女性の患者さんが多い性器カンジダ症の具体的な症状と感染時の様子について、日本でもトップクラスの豊富な臨床経験をお持ちの尾上泰彦先生に教えていただきました。
性器カンジダ症の症状のひとつに強いかゆみが上げられます。このかゆみは外陰部や腟部に認められ、かゆさのあまり性器周りにひっかき傷を作ってしまう患者さんも見受けられます。また外陰部において軽いむくみや軽度の赤味を認めることも多いです。
かゆみと並んでよく訴えられる症状としては、帯下(おりもの)の増加と白い腟内容物があります。性器カンジダ症の症状は腟部と外陰部に症状があらわれるため、外陰腟カンジダ症と呼ばれることもあります。検査時に腟内部を観察すると、ヨーグルト状・オカラ状・粥状・酒粕状とたとえられる白い内容物が付着しています。
性感染症の仲間であるトリコモナス腟炎の場合には大量の帯下と臭気を訴えるほか、腟内容物は淡膿性で泡沫状という違いがあります。
そのほかによく訴えられる自覚症状としては、外陰部や腟部にひりひりと焼けつくような痛み、性交痛、排尿障害があります。カンジダの症状をそのまま放置してしまうと、股部や外陰部の炎症の悪化や湿疹の拡大を引き起こし、症状の慢性化につながります。 なお糖尿病と合併したケースやステロイドを使用していた患者さんの場合には、腟部より股部や外陰部に炎症がおきることが多いです。
免疫力の低下やピルの服用なども体にいる菌のバランスを崩すため、性器カンジダ症発症の原因となることがあります。
妊娠中は、プロゲステロンと呼ばれるホルモンが大量に分泌されることにより腟内のpHが酸性に傾くため、カンジダ菌が繁殖しやすい環境になります。低用量ピルには、ホルモンバランスを調整することにより、妊娠している時と同じホルモンの状態にする働きがあります。そのため腟内が酸性になることにより、カンジダ症が発生しやすくなるのです。
こうしたことから、女性は低用量ピルを服用するときには性器カンジダ症を発症しやすくなるリスクがあることをあらかじめ知っておく必要があります。
性器カンジダ症の原因となるカンジダ・アルビカンスは、腟内や口中、腸管など人のからだに存在する常在菌です。健康な方であれば、体に備わっている免疫機能が働くので症状があらわれることはありません。ストレスや病気などで常在菌のバランスが崩れるとカンジダ菌が増殖しやすい環境になるため、カンジダ症を発症しやすくなります。
性器カンジダ症は女性に確認されることが多い疾患ですが、特に妊娠中はホルモンバランスの変化や、悪阻(つわり)などで十分な栄養が摂取できないことがきっかけで免疫力の低下をおこしやすくなるため、性器カンジダ症を発症するリスクが高くなります。
妊娠中に性器カンジダ症を発症した場合の治療方法ですが、異常増殖したカンジダ菌を腟洗浄で洗いながし、腟錠(腟坐剤)や軟膏、クリーム、内服薬など抗真菌薬による治療がおこなわれます。
妊娠36週目以降に性器カンジダ症を発症した場合、分娩時の産道感染を防止するため治療を行います。妊婦が性器カンジダ症のまま赤ちゃんが産道を通ると、産道感染により新生児の口腔内カンジダ菌に汚染されてしまい鵞口瘡(がそうこう)を発症する危険性があります。
エイズの原因となるHIVウイルスを所持していれば、すぐさまエイズ発症ということではありません。HIVウイルスを保持している方が、免疫力の低下により日和見感染症の指標23疾患のうちどれかひとつ以上発症することでエイズ発症と診断されます。
カンジダ症は、このエイズ発症の指標となる病気のひとつです。カンジダ症を含めた日和見感染症とは、加齢による免疫力の低下以外にも免疫抑制剤を使用している、もしくは臓器移植をしたことがある方が発症しやすく、健康で免疫力が低下していない状態ではかかることのない感染症です。
健康な方の身体は免疫機能によって守られているので、性器カンジダ症をはじめとした日和見菌感染症は症状をおこすことはありません。しかし、HIVウイルスに感染して体内の免疫中枢であるCD4リンパ球細胞が破壊され始めると、免疫機能は本来の役割を十分果たすことができません。そのためHIVウイルスに感染すると、性器カンジダ症をはじめとした日和見菌感染を起こしやすくなるのです。
カンジダの症状を引き起こすカンジダ・アルビカンスは、私たちの身体中至るところに存在している常在菌と呼ばれる真菌の仲間です。そのためカンジダの症状は性器以外の部位に確認されることも多いです。性器以外にカンジダの感染を確認されることが多い部位として、口腔内をあげることができます。
口腔内に生じるカンジダ症には「偽膜性カンジダ症」と「萎縮性カンジダ症」がありますが、実際に確認されることが多いのは偽膜性カンジダ症です。偽膜性カンジダ症の特徴としては、口内の舌や唇に線状や点状に白色のコケが生じ、痛みはほとんどありません。このコケを、ガーゼなどを使用してぬぐい取ると、ぬぐい取った部分の粘膜面に発赤やびらんを確認することができます。
かゆみ・白い内容物や帯下の変化など、上記の症状があらわれたら早めに専門医のもとで検査を受けるようにしてください。性器カンジダ症は、性感染症科(性病科)、婦人科、泌尿器科、皮膚科で検査が可能です。
性器カンジダ症の診断は医師による問診、外陰部の特徴、腟鏡診による特徴的所見やカンジダ菌の繁殖状態により総合的に診断されます。
性器カンジダ症のおもな治療薬には、腟洗浄した後に使用する腟錠(腟坐剤)、外陰部等に塗布する軟膏、クリームや内服薬があります。薬による治療期間中に特に心がけてほしいのは局所の清潔と安静ですが、洗いすぎは腟内部のデーデルライン桿菌のバランスを崩してしまう原因となるので洗いすぎには注意してください。
ほかにも刺激の強い石鹸の使用を避け、通気性のよい下着を着用するようにしてください。 性器カンジダ症の治療期間中は性交渉を控えましょう。性器カンジダ症を頻繁に繰り返す方はパートナーの方も検査を行い、検査結果が陽性の際には薬による治療を開始することをおすすめします。
性器カンジダ症の患者の多くは女性ですが、男性に全く症状が出ないということではありません。男性の症状については、次回「写真でみる男性の性器カンジダ症の具体的な症状」のなかでご紹介していきたいと思います。
プライベートケアクリニック東京 院長
尾上 泰彦 先生の所属医療機関
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