自己免疫性肝疾患には、肝細胞が障害される「自己免疫性肝炎(AIH)」、小葉間胆管(しょうようたんかん)が破壊される「原発性胆汁性肝硬変(PBC)」、そして、肝内外の太い胆管に免疫応答が起こる「原発性硬化性胆管炎(PSC)」の3つがあります。本記事では、これら3つの疾患のうち、唯一男性に多いとされる原発性硬化性胆管炎(PSC)の治療法や肝移植時に起こる問題点について、国際医療福祉大学消化器内科教授の銭谷幹男先生にお話しいただきました。
原発性胆汁性肝硬変とは、免疫システムの異常により、肝臓の内外の太い胆管が障害される病気です。自己免疫性肝炎と原発性胆汁性肝硬変(PBC)は女性に圧倒的に多い病気ですが、原発性硬化性胆管炎だけは男性にやや多くみられるという特徴があります。また、日本では発症年齢に若年(20歳頃)と高齢(60歳頃)、2つのピークがあります。なお、欧米ではこのような2峰性の現象はみられません。
そもそも、免疫抑制薬を使用した治療効果がはっきりと得られないため、本当に自己免疫性疾患と呼べるものかどうかも定かではないのです。しかしながら、網羅的遺伝子解析を行うと患者さんからは免疫に関係する遺伝子が出てくるため、免疫学的異常により起こる病気であることは間違いないといえます。
原発性硬化性胆管炎は胆管が障害され、胆汁うっ滞が起こる病気ですから、原発性胆汁性肝硬変(PBC)と同様、かゆみや黄疸といった症状が起こります。
また、原発性硬化性胆管炎は、ほかの2つの病気とは異なり、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患を合併することが多いことで知られています。また、胆管がんの合併も多いため、適切に診断して、その後のフォローアップを行うことが非常に大切になります。その他、3つの自己免疫性肝炎に共通して起こりやすい合併症については、記事6「3つの自己免疫性肝疾患に共通する合併症と、患者さんへのメッセージ」で紹介していきます。
残念ながら原発性硬化性胆管炎に対する有効な治療法は、いまだ確立されていません。
また、今のところ、免疫抑制薬であるステロイドの効果も証明されていません。というのも、原発性硬化性胆管炎は、目に見えるほど太い胆管がメカニカルに壊れてしまう病気だからです。ステロイドは免疫を抑制する作用はありますが、破壊されてしまった胆管を修復することはできないため、原発性硬化性胆管炎の治療には繋がらないのです。
進行した場合の原発性硬化性胆管炎の治療は、肝臓の移植手術が唯一の治療法となります。しかし、原発性硬化性胆管炎の患者さんの肝臓移植には、非常に大きな問題があります。
日本で行われている肝臓移植のほとんどは、生きているドナーの肝臓の一部を移植する「生体肝移植」です。ところが、原発性硬化性胆管炎の場合は、生体肝移植を受けたとしてもその後ほとんどの方が再発してしまい、あっという間に病状が進行してしまう事実が報告されているからです。この理由は、必ずしも明確ではありませんが、生体肝移植でドナーとなる方の多くが患者さんの親類、つまり同じ遺伝的素因を持つ方であることも関与していることが推察されています。原発性硬化性胆管炎を治すためには、全く血の繋がりがない、既に亡くなられた方から肝臓の提供を受ける死体肝移植しか方法がないといわれていますが、日本では欧米に比べて圧倒的に死体ドナーの数が少なく、死体肝移植はほとんど行われていません。これは日本の抱えるひとつの課題であるといえます。
先に原発性硬化性胆管炎の原因はほとんどわかっていないと述べましたが、生体肝移植と死体肝移植による予後の差などの事実をみると、原発性硬化性胆管炎はなんらかの免疫学的素因がある人に起こるものだと考えられます。
国際医療福祉大学大学院 教授、国際医療福祉大学大学院 臨床研究センター 教授、赤坂山王メディカルセンター 院長
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