インタビュー

子宮腺筋症の手術―手術を受けた後の妊娠は可能?

子宮腺筋症の手術―手術を受けた後の妊娠は可能?
片渕 秀隆 先生

くまもと森都総合病院 特別顧問

片渕 秀隆 先生

この記事の最終更新は2017年10月02日です。

記事1『子宮腺筋症の症状や治療―激しい月経痛や過多月経が続いたら要注意!』では、子宮腺筋症の症状、診断、治療法についてお伝えしました。子宮腺筋症はホルモン療法などの保存的治療では根本的に治すことはできず、治癒に近づけるためには手術が必要です。子宮腺筋症で用いられる手術の種類や手術の選択法、手術後の妊娠などについて、引き続き熊本大学大学院生命科学研究部産科婦人科学 教授 片渕 秀隆先生にお聞きしました。

  • 手術は子宮全摘出術と子宮腺筋症縮小手術の2種類
  • 子宮腺筋症縮小手術で子宮を残した場合、子宮腺筋症が再発するリスク
  • 子宮腺筋症縮小手術を受けた場合、妊娠の可能性は残るが、流産早産子宮破裂のリスクもある

子宮腺筋症を完全に治すには子宮全摘出術が最も有効な方法です。しかし、近年の晩婚化・晩産化の傾向のなかで、子宮の温存(子宮自体を残す方法)を希望する患者さんが増えています。そこで、子宮腺筋症縮小手術という子宮腺筋症の病巣のみを可能な限り取り除く方法が開発されました。ただし、子宮腺筋症の中でも子宮全体に腺筋症が広がっているタイプでは手術は困難で、一般に腺筋症の病巣が子宮の一部にとどまっている場合に適応となります。

子宮体部の筋組織内に複雑に入り込んだ腺筋症の病巣は、正常な子宮壁の筋層との境界が明らかでないため、病巣のみの摘出は難しいといわれていました。しかし、MRI検査による画像所見と手術時の触診により、正常な部分と病巣の境界をより明確にすることができるようになりました。さらに、高周波切除器が登場したことにより、複雑に入り込む子宮腺筋症の病巣を比較的容易に取り除くことができるようになりました。

子宮全体に腺筋症が広がっているタイプではこの方法を実施することが難しく、治療を受けることのできる医療機関は限られています。また、この方法は妊孕性(妊娠する可能性)を残す手術法であり、不妊症不育症の原因として腺筋症が考えられる場合に用いられるものです。手術後に体外受精―胚移植(IVF-ET)生殖補助医療技術(ART)を用いることで、妊娠・出産を実現させることが期待されます。

子宮腺筋症縮小手術は高周波切除器を用いる場合を含め健康保険の適用にはなっていません。いずれも腺筋症の病巣を可能な限り切除するという手術内容に変わりはないのですが、高周波切除器を用いた治療法は先進医療として認定され、保険診療と併用できるようになっています。

子宮腺筋症縮小手術で子宮を残した場合は、子宮腺筋症が再発するリスクが残ります。一方、子宮全摘出術ではその心配はありません。

よく「子宮を取ると更年期の症状が早く出るのではないか」と心配する方がいらっしゃいますが、それは事実ではありません。子宮全摘出術は、基本的には子宮のみを摘出するものであり、女性ホルモン(卵胞ホルモン〔エストロゲン〕と黄体ホルモン〔プロゲステロン〕)を分泌する卵巣は少なくとも片方は残します。更年期の症状はこの女性ホルモンが減少することで発生するものですが、卵巣の一部が残されていれば、ホルモンが急激に失われて更年期症状が早く出るとか重くなるなどの心配はありません。子宮は女性にとってかけがえのない大切な臓器ではありますが、生命維持に直接関わるものではありませんから、子宮を失うことで日常生活に支障をきたすことはありません。

妊婦

妊娠の可能性を残すために子宮腺筋症縮小手術を受けた場合、妊娠の可能性はどの程度あるのか気にされる方も多いことでしょう。

熊本大学医学部附属病院では、この手術を1980年代後半から導入し、手術を受けた患者さんの40~50%が、手術後に自然あるいは体外受精―胚移植(IVF-ET)をはじめとした生殖補助医療技術(ART)などを用いることで妊娠されています。

子宮腺筋症の患者さんは、子宮の内側にある子宮内膜自体は正常であることが多いため、このような手術を受けなくても妊娠することがあります。しかし、子宮腺筋症の病巣が子宮の伸展性(伸び広がりやすさ)を妨げるため、子宮内の胎児の発育にあわせて子宮が大きくなっていくことが難しくなります。その結果、流産早産のリスクが高まるとともに最悪の場合は子宮が破裂することもあります。

子宮腺筋症縮小手術を受けた場合もこのようなリスクは残り、特に熟練した技術を伴わない手術を受けた場合や手術後の管理が良好でない場合は問題となります。

社会における女性の活躍が当たり前のこととなり、結果として晩婚化や晩産化が進みました。これは子宮腺筋症があっても子宮を残し、将来妊娠したいという希望を持つ女性が増えることにつながります。私たち産婦人科医も子宮腺筋症=子宮全摘出という以前の治療に対する考え方を変えることになり、どうにかしてこの希望に応えることはできないかと、子宮を残す治療法を研究・開発してきました。

しかし、現在の子宮を残す治療法は腺筋症を完治(完全に治癒)させるものではありません。多かれ少なかれ腺筋症の再発のリスクや妊娠・出産時の様々なリスクが生じます。中でも早産の場合は、NICU(新生児特定集中治療室)での管理が進歩した現在にあっても赤ちゃんに後遺症が発生することがあります。

現状では、子宮腺筋症を抱えたままで妊娠・出産をする場合の危険性を確実に回避できる医療技術はありません。子宮腺筋症の患者さんが妊娠を希望される場合は、ご自分の病気を十分に理解したうえで、妊娠に至るまで、そして出産に至るまで、十分な治療と管理が継続して提供できる専門の医療機関(産婦人科)と医師を受診してほしいと思います。

実際に、子宮腺筋症がありながら他院で不妊治療を受け、その後早産などの危険が迫って初めて私たちの施設に搬送されてくる例があります。患者さんに正しい情報を十分に伝えていない医療側の責任もあります。同時に、子宮腺筋症が患者さん自身や赤ちゃんにも危険が及ぶものであることから、待ち望んだ幸せに満ちた出産や育児のためには、患者さんも自らこの病気についての正しい情報を直接、専門の医師から聞いて、理解を深めていただきたいと思います。

子宮腺筋症が疑われる症状をお持ちの方は、子宮腺筋症を多く診療している産婦人科医師のもとで診断と治療を受け、特に妊娠を希望する場合にはご自身が納得できるまで医師に相談してください。さらに、手術を受ける場合は、子宮腺筋症縮小手術について十分な知識と経験を持つ熟練の医師のもとで治療を受けることを強くお勧めします。

 

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