JR東京総合病院は、開設から100年以上の歴史を持ち、都市の中心で地域医療を支えてきた総合病院です。新病棟の完成を機に、乳房再建術や手術支援ロボットの導入など、診療体制や医療設備のさらなる強化に取り組み、幅広い診療に対応しています。
企業立病院ならではの予防医療や働きやすい環境づくりにも力を入れ、看護師育成やDXの推進など未来を見据えた取り組みも進行中です。地域の方々にとって、より身近で信頼できる存在を目指す同院の特徴や今後について、院長の宮入 剛先生にお話を伺いました。
当院は、1911(明治44)年に、鉄道院(後の鉄道省)の職員のための病院としてスタートしました。明治、大正、昭和、平成、令和と、5つの時代をまたいで続いてきた歴史があり、今年で114年を迎えます。病院の名前も時代に合わせて変化しており、常盤病院から始まり、東京鉄道病院、中央鉄道病院、そして現在のJR東京総合病院へと変遷してきました。鉄道職員やそのご家族のための病院として知られてきましたが、1987年の国鉄民営化に伴い、東日本旅客鉄道株式会社の直営病院として、地域の皆さまにも開かれた存在となりました。
当院は現在、新宿駅のすぐそば、東京都渋谷区代々木に位置し、地域の二次救急医療を担いながら、急性期医療の診療を行っています。いわゆる“地域の受け皿”として、近隣の大学病院や三次救急施設と連携しながら、私たちのような急性期病院がしっかり機能することはとても重要だと感じています。
地域の医療機関と患者さまの間をつなぎ、必要な医療を必要なときに届けていくこと――。新宿という大都市で、地域密着型の総合病院を担うというのは一見すると難しそうですが、この立地だからこそ果たせる役割があると考えています。
当院の強みとして、まず何より診療科の総合力が挙げられます。救急を含めて、院内の各科が普段から密に連携していて、困ったことがあればすぐに相談し合える関係性ができています。総合病院として多くの診療科がそろっており、さらに院内でしっかりと連携体制が築かれていることで、患者さまにとっての安心感にもつながります。
医療機器においては最新の設備導入を意識しており、直近では新病棟の開設とともに手術支援ロボット“hinotori™(ヒノトリ)”を導入しました。hinotori™は国産の手術支援ロボットで、8つの関節を持つアームが滑らかな動きを実現しており、繊細で精緻な低侵襲(体への負担が少ない)手術が可能となります。泌尿器科での使用からスタートし、消化器外科など他の診療科へ順次広げていく予定です。
また、医師の充実も図っており、形成外科では乳房再建術の経験が豊富な医師が新たに加わりました。乳がん手術後の乳房の形成において、これまでのインプラント法に加え、自家組織による乳房再建が可能となりました。当院で新たに始めた自家組織による乳房再建は、安全・低侵襲で整容性も高い新しい方法で、手術の予約は半年先まで埋まっている状況です(2025年6月時点)。
さらに、心臓血管外科の再整備にも着手しました。一時期は休止していましたが、体制を整え、手術再開の準備が進んでいます。まずは弁膜症や冠動脈疾患といった待機的な手術から始めて、将来的には急性大動脈疾患など緊急性の高い治療にも対応できるよう、段階を踏んでいきたいと考えています。
そのほかにも、鉄道病院という歴史的な背景から、けがをされた職員の方々の治療をすることが多かったこともあり、整形外科の手術も多く手がけています。現在は、外傷に加え膝・股関節などの人工関節や脊椎、手外科、さらにスポーツ整形といった分野に力を入れており、専門性の高い診療を行っています。また、眼科では白内障はもとより網膜硝子体疾患、黄斑疾患などの診療にも力を入れており、年間で計1,300件程度(2024年度実績)の手術を行う安定した診療体制があります。
珍しいところでは、リンパ外科・再建外科を備えており、リンパ浮腫でむくみに悩む患者さまへの外科的アプローチとリハビリテーションを組み合わせた診療を行っています。診療科として標榜している医療機関が少ないこともあり、各地から患者さまが訪れています。
当院はJR東日本の企業立病院として、JR東日本グループの健康経営推進の一翼を担い、予防医療にも注力しています。2024年4月に開業した人間ドックセンターでは、胸部の検査は全て低線量CTで行い、胃の検査はバリウムから内視鏡に切り替えるなど、体に優しく精度の高い検査を採用しています。
また、当院には75年の歴史を持つ高等看護学園が併設されており、実習も院内で行います。国家試験の合格率が非常に高く、卒業後は多くの学生が当院やJR仙台病院に就職しています。チームワークがよく、現場の安定性にもつながっています。
企業立病院として、グループの持つ技術と連携できるのも大きな魅力です。たとえば、新病棟に整備された特別個室には、自宅にいるご家族の姿を病室の大きな画面に映し出せる遠隔面会システムが導入されています。これは、母体であるJR東日本のグループ会社で開発されたシステムで、当院スタッフも開発に協力し、院内での実証実験を重ねてきました。電子機器に不慣れな方でも直感的にご家族と顔を見ながら会話することができ、入院中の患者さまとご家族のコミュニケーションツールとして、活用されています。
今後はさらに医療の現場でもDX(デジタル・トランスフォーメーション)化が進んでいきますが、企業立病院の強みを生かし、さまざまな革新的な取り組みが生まれることを期待しています。
2025年には新病棟が開業しました。個室・大部屋を問わず全ての病室にトイレと洗面台を備えています。大部屋は4人部屋を基本とし、プライバシーに配慮した有償室を整備するなど、より快適な療養環境を提供しています。病棟の建て替えに続き、これから2028年にかけてさらなる整備が進みます。中庭が整備され正面玄関が新しくなるなど、快適さと利便性が向上する予定です。
これからの時代、病院は治療を行う場所であると同時に、地域にとって身近で相談しやすい存在であるべきだと私は思っています。門戸を広げ、顔の見える医療を通して、地域の皆さまとしっかり向き合っていけるよう体制を整えてまいります。当院では市民公開講座なども開催していますので、ぜひご参加ください。さらに最新の医療設備と高度な医療水準を維持して、先進的で魅力的な病院を目指します。
体調のことで不安なことがあったら、“まずはJR東京総合病院に相談してみよう”と地域の皆さまから信頼していただける病院となるように、これからも一歩ずつ進んでまいります。
*画像提供……JR東京総合病院
様々な学会と連携し、日々の診療・研究に役立つ医師向けウェビナーを定期配信しています。
情報アップデートの場としてぜひご視聴ください。