概要
ニューモシスチス肺炎(PCP:Pneumocystis pneumonia)とは、Pneumocystis jiroveciiと呼ばれる真菌に感染することによって起こる肺炎です。強い息苦しさや乾いたような咳、発熱などの症状がみられます。
この真菌は健康なときに感染症を起こすことはほとんどなく、免疫が低下した状態の際に症状が出ることが特徴です。このように抵抗が弱まっているときに起こる感染症のことを“日和見感染症”と呼びます。
原因
ニューモシスチス肺炎は、免疫が低下している際に原因菌が体の中に入ることによって生じると考えられています。発症する仕組みについてはいまだ分かっていないこともありますが、原因菌自体は人から人への飛沫感染が原因で感染すると考えられており、発症者は治療開始から1週間前後まで強い感染力を持つと考えられています。
なおニューモシスチス肺炎にかかりやすい人の特徴の1つとして、HIV感染症*の患者であることが挙げられます。近年は有効な予防方法が確立しつつあり、HIV感染症患者のニューモシスチス肺炎は減少傾向にあります。しかし、中にはHIV感染症が進行した患者がニューモシスチス肺炎を発症して、後天性免疫不全症候群(エイズ)と診断されることもあります。
そのほか近年では、臓器移植後の患者など免疫抑制剤の投与によって免疫が抑制されている患者にも、ニューモシスチス肺炎を発症することが多く、加えてステロイド薬の投与や生物学的製剤、抗がん剤、がんそのものによる免疫低下なども発症のリスクになっている場合もあります。
*HIV感染症……ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染した状態を指す。感染後、指定された23の日和見感染症のうちのいずれかを発症した場合に、後天性免疫不全症候群と診断される。
症状
ニューモシスチス肺炎の3つの大きな症状として、体を動かした際の強い息苦しさや乾いた咳、発熱などが挙げられます。しかし、必ずしも全ての症状が現れるわけではありません。
ニューモシスチス肺炎は、患者の持っている病気によっても症状や経過が大きく異なる場合があります。たとえば、HIV感染症によるニューモシスチス肺炎は呼吸機能の低下がゆっくりで、症状を自覚するまでに時間がかかりやすい傾向があります。一方で臓器移植後などHIVに感染していない患者のニューモシスチス肺炎は急激に発症しやすい傾向にあり、特に呼吸状態の悪化が早いことが分かってきています。
検査・診断
症状や持っている病気などからニューモシスチス肺炎が疑われる場合、血液検査や画像検査、喀痰検査などが検討されます。また、確定診断としては気管支鏡検査などにおいて原因菌の存在を証明することが必要です。
ただし体の状態によっては気管支鏡検査が行えない場合もあるため、原因菌を確認できなくても、ニューモシスチス肺炎の治療に進む場合があります。
血液検査
血液検査では、白血球数の増加や体に炎症が起こっているときにみられるCRPの上昇などの所見がみられることがあります。また、一般的な細菌性肺炎ではみられにくい、ニューモシスチス肺炎特有の所見として、LDH、β-D-グルカン、KL-6といった数値の上昇がみられることもあります。
画像検査
ニューモシスチス肺炎の検査として行われる画像検査には、胸部X線検査、胸部CT検査、気管支鏡検査などがあります。
胸部X線検査
肺の両側にかすみがかったような、すりガラス状の影や網目のような“網状影”がみられることがあります。また病気が進んでいる場合には一般的な細菌性肺炎のように“浸潤影”がみられることもあります。時折、袋状にみえる病変“嚢胞”が確認できる場合もあります。
一般的に初期段階はX線検査では異常が確認できないことも少なくないため、不確定な場合にはより詳しい検査として胸部CT検査も併せて行うことが望ましいといえます。
胸部CT検査
CT検査においても肺の両側にすりガラス状の影や網状影が認められ、また嚢胞が確認されることがあります。病気が進行している場合には“浸潤影”がみられることもあります。肺の病気が出はじめたときには肺の末梢(外側)には影が出にくいのも特徴です。X線検査よりも細かく所見を確認できることが一般的です。
気管支鏡検査
鼻や口からカメラが付いた細い管を入れて、気管支を観察したり、検体を採取したりする検査です。ニューモシスチス肺炎の場合、多くは“気管支肺泡洗浄(BAL)”といって、生理食塩水を注入して肺の中を洗浄し、洗浄した液体を回収して検査する手法が検討されます。この液体から原因菌を検出できれば、ニューモシスチス肺炎の確定診断が付きます。
喀痰検査
気管支鏡による検査が難しい場合、痰を採取して詳しく調べる検査も検討されます。
治療
ニューモシスチス肺炎の主な治療方法は薬物療法です。第一選択薬としては、ST合剤(スルファメトキサゾールとトリメトプリムの合剤)が挙げられます。効果が期待できる一方で、発疹や肝障害、電解質異常などが生じることがあるので、注意深く観察し、採血などを確認します。また、ST合剤で治療できない場合にはほかの薬剤を使うことがあります。
HIV感染症の患者の場合は、標準的に3週間治療を行い、肺炎が進んでいて酸素を取り込むことが十分にできない場合にはステロイド薬を一緒に使って治療することもあります。HIV感染症の患者ではない場合は治療が難しいことが多く、3週間以上治療をすることも珍しくありません。
また、第二選択薬として重症例ではペンタミジンの点滴が、それ以外ではアトバコンが検討されることが一般的です。
予防
ニューモシスチス肺炎は発症すると治療が難しいこともあり、リスクが高い人にST合剤もしくはアトバコンなどの薬を服用して予防することが一般的です。
医師の方へ
「ニューモシスチス肺炎」を登録すると、新着の情報をお知らせします