
円形脱毛症は“髪の毛の一部が抜け落ちる病気”というイメージを持つ方が多いのですが、脱毛が髪の毛全体や眉毛、まつ毛など全身に及ぶこともあり、患者さんやご家族の心には大きな負担が生じます。しかし、近年治療法が大きく進歩し、12歳以上の重症の方にはJAK阻害薬という飲み薬が選択肢に加わりました。
「大切なのは患者さん一人ひとりの思いに寄り添い、共に治療の道筋を探ること」と語る浜松医科大学医学部附属病院 准教授・病院教授の伊藤 泰介先生に、円形脱毛症と年齢別の治療選択肢などについて伺いました。
円形脱毛症は、患者さんやご家族の精神的な負担が大きくなりやすい病気です。皮膚の症状は服装の工夫で目立ちにくくなりますが、髪の毛の脱毛は時にウィッグを使用しても違和感をカバーしきれないことがあります。
この病気をどのように受け止めるかは患者さんやご家族によって本当にさまざまです。十数年前のことですが、私が診療していたある患者さんは脱毛症状を苦にして自ら人生を閉じられました。当時、私はその方の苦しい思いをしっかり汲み取れていなかったのだと思います。忘れてはならない出来事として深く心に刻んでいます。
円形脱毛症という病気に対して、患者さんやご家族がどのような気持ちを抱くかは、医学的な重症度とは必ずしも合致しません。髪の毛は戻らなくても眉毛やまつ毛が生えて維持できるだけで治療のメリットを感じるという方もいます。診療では患者さんの思いを受け止め、希望を重視しながら治療の方向性を見出すことが大切になります。
円形脱毛症と聞くと“髪の毛の一部が1か所、円形に抜け落ちる病気”というイメージを持つ方が多いと思いますが、実際にはさまざまなタイプが存在します。
脱毛は1か所(単発型)のこともありますが、複数か所(多発型)のこともあり、脱毛した部分同士が結合して広い範囲になることもあります。また、脱毛が髪の毛全体(全頭型)あるいは眉毛やまつ毛など全身に及ぶこともある(汎発型)ほか、はっきりとした境界がなく髪の毛全体に脱毛が広がる(びまん型)こともあり、症状は多岐にわたります。
これらは単発型が多発型に、そして全頭型、びまん型にと段階的に進行するというよりは、全頭型や汎発型に至る場合は急激に脱毛が進行することが多い印象です。
円形脱毛症では、毛を作り出す毛球部(毛根)という組織に、自己免疫反応に伴う炎症が起こって毛が抜け落ちると考えられています。自己免疫反応とは、本来は細菌やウイルスなどの異物を攻撃して自分の体を守るためにはたらく免疫が、誤って自分自身の体の組織を攻撃してしまう反応です。
なぜ毛球部に炎症が起こるのかはまだよく分かっていませんが、自己免疫反応が起こりやすい体質を持つ方が、ウイルス感染やワクチン接種、出産、過労などをきっかけに発症する可能性が高いと考えられています。何度も繰り返し発症したり、親子や兄弟姉妹で発症したりする方がいるのは、体質が発症に関与していることを示唆しています。
一般には円形脱毛症はストレスによる病気という認識が根強いようですが、これは必ずしも正しいとはいえません。患者さんの中には強い精神的ストレスを受けた後に脱毛が起こる方もいますが、発症のきっかけは人によってさまざまです。
円形脱毛症の治療としては、薬物療法や紫外線療法などがあり、年齢と病期、重症度を考慮して選択されます。年齢は主に治療の安全性を考えるうえで重要な観点です。病期は発症後6か月を境に急性期と慢性期に分け、重症度は頭部の脱毛面積の割合が25%以上の場合に重症と判断します。これらに加えて、患者さんの思いや希望を考慮して治療が決定されます。
いずれの治療でも、効果が確認できるまでには1年程度かかるため、根気よく継続していただくことが大切です。
薬物療法として、塗り薬の副腎皮質ステロイド(以下、ステロイド)や局所免疫療法、飲み薬のセファランチンやグリチルリチン・グリシン・メチオニン配合錠などが選択肢としてあげられます。
局所免疫療法は自費診療のため費用は施設ごとに異なります。脱毛部位に薬品を塗って軽いかぶれを起こし、脱毛部位の免疫反応のバランスを変えることで症状の改善を目指す治療法です。
安全性を考慮して、ステロイドの飲み薬や注射、紫外線療法などは推奨されていません。
薬物療法としてはステロイドの注射や飲み薬、そしてJAK阻害薬が選択肢に加わります。
脱毛範囲が部分的な場合は、ステロイド局所注射療法を選択されることがあります。脱毛部にステロイドを注射することで、免疫反応を抑制し発毛を促します。
急激に脱毛が進行する一部の方では、飲み薬や注射薬を用いてステロイドの全身投与が行われることもあります。成長期の患者さんではステロイドが骨に作用して成長阻害を引き起こすリスクがあるため、慎重に適応が検討されます。
JAK阻害薬は近年新しく登場した飲み薬です。円形脱毛症の発症に関わる物質のはたらきを抑えることで毛球部に対する免疫反応を抑えます。慢性期の重症の方が対象で、リトレシチニブは12歳から、バリシチニブは15歳から選択可能です。
年齢による制限がなくなり、より治療選択の幅が広がります。
脱毛範囲がそれほど広くない場合は、ステロイド局所注射療法が選択されます。急性期、慢性期いずれにも行われることがあります。急激に脱毛が進行する重症例ではステロイドの全身投与が基本です。また、急性期の方を中心に患部に紫外線を照射する紫外線療法が実施されることもあります。
慢性期の重症の方は局所免疫療法やJAK阻害薬が選択肢になります。中でもJAK阻害薬は効果が期待できる治療法です。期待される効果や副作用、経済的な負担などについて患者さんとよく話し合って選択する必要があります。
円形脱毛症は、精神的な負担が大きくなりやすい病気ですが、社会的な理解は十分ではありません。たとえば、病気やその治療によりウィッグが必要な方に対して助成金制度を設けている自治体もありますが、その多くは対象に円形脱毛症が含まれていません。国や自治体などによる支援が広がるように、患者会などの活動を通じて働きかけが続けられています。
近年、円形脱毛症の病態解明や治療薬の開発が進み、JAK阻害薬という新たな治療選択肢が加わりました。現在も研究が続けられており、今後のさらなる発展を期待しています。
円形脱毛症の治療はいずれも、毛球部の炎症反応を抑制して発毛を促すことを目指しています。よくなったり悪くなったりすることがあると思いますが、根気強く治療を続けることが大切です。また、ウイルス感染や過労などは円形脱毛症の発症や悪化のきっかけになり得るため、生活習慣の改善や健康意識の向上にも努めていただくとよいでしょう。
診療においては、患者さんやご家族の精神的な負担を少しでも軽くできるよう努めることが大切です。脱毛に気付いたら早めに受診いただき、症状の改善を目指していきましょう。
浜松医科大学 皮膚科学講座 准教授
様々な学会と連携し、日々の診療・研究に役立つ医師向けウェビナーを定期配信しています。
情報アップデートの場としてぜひご視聴ください。
関連の医療相談が17件あります
円形脱毛症に関連した病気について
・経緯 2月に円形脱毛症に気づき、すぐに皮膚科を受診しました。徐々に大きくなり、1センチ大から4センチ大まで広がってしまいました。 現在通院4か月目、通院頻度は月1回です。塗り薬と飲み薬を処方されています。4月下旬に通院しやすいよう自宅近くの皮膚科に変えました。処方された薬は変更ありません。 5月に入って徐々に生えはじめ、希望が見えはじめたところ、もう一箇所に1センチ大の円形脱毛が発生しました。急いで皮膚科に行き、処方済の塗り薬をそちらにも塗っています。 円形脱毛症は自己免疫が関わること以外に、カビが原因だったり、甲状腺に関する病気につながっている場合があるという情報を見て不安になっています。また、円形脱毛症が始まったころから今まであまりなかった冷えと浮腫を感じるようになり心配しています。 ・私が他に服用してる薬や病歴 低容量ピル、漢方(加味帰脾湯)を服用しています。気管支喘息とダニアレルギーを持っています。 ・相談したいこと 他の検査をした方がいいのはどういった場合なのでしょうか。また、他の病気を疑う方がいい場合の特徴はありますか?
円形脱毛症
10年くらい前から脱毛、治癒を繰り返してます。今回は2年くらい前に脱毛し、半年位前に病院に行きました。薬を処方されましたが治らず、前回は病院に通わず治ったので自分の判断で通院を辞めてしまいました。ですがまだ生えてきません。頭の後頭部が横に脱毛してきてしまいました。皮膚科はたくさんあり、何を基準に選べばいいか分かりませんし、どのような治療法かいいのか教えて頂けたらと思います。
子供が怖い妄想をする。脱毛がある。
去年9月にうっすらと10円ハゲを見つけました。その後生えてきたと思ったらまた違う場所みつけました。今うっすら生え始めてます。 しかし以前から怖い事考えてしまう。 どうしょとか言ってきます。 包丁でとかハサミでとか…頭がいろいろ怖い事考えてしまうんどうしよと… びっくり。なんと言ってあげたらいいのか。 月に1度あるかないかですが夫婦げんかを見られてしまう時があるからなのでしょうか。 精神的なものでしょうか。
円形脱毛症
10年以上 大学病院に通っています。 今は 2週間に一度位 かぶれさせる薬を塗ってもらいに行ってます。 一生なおらないのでしょうか? 何箇所も生えたり 抜けたりを繰り返しています。つるつるの所もあります。 特効薬はないのでしょうか?
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「円形脱毛症」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。