2026年1月、東京都狛江市にある東京慈恵会医科大学附属第三病院は、新病院の開院とともに「東京慈恵会医科大学西部医療センター」へと名称を改めました。
今回の刷新は、単なる建物の建て替えにとどまりません。地域医療支援病院としての役割をより強固にし、救急、脳卒中への対応、そしてがん医療といった、地域が真に必要とする機能を大幅に拡充しました。
東京慈恵会医科大学の学是である「病気を診ずして病人を診よ」という精神を核に据えながら、診療科の垣根を越え、患者さんの人生に伴走する「つなぐ医療」を提供する同院について、病院長である平本 淳先生にお話を伺いました。
私が当院で歩み始めてからかなりの年月が経ちますが、ここ和泉本町の地で当院が産声を上げたのは1950年のことです。
長らく「第三病院」という名前で親しまれてきましたが、これは慈恵医大で3番目の附属病院であるという数字上の理由から付いたものでした。しかし、これからの時代に求められる役割を考えたとき、より地域に根ざした存在であることを示したいという思いが強くなりました。そこで新病院の誕生を機に、慈恵医大の西の拠点を担うという意味を込めて「西部医療センター」と名称を新たにしました。
以前の建物は、1970年に建てられた本館病棟を中心に50年以上が経過していました。建物としての限界はもちろんですが、大きな課題だったのは、現代の医療環境において欠かせないプライバシーの確保や、感染症対策です。特に2020年からのコロナ禍では、飛沫感染する病気に対して個室管理や換気動線の重要性を痛感しました。
新しい病院では、病床数を494床とし、その約3分の1を個室にいたしました。かつての6人部屋中心の環境から大きく舵を切り、患者さんが穏やかに過ごせる環境を整えています。廊下も広く、エレベーターの数も増やして、患者さんも職員もスムーズに動けるようになりました。何より「第三病院」という少し硬いイメージを払拭し、地域の方々に「自分たちのための病院だ」と感じていただけるような、開かれた場所でありたいと願っています。
私たちが今、最も力を注いでいることの1つが救急体制の抜本的な強化です。正直に申し上げますと、以前の当院は救急の専属医が非常に少なく、各診療科が持ち回りで対応しているような状況でした。地域の方々からは、救急車の音が聞こえても当院には入っていかないといったお声をいただくこともあり、大変申し訳なく思っておりました。
しかし、地域の高齢化が進むなかで、急な体調不良に対応できる窓口は絶対に必要です。そこで新病院になる前から準備を進め、現在は救急部の常勤医を5名まで増やしました。救急エリアは新病院の設計段階から重視して1階東側に救急部を設置しており、2026年度は年間5,000件の搬送受け入れを目指しています。
ただ、救急の入り口だけを広げても、その後の受け皿がなければ医療は成立しません。そこで私が長年所属していた総合診療部がバックアップとして機能する体制を整えました。これにより、高齢の方の感染症や、腰痛などで動けなくなった方など、特定の診療科に当てはまりにくい患者さんを総合診療部がしっかりと引き受けられるようになっています。救急が受け、総合診療が診る。この連携によって、地域の患者さんをできるだけ受け止められる体制を目指していきたいと考えています。
新病院の開院に合わせて、待望の「脳神経・脳卒中センター」を立ち上げました。これまでは脳卒中の患者さんに対して十分な対応ができない場面もあり、心苦しい思いを抱えることもありました。今では血管内治療に対応できる医師が24時間体制で待機し、血栓回収術などの進んだ脳卒中の治療を行える設備を完備しています。
特に血管造影室には「ARTIS icono D-Spin」という新しい血管撮影装置を導入しました。この装置を使いこなせる熟練の医師たちも、新しいセンターの立ち上げに伴い意欲を持って新橋にある本院などから集まってくれました。今ではSCU(脳卒中ケアユニット)の稼働率がほぼ100%と高く、当地域で多くのニーズにお応えできていることを実感しています。
また、当院の脳卒中治療の強みは、治療して終わりではない点にあります。もともとリハビリテーション科が非常に充実しているので、脳神経内科、脳神経外科とリハビリテーション科が密に連携し、発症直後から回復期まで、患者さんを支え続けることができます。診療科の隙間で患者さんが迷わない、まさに私たちが掲げる「つなぐ医療」を象徴するセンターといえます。
当院は東京都がん診療連携拠点病院です。その役割を果たすため、新病院では治療の3本柱である手術、化学療法、放射線治療の全てをアップデートしました。手術においては、手術支援ロボット「ダビンチ」を導入し、泌尿器科、産婦人科、外科などで体への負担が少ない手術を開始しています。東京慈恵会医科大学の看板の1つである耳鼻咽喉・頭頸部外科においても、がん治療を得意とする医師を中心とした体制とすべく準備を進めているところです。
また、血液のがんに対する「造血幹細胞移植」が行えるよう、無菌室も6室新設しました。これまでは遠くの病院に行かざるを得なかった患者さんも、住み慣れたこの地域で治療を完結できるようになります。放射線治療についても「True Beam」という新しい機器を導入し、mm単位の精度で腫瘍(しゅよう)を狙い撃つ治療が可能になりました。
そして、私たちがどうしても作りたかったのが、がんの進行に伴う体の痛みや精神的な苦痛を専門的に和らげて患者さんやご家族をサポートする「緩和ケア病棟」です。
この病棟は東京慈恵会医科大学の附属病院としても初めての試みです。病棟は病院の最上階に位置し、非常に静かで、天気がよければ富士山も望める素晴らしい環境となっています。
全室個室で、その半数は差額ベッド代をいただいておりません。急性期の慌ただしい病棟ではなく、心穏やかに過ごせる場所を提供したい。治療から緩和まで、大学病院が最後まで責任を持って支える体制が、ようやく整いました。
私たちが大切にしているキーワードは“シームレス”です。大学病院は多くの診療科に分かれていますが、患者さんにとっては科の違いは関係ありません。たとえば胃がんの方であれば内科で診断し、外科で手術をし、必要に応じて緩和ケアへという流れを、1つの「消化器センター」としてシームレスにつないでいくことが大切だと考えています。
この考え方は、人生という長い時間軸にも当てはまります。小児科では地域の学校医としてお子さんのメンタルケアに携わり、産婦人科では出産後の産後ケアや無痛分娩*にも力を入れる。お子さんからご高齢の方まで全ての世代の健康を支え、人生のそれぞれのステージをつないでいく。大学病院として、そういった役割をこの地域で果たしたいと考えています。
また、病院の中だけで完結するのではなく、地域の開業医の先生方や訪問看護、介護の現場ともしっかりつながることが不可欠です。新病院では、新設した「患者支援・医療連携センター」を中心に、これまで以上に紹介や逆紹介を活性化させ、当院で治療を終えた後も患者さんが安心して日々をお過ごしいただけるよう、当地域で医療のネットワークを構築していきます。
*無痛分娩は硬膜外麻酔で分娩時の痛みを緩和します。痛みが全くなくなるわけではありません。無痛分娩は自由診療です。通常分娩55万円に加え、12万円がかかります(うち東京都の助成対象となる無痛分娩費用の金額最大10万円)。
新しい病院の敷地内には、看護学科やシミュレーションセンターも併設されています。これらを生かして、今後は地域の方々への教育や啓発活動にもさらに取り組んでいくつもりです。たとえば、心肺蘇生法の講習会を開催したり、健康維持のための情報を発信したりすることで、当院は病気になる前から頼りにされる存在を目指していきます。
1階には障害者の方の就職支援を行うジョブセンターの設置も予定しており、医療という枠を超えて社会に貢献できる形を模索しています。地域に長く根ざしてきた慈恵医大だからこそできる、多職種が連携した手厚いサポートを届けていきたい、それが当院の願いです。
私たちは、単に技術を提供するだけの場所ではありません。歴史ある「病気を診ずして病人を診よ」という東京慈恵会医科大学の学是を今一度胸に刻み、患者さん一人ひとりの背景や思いに寄り添う心を、次世代の医療スタッフにもしっかりとつないでいくつもりです。

「大学病院だから、重い病気でなければ行ってはいけない」と思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、決してそんなことはありません。私たちはこの地域で一番信頼される病院になりたいと願っております。何か不安なことがあれば、まずは気軽に足を運んでいただきたいと考えています。
新しい病院には、素晴らしい設備と、それを支える熱意あるスタッフがそろっています。医師だけでなく、看護師、事務、技師など、あらゆる職種が1つのチームとなって、皆さまの健康を守るために尽力いたします。
地域の皆さまの身近な相談相手として私たちを活用していただければ、これほど嬉しいことはありません。これからも西部医療センターは、皆さまと共に、健やかな未来を創り続けてまいります。
※本記事の情報は全て、2026年5月時点のものです。
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