びまん性胸膜肥厚とは、肺を包む胸膜が線維化する病気です。胸膜の線維化が生じると、呼吸機能が低下し息切れなどの症状が現れます。息切れが頻繁に起こるようになると、日常生活に支障をきたします。初めのうちは主に生活の改善により重症化を防ぐことができます。しかし、重症化したときには、常に酸素吸入が必要になり、在宅酸素療法などの治療が行われます。
今回は、横須賀市立うわまち病院の三浦 溥太郎先生に、アスベスト*を原因とするびまん性胸膜肥厚の診断と治療についてお話しいただきました。
アスベスト(石綿)…天然の繊維状けい酸塩鉱物の総称。
びまん性胸膜肥厚の診断では、アスベストにさらされた経験について確認します。特に、過去に建築現場などでアスベストを扱う仕事についていた経験があれば、診断につながる情報になるでしょう。
びまん性胸膜肥厚の診断は、胸部レントゲン検査とCT検査(エックス線を使って身体の断面を撮影する検査)にもとづき行われます。
胸部レントゲン検査の結果、両方の肺の側胸壁(肺の側面)の4分の1以上に胸膜肥厚が広がっていれば、この病気が疑われます。また、片側のみに病気が認められる場合には、側胸壁の2分の1以上の胸膜肥厚が認められれば、この病気の可能性があります。
胸膜の肥厚は胸部レントゲン検査だけでは診断しにくいため、通常は、CT検査によって確認されます。このCT検査によってアスベストを原因とする胸膜プラーク*との鑑別も可能になります。
胸膜プラーク:主に壁側胸膜に生じる限局性の胸膜の線維化。アスベストを吸ったことのある人に見られる医学的所見のひとつであるが病気ではない。
記事1でお話ししたように、びまん性胸膜肥厚の発症原因は、アスベスト以外にもさまざまです。びまん性胸膜肥厚を引き起こすアスベスト以外の主な原因は、以下となります。
これらの原因によるびまん性胸膜肥厚は、悪性腫瘍を除くと、原因となる病気が治ってから数年~数十年後に起こることが多いのです。そのため、問診によって患者さんの病歴を詳しく調べることが大切です。
職業的に過去にアスベストを吸った方であれば、申請と審査によって、離職時あるいは離職後に石綿健康管理手帳が交付される場合があります。この交付を受けると、年に2回、無料で胸部の健康診断を受けることができます。
健康診断で撮影される胸の画像によって、胸膜の肥厚が発見されることがあります。
石綿健康管理手帳が交付されていない場合には、胸部レントゲン検査やCT検査(エックス線を使って身体の断面を撮影する検査)などによって胸膜の肥厚が発見されることがあります。自覚症状が現れない段階では、これらの画像検査によって発見されることが多いでしょう。
CT検査は胸部レントゲン検査にくらべて浴びる放射線の量が多いため、通常、最初からCT検査が行われることはありません。なお、健診では、放射線の量を抑えた低線量健診が行われます。
今のところ、びまん性胸膜肥厚を根本から治療する方法はみつかっていません。そのため、軽症であれば経過観察となり、風邪に注意するなど生活上の指導が行われます。
通常は、症状に応じて2~3か月から半年に一度程度、受診していただきます。また、著しい呼吸機能障害が確認され、一定の基準に該当する場合には労災や救済法の対象となります。
また、呼吸機能が低下することによって自力で痰をだせなくなり、喉に痰がつまってしまうことがあります。そのような場合には、痰をだしやすくなる薬によって治療を行うこともあります。
息切れが強くなり、酸素吸入が必要な場合には在宅酸素療法(HOT)が行われます。在宅酸素療法では、ご自宅に設置された酸素供給装置からチューブを通して酸素を吸入します。また、外出時などには携帯用酸素ボンベが使用されます。
びまん性胸膜肥厚の方は、まずは禁煙をしていただきたいと思います。この病気の患者さんが喫煙を続けていると、呼吸機能のさらなる低下につながってしまいます。また、風邪や肺炎を起こしたときに重症化しやすくなります。禁煙はもっとも大切なことです。
病気が進行すると、肺炎を起こしやすくなります。肺炎が重症化すると、命にかかわるケースもあります。そのため、風邪をひかないよう注意することが大切です。
特に高齢の方であると、誤嚥性肺炎(食べものや唾液などと一緒に、誤って細菌が吸引されることで生じる肺炎)を発症する危険性もあります。誤嚥性肺炎を予防するためには、口腔内の清潔が保たれていることが大切です。歯をよく磨くなど、口腔内のケアを行うことが発症の予防につながるでしょう。
また、なるべく歩くよう心がけた方がよいと思います。びまん性胸膜肥厚の患者さんは、動くと息切れしてしまうため歩かなくなってしまう患者さんも少なくありません。しかし、足の筋肉が落ちると、呼吸を行う筋肉も衰えてしまいます。
無理して鍛えるというよりは、楽しみながら歩くことがコツだと思います。無理をすると、かえって心臓に負担がかかってしまい、疲労がとれなくなってしまうこともあります。
おすすめは、誰かと話しながら歩くことです。息が切れてきたら一休みをしてまた歩くとよいでしょう。
びまん性胸膜肥厚は、最終的には息切れが強くなることの多い病気です。現状では、病気を根本から改善させる治療法はみつかっていません。そのため、徐々に病気は進行していきます。しかし、そのスピードは患者さんによって異なります。
生活改善などにより、なるべく重症化を防いでほしいと思います。また病気が進行した場合でも、現在は、在宅酸素療法などの進歩により生活を楽しむことが可能です。きちんと診断を受けて、なるべく早く病気を発見していただきたいと思います。
横須賀市立うわまち病院 呼吸器内科顧問
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