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大腸がんの早期発見・診断のために――原因からみる予防・検診の重要性

大腸がんの早期発見・診断のために――原因からみる予防・検診の重要性
生形 之男 先生

複十字病院 消化器外科 副院長

生形 之男 先生

目次
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この記事の最終更新は2019年04月26日です。

大腸がんは、日本で非常に患者数の多いがんのひとつです。がんが進行すると血便や下血、下痢・便秘などの症状が現れますが、症状を自覚したときには手術で完治が不可能なほど状態が悪化していることもあります。大腸がんを早期に発見するためには、年に一度は大腸がん検診を受けることが大切だといわれています。大腸がんの原因や症状、予防法について、複十字病院副院長の生形之男先生にお話しいただきました。

大腸がんは、日本で非常に患者数の多いがんのひとつです。年齢別にみると、40歳代から増加し始め、高齢になるほど罹患率が高くなります。国立がん研究センターによる2018年の統計予測によると、全てのがんのなかで、大腸がんの罹患数は、男性女性ともに2位であり、死亡数においては、男性で3位、女性では1位になっています*。

また、大腸がんの生存率は、どの段階でがんを発見できるかによって大きく変化します。早期がんの段階(ステージ1以下)で発見できれば5年生存率は97%を超えますが、進行がんの段階(ステージ4)で発見した場合の5年生存率は20%にまで低下します*。大腸がんは、発見時期によって、生存率に大きな差が出る病気であることを知っていただきたいです。

*全国がんセンター協議会の生存率共同調査(2018年6月集計)による

大腸は、大きく結腸と直腸に区分されており、小腸に近いほうから順に盲腸・上行結腸・横行結腸・下行結腸・S状結腸といいます。そして、S状結腸から肛門までの約20cmの部分を直腸といいます。大腸のどの箇所にがんが発生したかによって、大腸がんは、大きく結腸がんと直腸がんの2つに分類されます。さらに、結腸がんは、盲腸がん・上行結腸がん・横行結腸がん・下行結腸がん・S状結腸がんの5つに分かれます。部位別に発生割合を調べると、S状結腸がんと直腸がんだけで、大腸がん全体の約7割を占めます。

直腸がんと結腸がんでは、がんの進行速度に大きな違いはありません。ただし、直腸がんは、結腸がんに比べて肺に転移を起こしやすい傾向があります。また、肛門に近い部分(下部直腸)に直腸がんが発生した場合、がんが進行すると人工肛門の設置をしなければならないリスクが高いとされています*

*最近では術式の改良により、肛門付近の直腸がんに対して、肛門温存手術が行われるケースも増えてきています。

一般的には、以下のような症状が現れます。

  • 血便
  • 下血(腸で起こった出血が肛門を通して外に出てくる)
  • 下痢・便秘
  • 残便感
  • 鼓腸(腸にガスが溜まってお腹が張る)
  • 腹痛
  • 貧血
  • 体重減少

しかし、こうした症状が出る頃には、すでにがんが進行してしまっているケースがほとんどです。

早期がんの場合は、血便の症状があったとしても、便の色に大きな変化がみられるわけではありません。食事によって赤みを帯びた便が出ることもあるので、一般の方がご自身で血便に気づくことは難しいでしょう。はっきりとした出血が確認できるほどの血便がみられた場合は、大腸がんではなく、の可能性もあります。

一般的には、鮮やかな色の血の場合は痔核(いぼ痔)、赤黒い色の血の場合は大腸がんの可能性が高いといわれていますが、例外もあります。便の状態のみで鑑別することはできないので、早めの受診を推奨します。

受診の際には、あらかじめスマートフォンなどでご自身の便を撮影しておき、その写真を医師に見せると、診断の手助けになります。

ベーコンやハムなどの加工肉の過剰摂取は、大腸がんの発症リスクを高めることが知られています。

ベーコンやハムなどの加工肉には、肉の発色をよくするための「亜硝酸ナトリウム」という食品添加物が一般的に使用されています。この亜硝酸ナトリウムが肉に含まれる「アミン」という物質と反応して、発がん物質であるニトロソアミン類に変化することがあります。加工肉を通じてこのような発がん物質を過剰摂取することで、大腸がんが発症しやすくなる恐れがあります。

赤身肉を食べると、ヒトの体ではさまざまな反応が起こります。動物性脂肪を消化するために生成される二次胆汁酸、肉に含まれるヘム鉄による酸化作用、腸内で生成される内因性ニトロアミン化合物などは、発がん性を高めると考えられていますが、過剰に摂取しない限りは大腸がんのリスクになることはありません。

また、調理過程で焦げが発生した場合、焦げた部分に含まれるヘテロサイクリックアミンという物質にも、発がん性があることが指摘されています。とはいえ、一般的な食生活の範囲であれば過剰摂取にはならないので、心配しすぎる必要はありません。

運動不足は肥満を招くだけではなく、腸管の動きを低下させます。腸管の動きが低下することによって、便が腸を通過する時間も長くなります。発がん物質が含まれている便が大腸に長くとどまると、大腸が発がん物質に晒される時間も長くなります。つまり、腸管の動きの低下は、大腸がんのリスクを高めることになります。

リンチ症候群や家族性大腸腺腫症など、遺伝的な要因によって大腸がんを発症する場合もあります。しかし、その確率はごくわずかです。むしろ、家族歴がなくても、食品添加物の過度な摂取や運動不足といった生活習慣をお持ちの方のほうが、大腸がんになりやすいといわれています。

一般的に、食物繊維を適度に摂取することは、大腸がんの予防に一定の効果を示すと考えられています。これまでの研究により、食物繊維摂取量の非常に少ない方は、大腸がんの発症リスクが高い可能性があることが明らかにされています。では、なぜ食物繊維が大腸がんの予防に効果的なのでしょうか。

人が食事を摂ったとき、食べ物に含まれる脂肪を消化するために、肝臓で胆汁酸*が分泌されます。小腸で吸収されなかった一部の胆汁酸は大腸に到達して二次胆汁酸へ変換されます。この二次胆汁酸には毒性が含まれており、大腸がんを促進する作用があることが知られています。

野菜や果物などに含まれる食物繊維には、一次胆汁酸が二次胆汁酸に変換することを阻止するはたらきがあります。つまり、食物繊維を多く摂取することで、体内の二次胆汁酸の増加を防ぎ、大腸がんの発症促進を抑えることが期待できると考えられます。

また、食物繊維には便量を増やして便通を改善する作用もあります。便通の改善によって、便の大腸通過時間を短縮できれば、大腸が発がん物質にさらされる時間を減少させることができます。

ただし、食物繊維を過剰に摂取する必要はありません。食物繊維を摂取しすぎると下痢や消化不良を招くため、1日あたりの摂取量は一般的な推奨量にとどめましょう。

*胆汁酸…胆汁に含まれる酸で、主に肝臓でコレステロールから合成される。食物から摂取した脂肪を微粒子に分解して吸収を促進するはたらきを持つ。

運動不足は、腸管のはたらきを低下させ、肥満の原因にもなります。大腸がんの予防のためには、適度な運動を行って、腸管のはたらきを促進することが大切です。

一般的には、1日1時間以上の歩行、なおかつ週に1回以上は汗をかく程度の運動が推奨されています。

大腸がんを早期に発見するには、大腸がん検診を受けることが有効です。症状の有無にかかわらず、40歳を過ぎたらがん検診を受けることが望ましいと考えます。

大腸がん検診では、対策型検診*として便潜血検査が行われます。40歳以上の方であれば、年に一度、自治体の補助を受けて検査を受けることができます(自己負担額は自治体によって異なります)。

便潜血検査は、大腸内視鏡検査に比べて精度が低いものの、大量の下剤を飲む必要がないので、副作用や合併症が起こる心配もありません。どなたでも気軽に受けることができます。

*対策型検診…公共的な予防対策として行われるがん検診のこと

大腸がん検診では、任意で大腸内視鏡検査*を受けることも可能です。便潜血検査に比べて検査精度が高く、より確実に大腸の状態を調べることができます。しかし、検査には肉体的負担や、吐き気やめまいアレルギー症状などの偶発症といったリスクを伴います。また、検査費用は、便潜血検査に比べて高額となります**

*大腸内視鏡検査については、記事2『大腸がんの検査・治療(内視鏡治療・外科手術)における複十字病院の取り組み』で詳しくご説明しています。
**費用は自治体や検診実施施設によって異なります。

冒頭で解説したように、大腸がんは日本で罹患数が多いがんのひとつです。誰もがかかる可能性のある病気であるからこそ、検診をきちんと受けることが大切だと考えます。1年に一度のペースで便潜血検査を受けてください。また、5年に一度は大腸内視鏡検査を受けることをおすすめします。

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