免疫反応とは、自己の体を正常な状態に保つために、体外から侵入した異物を認識して攻撃することを指します。しかし、この免疫システムに異常が起こり、自分自身の細胞が壊されてしまうことがあります。このような疾患の総称を「自己免疫疾患」といいます。本記事では、肝臓に障害が起こる「自己免疫性肝疾患」(自己免疫性肝炎・原発性胆汁性肝硬変・原発性硬化性胆管炎)とはどのような病気か、国際医療福祉大学消化器内科教授の銭谷幹男先生にお伺いしました。
免疫とは細菌やウイルス(非自己)に対し、自己を守るために働くものであり、通常であれば自分を攻撃するという方向には働きません。本記事で解説する「自己免疫性肝疾患」とは、このような免疫の異常な反応が肝臓に対し起こる3つの疾患、(1)自己免疫性肝炎(AIH)、(2)原発性胆汁性肝硬変(PBC)、(3) 原発性硬化性胆管炎(PSC)の総称です。
肝臓は、全身の臓器の中でも免疫による拒絶反応を起こしにくい特異な臓器です。たとえば、小腸や腎臓などの臓器移植手術後には、拒絶反応を抑えるために免疫抑制薬を用いますが、肝臓移植では免疫抑制薬の投与量が少量で済み、最終的には免疫抑制薬が不要になる場合もあります。また、上記に挙げた拒絶反応を起こしやすい臓器と肝臓を同時移植することにより、移植臓器の生着率が改善する事実も知られています。肝臓は一般には「代謝の臓器」ととらえられていますが、免疫学的にも非常に重要な臓器なのです。
たとえば、食事をとると胃腸で吸収された栄養素は門脈を通ってまず肝臓へと流入します。体外から取り込んだものは全て「異物」なので、本来であれば免疫反応が起こるはずですが、皆さんも日々食事をされていてわかるように、異物に対する免疫反応は起こりません。このように、侵入してきた異物に対する免疫応答が強くない(非自己の物質を攻撃しにくい/共存しやすい)ことを医学の世界では「免疫寛容がある」という言葉で表現しており、肝臓は免疫寛容な臓器であるといえます。
上述のように、本来免疫寛容な臓器(免疫反応が強くない臓器)である肝臓が自己免疫により障害されるということは、他の免疫力が強い臓器の自己免疫疾患に比して考えると「大変なこと」なのです。
また、自己免疫性肝疾患とは異なる代表的な肝疾患に「ウイルス肝炎」がありますが、実は肝炎ウイルス自体には肝臓の細胞を破壊する障害性はありません。ウイルス肝炎における肝細胞の破壊は、ウイルスに対し免疫応答が起こることによるものなのです。つまり、自己免疫による肝細胞障害機序(メカニズムのこと)がわかれば、ウイルス肝炎における肝細胞障害機序も解明できる可能性が高いのです。
このような理由から、肝臓の免疫システムを解き明かすことは非常に重要であると考え、日々自己免疫性肝疾患を患う患者さんの診察に従事してまいりました。また、10年以上にわたり患者さんの会にも参加し、肝疾患病態の啓蒙を心がけてまいりました。
(1)自己免疫性肝炎(AIH)、(2)原発性胆汁性肝硬変(PBC)、(3)原発性硬化性胆管炎(PSC)、この3つの自己免疫性肝疾患のメカニズムはいまだ解き明かされていませんが、患者さんは、症状や薬への反応などにより我々医師にそのヒントを与えてくれます。そのため、医師は患者さんの出す様々なサインを見逃さないよう心掛けることが大切です。次の記事以降では、3つの疾患それぞれの症状やかかりやすいと考えられる人、治療法について詳しく解説していきます。
国際医療福祉大学大学院 教授、国際医療福祉大学大学院 臨床研究センター 教授、赤坂山王メディカルセンター 院長
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