てんかんの発作には、けいれんする発作だけではなくけいれんを伴わない非けいれん性の発作もあり、患者さんによっててんかん発作型はさまざまです。また、てんかんの原因も多岐にわたります。てんかん発作が多様であるために見逃されてしまうケースもあり、詳細な観察による正しい診断と治療が必要となります。
今回は埼玉県立小児医療センター 神経科 科長の菊池 健二郎先生に、小児てんかんに対する診断の進め方と治療についてお話を伺いました。
当科外来では、特に問診を重視しています。医師に伝えるべき症状のポイントとしては、以下の点が重要となります。
お子さんの発作を初めて見る親御さんや学校・保育の関係者は、突然のことで発作の様子を正確に記憶していないことが多いため、問診の際にうまく答えられないことは無理もないことを私たち医師は承知しています。また、就寝中の発作では布団がかぶさってよく見えなかったりする場合もあると思います。しかしながら、私たち医師はお子さんの発作の状況を直接見る機会がほとんどなく、親御さんや学校・保育の関係者から教えてもらう発作の様子に頼るしかないため、できる範囲で正確に観察していただきたいと思います。最近はスマートフォンなどで動画を撮影していただくことをすすめています。
小児てんかんの発作型や原因を調べるため、以下のような検査が行われます。
頭部に電極を装着し、脳から発信される微小な電気から脳の活動状態を観察する検査です。てんかんに特有な脳の異常な“波”を見つけることで、てんかんであるかどうかの判断材料の1つになります。ただし、脳の電気的信号の異常は脳の深い部分で発生することもあるため、頭皮の上に置かれた電極からでは記録できないこともあります。1回の検査で異常波を検出できないこともありますので、繰り返し検査を行うこともあります。また、ここが重要ですが、脳波検査で異常波が検出された時点ですぐにてんかんと診断できるものではありません。なぜなら、脳波の異常はけいれんを起こしたことがない人にも数%で認められるからです。したがって、てんかん発作やその頻度、そのほかの検査結果などを総合的に評価して、てんかんの診断を行っています。
当院では、発作の頻度が多い患者さんには長時間ビデオ脳波同時記録を行い、脳波検査中にてんかん発作を捉えて、発作のときに脳のどこから異常波が出現しているか、脳のどこに広がっていくのかなどを評価する発作時脳波を実施しています。この発作時脳波を行うことで、けいれんがてんかん発作なのか、てんかんではないほかの原因によるものなのかを判別します。長時間脳波では、覚醒時と睡眠時の両方の状況について検査を行い、脳波にどのような変化が認められるかを調べます。なお、長時間ビデオ脳波同時記録を実施するためには入院する必要があります。施設によっては、コードレスで記録ができるため記録中にお子さんは自由に病室内を動くことが可能な場合もありますし、脳波記録計とコードがつながっている場合は入院中の行動範囲が極端に制限される場合があります。
大脳の中の構造を画像で見て、てんかん発作の原因となり得るような構造異常、腫瘍、血管障害、大脳の形成異常などの有無を調べることを目的とした検査です。構造的な異常があるかないかを評価することは、お子さんの治療方針に大きく影響するため、年齢を問わずこれらの検査を行うことは非常に重要です。
てんかん発作の原因となり得るような先天代謝異常や自己免疫疾患を見つけることを目的とした検査です。また、てんかんではない別の病気(内分泌疾患など)がないかどうかも確認します。さらに、てんかんの診断がつき抗てんかん薬を服用することになった場合には、服薬前の体の状態(肝臓や腎臓のはたらき)を確認したり、服用中の抗てんかん薬による副作用と考えられる内臓への影響を調べたり、現在服用している抗てんかん薬の血中濃度を測定し内服している薬の投与量を調整する目的で実施します。
小児てんかんに対する治療は大きく3つあり、基本は抗てんかん薬による薬物治療を行い、治りにくい(難治性の)てんかんの場合には外科的治療、食事療法(ケトン食療法)を行います。
てんかん発作が起こらないように、抗てんかん薬と呼ばれる飲み薬を服用します。治療の目的は脳神経細胞の異常な興奮を抑えることですが、脳神経細胞の興奮を直接的に抑える薬と、もともと私たちの脳が持っている神経細胞の興奮を抑える作用をさらに強める薬があります。どちらも脳神経細胞の活動を結果的には抑えることになるので、眠気、集中力の低下、めまいなどの副作用が起こり得ます。なお、ウエスト症候群(点頭てんかん)の場合は、抗てんかん薬の飲み薬と別に副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)療法というホルモン剤を筋肉内注射する治療もあります。
2種類以上の抗てんかん薬でてんかん発作が治まらない難治性のてんかん(薬剤抵抗性てんかん)に対して外科的治療を考慮することがあります。脳の構造的な異常が見つかった場合は、抗てんかん薬では発作が治まらないこともあり、早い段階で手術を検討する必要もあります。また、脳の構造的な異常が認められない場合でも、てんかん発作による発達の停滞や低下(退行)の改善、転倒によるけがの防止を目的として外科的手術を行う場合があります。
ケトン食療法は炭水化物の摂取量を減らして、脂肪を多く摂取する食事治療法です。米、パン、パスタなどの炭水化物をできるだけ取らず、砂糖は人工甘味料で代替し、卵、豆腐、肉、魚主体の食事に食用油を添加します。そして、食事中の脂肪/(糖+炭水化物+たんぱく質)の比率(ケトン指数)を3~4:1の割合にします。焦点てんかん、全般てんかんに限らず、あらゆる発作型に効く可能性があります。
てんかん治療の基本は、抗てんかん薬により発作を抑えることです。一部のてんかん症候群では、発作頻度が少なかったり、自然に発作が消失したりすることもあり、てんかんの診断を受けたからといって必ずしも抗てんかん薬を飲む必要はありません。先ほどお話ししたように、抗てんかん薬には副作用がありますので内服することのメリットとデメリットを十分に考える必要があります。
現在、わが国には抗てんかん薬が20種類以上あり、その中から薬を選択する場合は、焦点てんかん、全般てんかんといったてんかんの病型によって異なります。一部の抗てんかん薬では、内服することでさらにお子さんのてんかん発作が悪化するケースもあるため、てんかんの発作型やてんかんの分類を適切に行うことが重要となります。
てんかんの患者さんの約7割は、抗てんかん薬によって発作をコントロールすることが可能ですが、残りの約3割の方は抗てんかん薬を内服していても発作が残ってしまいます。抗てんかん薬は脳に直接作用する薬であり、てんかん治療は年単位の長期間におよびますので、感冒薬のように安易に処方することは慎まなければなりません。さらに、抗てんかん薬は発達段階にある子どもの脳に影響を与える可能性があり、投与量を含めて慎重に、そして適切に抗てんかん薬を使うことが必要です。
抗てんかん薬の副作用として、以下のようなものが挙げられます。
多くみられる副作用は、眠気です。内服を始めた直後から認められますが、徐々に慣れていくことが多いです。しかし、副作用が強く日常生活に支障をきたしてしまうようであれば、投与量の調整や薬の種類を変えるなどの対応が必要になります。抗てんかん薬の服用で得られるメリットと副作用によるデメリットのバランスを考えていくことが、とても重要であることを親御さんに説明しています。
抗てんかん薬を開始してからてんかん発作がまったく起こらない状態が一定期間(2〜3年間)続いたとき、薬の投与量をゆっくり減らして最終的に中止することを検討します。ただし、薬を減らすことにより、それまで治まっていたてんかん発作が再発するリスクがあることを事前に親御さんやお子さん本人に説明しています。
小児てんかん治療では、小児科医である私たち医師が初めに抗てんかん薬の治療を開始します。お子さんが成長・発達して小児期から成人期に移行することを考えると、抗てんかん薬が成人期以降も内服が必要かどうかを見極めることはとても重要ですし、責任が重大です。成人期になってから抗てんかん薬の中止を検討する場合には、お仕事のこと、車の運転のことなど社会的な要素を考える必要があります。服薬を終えるタイミングは個々の患者さんによって異なりますし、服薬を終わらせないという選択肢があることも含めて、お子さん本人や親御さんと成人期に達する前には十分に話し合いを重ねることがとても大切です。
埼玉県立小児医療センター 神経科 科長
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