概要
悪性外耳道炎とは、外耳道に緑膿菌などが感染することによって炎症が生じる病気です。頭蓋底骨髄炎または壊死性外耳道炎とも呼ばれます。緑膿菌以外にも、真菌やMRSAなどが原因となることもあります。いずれも炎症の程度は非常に重度であり、強い痛みを伴います。
炎症が外耳道周辺の組織にまで広がり、側頭骨の骨髄炎を生じるのが特徴で、しばしば骨破壊を伴います。さらに進行すると、頭蓋骨の底部である頭蓋底にも炎症が波及することがあります。これらの部位には脳神経が通っているため、神経が障害を受けることでさまざまな神経症状が現れます。
治療が難しく、抗生剤が進歩した現代においても死に至ることのある重篤な感染症のひとつです。女性よりも男性に多く発症し、患者さんの約80%は糖尿病に罹患しているとされています。HIV感染者や免疫抑制剤使用者にも発症することがあり、免疫力の低下が発症に関与していると考えられています。
原因
外耳道に緑膿菌などが感染することが原因です。典型的には緑膿菌によるとされていますが、アスペルギルスやMRSAを含む黄色ブドウ球菌、プロテウス属の細菌など緑膿菌以外が原因となる例も報告されています。
また、発症には免疫力の低下が関与していると考えられており、発症者の約80%が糖尿病に罹患しているとされています。同じく免疫力が低下した状態にあるHIV感染者や免疫抑制剤使用者の感染例も報告されています。
症状
悪性外耳道炎では、非常に重度な外耳道の炎症が生じ、進行すれば中耳や内耳にも広がります。徐々に周りの組織や骨に炎症が広がって、骨や神経を破壊しながら進行していくのが特徴です。
初発症状は強い耳の痛み、耳垂れ、外耳道の腫れ、発熱などです。炎症が中耳や内耳にまで及ぶと、難聴や耳鳴り、めまいなどの症状が生じます。外耳道の感染部位に肉芽ができることもあり、この場合は耳閉感を伴うことが多いです。
炎症が顎関節周辺へ広がると、顎関節部に腫れや痛みが生じ、口が開きにくくなります。顎関節から側頭骨、頭蓋底に炎症が及ぶと、その部位を通過する顔面神経や舌咽神経、迷走神経などのさまざまな脳神経が障害されます。その結果、顔面神経麻痺などの神経症状が現れます。さらに、炎症が頭蓋内に及ぶと、髄膜炎や脳膿瘍を生じ、意識障害やけいれんなどが引き起こされることもあります。
検査・診断
悪性外耳道炎は臨床症状と、培養検査や画像検査などの諸検査により診断します。
耳鏡検査
光源付ペンスコープ型耳鏡を用いて外耳道の腫れや発赤、肉芽形成などの状態を観察します。また、鼓膜まで炎症が波及していないかを観察することが重要です。
画像検査
レントゲン検査やCT検査が行われ、周囲の骨破壊や膿瘍の形成などを確認することができます。また、上咽頭や頭蓋内のがんなどとの鑑別をすることも可能です。
培養検査
耳垂れを培養し、原因となる菌の特定を行います。菌の特定は、適切な抗生剤を選択するうえでも非常に重要です。
病理検査
悪性外耳道炎と類似した症状を示す外耳道がんや中耳結核との鑑別を行うために、外耳道に形成された肉芽や皮膚の組織を採取して顕微鏡で観察します。
血液検査
炎症反応などの全身状態を評価するために行われます。
治療
原因となる菌に適した抗生剤が投与されます。また、糖尿病など免疫力を低下させる原因がある場合にはその管理が厳重に行われます。
通常は6週間以上の抗生剤の投与が必要となります。抗生剤の点滴で炎症を制御できない場合には、抗生剤を動脈に直接注射する動注療法が有効であるとの報告もあります。
その他にも、高圧酸素療法や直接チューブを挿入して排菌を促すドレナージ療法、抗生剤入りの点耳薬による治療が併用されることがあります。
外耳道に大きな肉芽が形成された場合や、外耳道の皮膚や粘膜が壊死しているような場合には、それらを取り除く手術が行われることもあります。しかし、手術によって病原菌を他部位にまで広めてしまうとの意見もあり、手術の適応は全身状態や病変の状態を正しく評価したうえで慎重に判断する必要があります。
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