尋常性天疱瘡は非常に稀な疾患であり、ほとんどの方がその病気の特徴はもちろん、どのような治療をするのか想像できないのではないでしょうか。尋常性天疱瘡は自己免疫疾患の一種であり、その反応を抑えることが治療のポイントとなります。具体的にはどのような治療が行われるのでしょうか? 自己免疫疾患研究のトップランナーであり慶應義塾大学医学部皮膚科教授の天谷雅行先生にお話をお聞きしました。
尋常性天疱瘡は放っておくと命の危機を生じる重大な病気です。現在の主な治療薬であるステロイドがない1950年代以前には、2年後の生存率がほぼゼロともいわれていました。しかし、現在はステロイドによる治療が確立されてきており、ステロイド療法を行った場合は平均余命が正常人とほとんど変わらないくらいまでになってきています。
尋常性天疱瘡の治療はステロイドによる治療を中心として、その他に免疫抑制剤・血漿交換・免疫グロブリン大量療法などがあります。
治療はステロイド薬を高用量投与することが基本であり、今の主要な療法です。
ステロイドは1950年ごろから膠原病のひとつ・全身性エリテマトーデス(SLE)の患者さんに対して投与されるようになり、その効果が認められたことから天疱瘡の患者さんにも使われ始めました。ステロイドは細胞膜を容易に通過し、細胞の状態を短時間・短期間の間に変える作用を持っていて、非常に即効性のある、強力な抗炎症作用をもつ免疫抑制剤です。
天疱瘡の場合は、長期に渡ってステロイドを投与する必要があります。ステロイドの長期投与による合併症(糖尿病や骨粗しょう症など)は多々指摘されていますが、それでも天疱瘡の患者さんに対してステロイドを使わない手はありません。しかし副作用があることも確かであるため、医師はいかに副作用を出さずにステロイドを投与するか、スケジュールを組むかを考える必要があります。症状が緩和されていくにしたがって、少量のステロイドによる治療に切り替え、寛解を目指します。
重症の尋常性天疱瘡の場合、血漿交換による治療を行う可能性があります。血漿交換とは、血液から抗体(IgG)をろ過してしまうというもので、血漿アフェレーシスともいいます。これによって有害な物質(この場合はデスモグレインを攻撃するIgG抗体)が血漿から取り除かれます。血漿交換は尋常性天疱瘡の他、重症筋無力症やギランバレー症候群、血栓性血小板減少性紫斑病などの治療にも用いられます。
前述したように、ステロイドによる治療は効果も高いものの、免疫抑制以外の様々な作用をも同時に引き起こしてしまいます。そのため免疫細胞だけに作用し、他の臓器への支障が限られている分子標的療法による治療が望まれてきました。
そこで現在、日本で研究が進められているのがリツキシマブという抗体製剤です。リツキシマブは現在の日本においてB細胞リンパ腫に対する抗がん剤として使用されていますが、抗体のもとを作るB細胞だけを標的とするため、欧米では天疱瘡に対しても用いられ、その効果が報告されています。効果はステロイドのように即効性こそないものの、新しくつくられるB細胞すべてに働きかけるため、その有効性は高いといえます。
リツキシマブ単独での使用は現在検討していないものの、将来的にリツキシマブが日本でも自由に使えるようになれば、ステロイドの投与期間を短くしたり、ステロイドの初期投与量を少なくしたりすることが可能となるでしょう。
また、リツキシマブによる天疱瘡の治療が日本においても認可されるようになれば、天疱瘡の治療は大きく変わることになり、患者さんの負担も大きく減ると予測できます。私たち慶應義塾大学を含めた他施設共同研究グループではできるだけ早い時期にリツキシマブの適応取得を目指して、現在開発を進めている段階です。
慶應義塾大学大学院医学研究科 皮膚科学 教授
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