概要
原発性硬化性胆管炎(Primary Sclerosing Cholangitis:PSC)とは、肝臓の内外の太い胆管が障害されて胆汁がうっ滞(流れが悪くなり、とどこおってしまうこと)し、肝臓の働きが悪くなる病気です。原発性硬化性胆管炎は、何らかの免疫学的異常により引き起こされると考えられています。
2007年、主に成人を対象に行われた疫学調査では、日本における患者数は約1,200人にのぼると推定されており、その数は世界的にみても増加傾向にあると考えられています。
男性にやや多く認められ、発症年齢は若年(20歳頃)と高齢(60歳頃)に2つのピークがみられますが、10代の子どもに発症することも珍しくありません。自己免疫性肝炎(AIH)や原発性胆汁性肝硬変(PBC)といった他の自己免疫性肝疾患とは異なり、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患を合併することが多いという特徴があります。
原因
肝臓では脂肪分の消化・吸収に必要不可欠である胆汁がつくられます。1日におよそ1リットルつくられる胆汁は、肝臓内の細い胆管を通って胆嚢に蓄えられて濃縮された後、太い胆管を通って十二指腸へと分泌されます。原発性硬化性胆管炎の患者さんは、肝内外の太い胆管が障害されて胆管がせばまり、胆汁のうっ滞が引き起こされます。
何らかの免疫学的異常により、胆管が障害されると考えられていますが、免疫抑制薬を使用した治療効果がはっきりと得られないため 、本当に自己免疫性疾患と呼べるものかどうかは定かではありません。
しかし、患者さんの検体を用いた網羅的遺伝子解析からは免疫に関わるさまざまな遺伝子が発症に関わる可能性があると考えられており、今後さらなる詳細な検討が必要とされています。潰瘍性大腸炎をはじめとする炎症性腸疾患を合併する頻度が高いことから、発症に何らかの関わりがあるものと推察されています。
症状
初期には自覚症状がないことも多く、健康診断などをきっかけに指摘されることも珍しくありません。また原発性硬化性胆管炎の患者さんでは、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患を合併する例が多いことも知られており、それに由来する腹痛、下痢、血便、発熱などの症状をきっかけとしてみつかることもあります。
症状が進行すると、胆汁のうっ滞が生じることに伴い、皮膚の搔痒感(かゆみ)や黄疸が認められます。また、発熱や腹痛を伴う胆管炎を合併することもあります。
さらに肝障害が進行して機能が低下し肝硬変へと進展すると、それに伴う症状がみられるようになります。具体的には、腹部膨満感(腹水)や食道・胃静脈瘤・肝性脳症などが挙げられます。長期間にわたる胆管の炎症に伴い、胆管がんを合併することも比較的珍しくありません。
検査・診断
原発性硬化性胆管炎では、肝機能を調べるために血液検査が行われます。血液検査では、肝臓内の胆汁うっ滞を反映してアルカリホスファターゼ(ALP)やγGTPといった胆道系の酵素が高値を示します。
しかし、同様に胆管が障害される原発性胆汁性胆管炎とは異なり、特徴的な自己抗体はみつかっていないため、画像検査の所見も重要となります。具体的には、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影法)やMRCP(磁器共鳴胆管膵管撮影法)を行い、胆管の数珠状変化など原発性硬化性胆管炎に特徴的な形態が認められるかを確認します。また、肝臓に針を刺して組織を採取して検査を行う肝生検が必要になる場合もあります。
治療
現在(2017年時点)のところ、原発性硬化性胆管炎に対する有効な治療法は確立されておらず、根本的な治療としては肝移植が唯一の治療法となります。症状の改善を目的とした薬物療法が行われていますが、その有効性については議論されているところです。日本においては、胆汁排泄を促す薬が使用される場合が多いです。また、病態に応じて脂質異常症の治療薬が使用される場合もあります。
胆管に強い狭窄(せばまること)が認められる場合には、内視鏡による胆管拡張治療が行われることもあります。進行して肝不全に陥った場合には、肝移植が唯一の治療法となります。
現在(2017年時点)日本で実施されている肝移植のほとんどは、生体肝移植(生きているドナーの肝臓の一部を移植すること)です。しかし、原発性硬化性胆管炎の患者さんでは、生体肝移植を受けた場合に再発する頻度が高いことが問題となっています。
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