかと思います。しかし、網膜色素変性症(多くは遺伝性網膜ジストロフィー)は、緑内障に次いで日本人の失明原因の第二位となっています。視覚障害はQOL(生活の質)に直結します。1日も早く治療法を確立し、より多くの患者さんに届けることが、私たちの大きな目標です。
人生100年時代と言われる今日、健康寿命を維持するためには視覚を守ることがとても重要です。特に緑内障や網膜変性は高齢化に伴い、患者数が増加している疾患でもあります。このうち緑内障などでは早期発見と適切な治療により進行を抑制することが可能ですので、40歳を過ぎたら定期的な目の検診をおすすめします。
当院は、遺伝子治療やiPS細胞を用いた移植など、先進的な治療の実施や開発、研究を行う施設ですが、一般的な目の病気の診療も行っています。公的な病院として、どなたでも気軽に受診していただける体制を整えていますので、目のことで気になることがありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
*医師や提供している医療についての情報および本文中の数字は全て2025年1月時点のものです。
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