概要
チャージ (CHARGE) 症候群は、体の様々な部分に特徴的な症状が認められる先天性の疾患です。
主症状であるC (coloboma: 網膜の部分欠損 (コロボーマ))、H (heart defects: 先天性心疾患)、A (atresia choanae: 後鼻腔閉鎖)、R (restricted growth and development: 成長障害・発達遅滞)、G (genital abnormality: 外陰部低形成)、E (ear abnormality: 耳奇形・難聴) の頭文字をとって命名されています。
性差はなく、出生児20,000人あたり1人程度に発症するまれな疾患で、厚生労働省により難病のひとつに指定されています。日本では、毎年30~50名程度の新規患者さんが生まれてくると推定されています。
個人によって症状の程度はさまざまですが、主にCHD7遺伝子の異常により引き起こされることがわかっています。常染色体優性遺伝形式で遺伝しうる疾患ですが、突然変異により引き起こされる孤発例である場合がほとんどです。
原因
チャージ症候群の大部分の症例では、8番染色体に存在するCHD7遺伝子の異常により引き起こされることが報告されています。CHD7遺伝子はクロマチンリモデリングタンパク質の生成に関わり、クロマチンの構造を変化させることにより様々な遺伝子の発現を制御しています。
CHD7遺伝子の変異により、異常なCHD7タンパクが作られ、主に胎児発生の過程で遺伝子発現の制御がきかなくなることからチャージ症候群が引き起こされると考えられています。ほとんどの症例がCHD7遺伝子の突然変異により引き起こされる弧発例であり、遺伝によるものではありません。
しかし、両親から子に変異が受け継がれ (常染色体優性遺伝形式)、発症する家族例もまれではありますが報告されています。およそ3分の1の患者さんでは、CHD7遺伝子上に既知の変異が認められないことがわかっています。これらの患者さんが発症に至る機序はわかっていませんが、ほかの遺伝子異常や環境因子との関わりが想定されています。
症状
ほとんどの患者さんで、網膜や脈絡膜、視神経乳頭、虹彩などの組織の一部が欠けるコロボーマが認められます。片側もしくは両側性に現れ、欠損部位や大きさによって視力に与える影響もさまざまです。眼球の大きさが小さい小眼球症である場合もあります。
約7割の患者さんでFallot四徴、動脈管開存、心室中隔欠損などの先天性心疾患を伴います。また、後鼻腔 (鼻のうしろから喉への息の通り道) の狭窄もしくは閉鎖により、呼吸障害を合併することもあります。
口唇口蓋裂を合併する例も多いです。口唇口蓋裂のほか、左右の耳の形が非対称であったり、眼瞼下垂、上額低形成、下顎低形成を伴ったりと特徴的な顔貌を認めます。耳の奇形に加えて、約8割の患者さんで難聴が認められます。成長障害や精神遅滞はほぼ全例で認められます。
出生児には平均的な体重を示す方がほとんどですが、栄養障害や心疾患など、また一部の症例では成長ホルモンの分泌低下をともなうことから、出生後小さな体つきになる傾向にあります。停留精巣や尿道下裂、陰唇の低形成、二次性徴の欠如など性器低形成も高頻度に認められます。
検査・診断
チャージ症候群では、症状が体のさまざまな部位に及ぶため、それぞれの症状に応じた検査が行われます。診断にあたってはBlake基準が用いられています。
大症状 (眼球コロボーマ・小眼球症、後鼻腔閉鎖・狭窄、耳奇形、中枢神経障害) および小症状 (外陰部低形成、発達遅滞、心血管奇形、成長障害、口唇口蓋裂、気管食道瘻、特徴的な顔貌) の有無に基づき診断が行われます。
また、原因遺伝子としてCHD7が報告されており、CHD7遺伝子を対象とした遺伝子診断が行われることもあります。この他、染色体異常症の中にもチャージ症候群と類似した症状を呈する疾患が知られており、染色体検査で鑑別を行うことがあります。
治療
チャージ症候群では、症状が体のさまざまな部位に及ぶため、それぞれの症状に応じた多面的かつ包括的な治療が必要となります。さまざまな症状のなかでも、先天性心疾患ならびに呼吸障害は予後に大きく関わるため、早急な対応が求められます。
後鼻腔狭窄や閉鎖に対しては、必要に応じて外科的手術が適用されます。喉頭や気管の構造異常をともなう例も多く、上気道閉塞を生じる場合には気管切開が必要になる場合があります。チャージ症候群に認められる様々な症状に起因し、哺乳障害や摂食障害を認める患者さんはめずらしくありません。
経口での摂食が難しい場合には経鼻チューブ栄養を必要とする例や、継続的に摂食障害が続く場合には胃ろう手術が必要となる例もあります。また、チャージ症候群では、視覚ならびに聴覚に障害が認められるため、両者に対する継続的なフォローも重要です。
眼球のコロボーマによる近視や乱視、視野の欠損に対しては、適切な眼鏡を使用し、姿勢を工夫するなどの訓練が必要となります。聴力障害に対しては、補聴器の適応に加え、言語療法など専門家によるリハビリテーションも重要となります。
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