自己免疫性肝疾患とは、(1)自己免疫性肝炎(AIH)、(2)原発性胆汁性肝硬変(PBC)、(3) 原発性硬化性胆管炎(PSC)、3つの疾患の総称です。本記事では、中年以降の女性に多く、ステロイドによる治療が有効といわれる「自己免疫性肝炎」について、国際医療福祉大学消化器内科教授の銭谷幹男先生にご解説いただきました。
慢性に経過する肝炎である「自己免疫性肝炎」(Autoimmune hepatitis: AIH)とは、免疫システムに異常により肝細胞が破壊される病気です。
原因不明の疾患として知られていますが、遺伝子解析が行われるようになったことで、どのような体質の人(どのような遺伝子を持っている人)が自己免疫性肝炎を発症しやすいか、わかるようになってきました。
明確な原因遺伝子を特定するまでには至っていませんが、日本人の自己免疫性肝炎の患者さんにはHLA-DR4という遺伝子を持っている方が圧倒的に多いことがわかっています。(約6割の症例でHLA-DR4陽性)このHLA-DR4は、リウマチのリスクファクターとしても知られています。欧米ではHLA-DR3という遺伝子もリスクファクターとされていますが、日本人にはHLA-DR3を持っている人はほとんどいません。同じ自己免疫性肝炎でもHLA-DR4とHLA-DR3によるものでは病態(その疾患の状態)に違いがあり、前者は症状もマイルドで進行もしにくいという特徴があります。また、下段で述べるステロイド治療の効果も高いため、日本の自己免疫性肝炎は欧米の自己免疫性肝炎に比べ、軽度かつ治療しやすいのです。
自己免疫性肝炎の患者さんは、過去の統計に基づき推定すると全国におよそ10,000人ほどいると考えられます。近年患者数は増加傾向にありますが、これは診断数が増えたことによるもので、疾病頻度が増加したものではないと考えられています。かつてC型肝炎という疾患が発見されていなかった頃には、同じ原因不明の肝炎である自己免疫性肝炎を的確に診断することは難しいものでした。しかし、検査法や技術、医学の進歩によりC型肝炎を診断することができるようになった今、原因不明の肝細胞の障害がみられる肝疾患は自己免疫性肝炎か薬剤性肝障害の2種類が強く示唆されることとなり、結果として自己免疫性肝炎の診断数は増加することとなったのです。
自己免疫性肝炎は、適切な治療を行わなければ肝硬変や肝不全へと進行しやすく、また、再燃の繰り返しは肝硬変進展を促進し、肝がんの合併など、予後不良となる危険性があります。ただし、自己免疫性肝炎には副腎皮質ステロイド(主にプレドニゾロン)がよく効くため、適切に治療を受けていれば経過はおおむね良好であり、生存期間も健康な方とほとんど変わりありません。
しかし、副腎皮質ステロイドには骨粗しょう症を引き起こしやすいなど、比較的重い副作用があるため、医師は注意しながら薬を処方せねばなりません。副腎皮質ステロイドはあくまでも病態を調節しているだけで、病気の原因を直接除いているわけではない点に注意が必要です。従って、副腎皮質ステロイド服用は服用量の軽減はありますが、継続が原則で、不用意な中断、中止は病態の再燃、増悪につながります。患者さんには自己判断で薬を中止したり減量することがないよう気をつけていただかねばなりません。
自己免疫性肝炎は、一般に慢性に経過するものとして知られています。ところが、最近では急性型の自己免疫性肝炎の例もみられるようになりました。急性型の自己免疫性肝炎は従来の慢性型の特徴を全く示さないという特徴があります。自己抗体も出さず、門脈壁の細胞浸潤もない、非常に特殊な病態です。日本で重症化といわれる劇症肝炎や急性肝不全を起こした症例のうちの何割かは、自己免疫性肝炎に基づくものと考えられていますが、ほとんどの場合は診断が困難で、その結果治療が遅れてしまい死亡に至っています。ですから、急性型の自己免疫性肝炎を早期診断できるよう注力することは、今非常に重要視されはじめています。これに関しては、1年前に厚労省との班会議で、「自己免疫性肝炎が疑われた場合は、必ず重症度を診断すること」という指標を作成しました。これが、今後の急性型の自己免疫性肝炎の早期診断と適切な治療に繋がることを期待しています。
国際医療福祉大学大学院 教授、国際医療福祉大学大学院 臨床研究センター 教授、赤坂山王メディカルセンター 院長
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